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第2話 この転生、なんだか世俗的な欲望に満ちている......。

「えっ? あとどれくらい調べるんですか?」


俺はあくびをし始めた。

さっき女神が二枚目のタブレットを渡してきたけど、

画面の作りはかなり安っぽい。


しかも読み込み速度まで遅い。

そのニュースを開くだけでも、画像の表示にずいぶん時間がかかった。


俺は手持ち無沙汰になって、別のことを探し始めた。

その間に、百万字の小説を二冊も読み終えてしまった。


「えっ!」


「自己紹介するわね。

私はティフスネ。

『呪い』と『和解』を専門にしてるの!」


「検索結果二万ページ分も、やっと最後の一ページよ。

気になることがあったら、何でも聞いていいからね!」


女神は平板を真剣に滑らせていた。

口調は落ち着いているのに、少し泣きそうな声だった。


「俺は玉刻元二郎です。

それで、どうして僕はここに来たんですか?」


「あなたは倒れる直前、

とても強い意識を生み出したの。

その力が、冒険者に向いた性質だったのよ......。」


「だから、ここに召喚されたの!」


「冒険者?

さっきは『一般民眾』だって言ってませんでした?」


「そうよ。あなたは冒険者よ!」


ティフスネは平板を置いた。

顔には絶望が浮かんでいたが、それでも無理に笑っていた。


「うう、返品できる条文が見つからないの……」


今、彼女は「返品」って言ったか?

俺は人間ですらないのか?


「それで、冒険者の手続きって何なんです?

さっき、俺は目を覚ませるって言ってましたよね?」


「抗議文は返事まで少しかかるの。

だから先に、後の質問へ答えるわね」


「ええ。あなたの体は今、病院の集中治療室にあるわ。

人工呼吸器をつけたまま、治療を受けているの。」


「目が覚める代償はあるんですか?」


「あるわよ。ちょっと待ってね。

玉刻さん、ほかの保険には入っていなかったでしょう?」


俺はうなずいた。

入っていたのは、最低限の国民保険だけだったからだ。


「玉刻さんが完全に回復して、職場に戻るには最低でも五年。

下半身麻痺だから、長いリハビリも必要になるわ......。


その間にかかる費用は、一千万よ!!」


「麻痺?

いっ……一千万?」


竹輪で起きた事故が......そんな高額になるのか!?


「それから最初の質問だけど、あなたたちを冒険者として召喚したのは、

玄離大陸にある『夢幻泡影』の迷宮を処理してもらうためよ!」


「その拡大を止めるか、

あるいは攻略して核を壊せばいいの。」


「そうすれば天神たちが、

とてもいい報酬を与えてくれるわ!」


「どんな報酬なんです?」


女神はすぐに画面を開いた。

数秒だけ真剣に確認してから、顔を上げた。


「あなたの場合は、宝くじの高額当選よ。

それで医療費を返せるし、副作用なしで職場復帰もできるわ!」


「それに、十年早く引退できるの。」


「悪くないですね。

法定の定年が六十五歳なら、五十五歳で楽に暮らせますし!」


女神は平板を見ながら眉をひそめた。

それから、急に哀れむような目で俺を見た。


「えっと?

十年早い場合でも……六十五歳なの。つまり、あなたは……」


「返品ボタン、見つけにくいんでしょう?

俺も探します。早く戻って、俺の人生も返品したいです!」


「そんなボタンはないわ!

もう探したもの......。」


「さっきずっと探してたの、それですか?

でも……神なら強いんですよね?


どうして自分で、その迷宮を消さないんです?

やっぱり神はこの世界に直接干渉できない、とかですか?」


「違うわ。

私なら今すぐ行って、飽和攻撃で迷宮ごと吹き飛ばせる!!


あれ、半径数十キロしかないもの。

一分あれば片づくわ!」


女神は黙って、横から大きな清酒の瓶を取り出した。

そして何口か一気に飲んだ。


というか、さっきまで酒瓶なんて見えていなかった。

あんな大きい物、どこから生えてきたんだ?


