第1話 出世コース目前の俺、地味すぎる事故で女神に担当拒否されかける
無情なタイプライターとして、毎週金曜と土曜の更新を中心にしています。
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「玉刻先生、これからよろしくお願いします!」
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」
四十万円の契約を取った瞬間から、
俺はずっと営業用の顔を崩さなかった。
駅のトイレの鏡を見て、
ようやく長く隠していた笑みを浮かべた。
古着屋で五千円で買ったスーツの襟を、
軽く整える。
少しきつくなってきていた。
目の前には、小さな祝賀会の会場。
上司に大げさに褒められ、俺は席を立った。
そのままチームの面々と、
一人ずつ杯を交わしていく。
「元二郎、お前は本当に優秀な営業だな!
案件の五倍の金額を取ってくるなんてな!」
俺と小さな管理職の椅子を争っている先輩が、
ぎこちない口調で祝ってきた。
「先輩、俺なんて
ただの“普通”ですよ。ははっ!」
「玉刻先生、おめでとうございます。
私たち、もう八年も一緒に働いていますよね。
私、ずっと前から気になっていたんです。
どうしてそんなに素敵なんですか……」
「いやいや、そんな。
惠子!」
鏡の中の自分の顔が、少し気持ち悪く見えた。
俺は慌てて周囲を見回した。
幸い、誰もいなかった。
「惠子。案件が決まったら、
歩合も入るんだ。
最近、時間あるか?
この前、新しくできた
カフェを見つけたんだ」
惠子が顔を赤くする姿が、
目の前に浮かぶ。
彼女が返事をしようとした、その時だった。
通知音で、俺は我に返った。
スマホで時間を確認して、こんな妄想に
時間を使いすぎたと気づく。
東京に来る機会なんて、次はいつになるか分からない。
しかも、案件を取り終えたばかりだ。
せっかくだし、
うまいものでも食べて自分を労おうと思った。
トイレを出た俺は、大都会の高層ビルを眺めながら、
周囲に何か食べる店がないか探した。
するとすぐに、おでん屋が目に入った。
少し値は張るが、
初めて東京に来た記念だ。
何個か買って、食べてみることにした。
案外、大都会の味は、特別かもしれない。
駅は迷路みたいで、少し緊張した。
それでも買い終えた後は、無事に新幹線へ乗れた。
周囲の乗客はみんな、
小さな画面を見つめていた。
あちこちから、メッセージアプリの通知音が聞こえる。
俺もアプリを開いた。
会社のグループに届いていた、
「了解です」の返信が十件。
それ以外は、全部ゼロだった。
ふと顔を上げた拍子に、隣の人の画面が見えてしまう。
メッセージアプリの通知は、九十九件以上と表示されていた。
俺は思わず、冷めた笑いを漏らした。
そんなに連絡が来る生活、
何が楽しいんだよ。
でも……。
一回くらいは、
「あけましておめでとう」みたいな、
どうでもいい連絡でもいい。
そういう通知が来たら、
俺だって普通に嬉しい。
ちくわを味わいながら、
窓の外の景色を眺めていた、その時だった。
不意に車内が大きく揺れた。
体が前へ投げ出される。
「ガンッ!」
何かが落ちる音がした。
周囲では悲鳴も上がっている。
目の前が真っ暗になった。
車内が停電したのか?
だが、しばらくすると、今度は逆に眩しいほど