「でも結果は反応なし。

周囲はただの更地なのに、迷宮の歪んだ空間はまったく傷つかなかったの。


それで警戒しながら中に入ったら、事故が起きたのよ!」


俺はごくりと唾を飲み込んだ。

神ですら危険な目に遭うのに、普通の会社員の俺が対処できるのか?


俺は手元の平板をこっそり見た。

『どうすれば人を安全に現実世界へ戻せるか』の検索結果は、

まだ読み込み中だった。


「私は温泉地みたいな場所へ転送されたの。

しかも、そこは男湯だったわ!


それで慌てていたら、見覚えのある姿が見えたの。

あの優しいヘフィスが、私を見ていたわ。


その......その顔がね、

『まさか変態だったなんて』って顔だったのよ。


私はあの見開いた目を見て、終わったと思ったわ。

宴会で脱いだところを撮られて流出した時点で危なかったのに!


そこから私の女神としての評判は、

谷底まで一直線......だったのよ!」


ティフスネはまた酒を一口飲んだ。


どうして「どうすれば人を安全に現実世界へ戻せるか」の結果は、

まだ出てこないんだ?


俺は帰りたい。

本気で帰りたい……!


「女神のあなたの事情には同情します。

でも、天神の報酬はあまり魅力的じゃないです!」


「もし変えられるなら……。」


「もちろん変えられるわよ。

私たち天神は万能なんだから。」


「たとえば私は、この記憶を抹消するために。

今も必死でポイントを貯めてるところなの……。」


「そのポイントって、

俺の実力で計算してるんですか?」


「そうよ。

一般民衆!」


「一般民衆!?」


「そう、一般民衆!!

あなたは一番外側でできたばかりの小さな結界を壊せればいいの......。」


女神のあわれで力ない表情を見ていると、俺は罵りたくなった。

でも、この面倒を乗り切れるかどうかは、彼女にかかっていた。


「報酬はどう変わるんです?」


「もちろん、貢献が大きいほど報酬も増えるわ。

今は七層あって、第二層まで解決できたら報酬は二倍、

第三層まで解決できたら四倍になるの。


……私、説明に時間をかけすぎたわね。

反省文を書いて、ポイントを差し引かれて、また二十年待つしか……!」


今、二倍と言ったか。

なら、俺にもはっきりした目標ができた。


迷宮の第二層まで攻略できれば、目標の金額に届く。

女神が本気で悲しそうな、

それでいて少しかわいい顔をしたので、俺は思わず彼女の手を握った。


「俺を信じられますか?

俺の目標は第二層の攻略です。


いや、迷宮を全部攻略します。

そうしたら、あなたのポイントももっと増えるんですよね?」


「増えるけど、えっ?

そんなの無理に決まってるわよ?」


営業をやってきた俺には分かった。

赤くなった女神の顔に、はっきり動揺が出ていた。


「そうですよね、無理かもしれない。

でも、それは目標を細かく分けてないからです。


さっき言ってたでしょう。

最外層は一般民衆でも攻略しやすいって。

なら、まずはそこから始めましょう。

俺はまだ、どうやって玄離大陸に行くのかも分かってませんし!」


「元二郎……あなた……?」


女神の目が、落ち込みの中から少しずつ光を取り戻していく。


「あなたの体を、そのまま玄離大陸で再構成することもできるわ。

信徒の家に送って、

記憶と能力を持ったまま赤ん坊からやり直させることもできる。」


「再構成がよさそうですね。

やっぱり俺、元の体のほうが慣れてますし!」


女神はすぐ平板を開いて、情報を確認し始めた。


「再構成術は、神なら必ず使えないといけない技術よ。

ついでに年齢も若い状態へ戻してあげるから、

新しいことも覚えやすくなるわ!」


「それは助かります。

では、これからよろしくお願いします。

ところで、ティフスネは少し長いので、どう呼べば失礼がないですか?」


「『アフ』でいいわよ!」


女神は心からの笑顔を見せた。

そのまま手元の平板を素早く滑らせていく。


「見つけたわ。

まずは骨格から作って、それから内臓を入れて、

血液と筋肉も入れるの。




骨は二百六本……ん? 

こんなに少なかったかしら?」




女神は一瞬で眉をひそめた。

そして少しだけ動きを止めた。


「前に組んだ時は、

たしか三百本くらいあった気がするのよね。

魔獣の骨も少し借りたし。


安心して、元二郎。

骨なんて、そのへんで何とかなるわ!」


俺は慌てて平板を開いた。

さっきまで待っていた検索結果が、ようやく表示された。




「『どうすれば人を安全に現実世界へ戻せるか』。

申し訳ありません、検索結果が見つかりませんでした。

『安全に』を外して再検索してみませんか?^_^」





外すべきなのは、その妙に煽ってくる提案のほうだろう!


「アフ。

さっき、信徒の家を探して、

記憶と能力を持ったままやり直せるって言ってましたよね。

俺、やっぱりそっちのほうが向いてる気がします!」


「えっ、でもあなた、

さっきは肉体を再構成したいって……。」


俺は女神の頭をつかんで軽く揺らした。

それから冷えた目で彼女を見た。


「赤ん、坊か、ら始め、ましょう!」


俺は一語ずつ、落ち着いて言い聞かせた。

開幕からキメラになるなんて、絶対にごめんだ。


「転生者の案内をするんじゃなかったんですか?

そんなふうに、ここを離れて大丈夫なんですか?」


俺は目の前の、綺麗で整った宮殿を見渡した。

少し離れた花壇には、

名前も分からない紫の花が咲いている。


もし俺が神だったら、正直ここから出たくないと思う。


「でも、ここ高いのよ。

今日の家賃だけで、このあと買うつもりだったお菓子代が消えちゃうの。

最初から他の神の言う通り、転生した冒険者の案内なんて適当な場所で済ませればよかった。

こんな高い服まで借りる必要、なかったのに!」


俺は目の前で、女神が嫌そうに長い裾を引っ張るのを見た。

そのうえ帯まで緩めてしまい、服全体がだらしなく崩れていく。


せっかく綺麗な服なのに、

急に安っぽく見えてしまっていた。

なんだか、本当にもったいない……。


「元二郎、どの能力が合うか悩むと思ってね。

だから、倒れる前に出ていた強い願望を、私が親切に探してあげたの。

入力すれば、システムがぴったりのものを選んでくれるわ!」


俺は頷き、女神が持ち上げた平板を一緒にのぞき込んだ。


「十六歳で金銀財宝に囲まれて、万民に愛されて、

国を支配して、しかも世界を滅ぼせる力が欲しい?


……無理。返品したい!^_^」


このシステム、いったい誰が作ったんだ。

作ったやつに苦情を入れたい。


「夢魅族は魔力量が多いぶん、魔獣にとって格好の補給源になるの。

元二郎、最初は脆いから、まずは生き延びる手段を探しましょう!」


女神は検索条件を調整し直した。

すると、ようやく一つの技能が表示された。


「不戦の約

対象に好意を抱かせ、敵意を下げる。

相手の魔力量が多いほど成功しやすい。」


「あなたはこのあと、百盞村に行くわ。

私の信徒の家よ。」


俺が頷くと、体が光を帯び始めた。

女神は笑いながら、こちらへ手を振る。


「癒やしと酒で有名な場所なの!


前に一度、村が滅んだことはあるけど、そのあとみんなで頑張って立て直したのよ。

書類を片づけたら私も行くから、

一緒に醜聞と夢幻泡影の迷宮を片づけましょう!」


俺はその言葉を考える暇もなく、手を振り返した。

そのまま光の中へ消えていく。


暗闇の中に入って、ようやく女神の言葉を考えられた。




何を言ってるんだ、あいつは!




俺が目を開けると、周囲は見知らぬ場所に変わっていた。

煉瓦で組まれた壁があり、少し離れたところでは湯沸かしが湯気を上げている。


どうやら俺は、柔らかい白い毛布の上にいるらしい。

そう思って手を伸ばそうとした瞬間、異変に気づいた。


手を伸ばす感覚がない。

体全体が無重力みたいで、視覚だけが残っている。


俺は湯沸かしの金属に映った自分の姿を見た。


そこにあったのは、暗い赤色の光を放つ球だった。

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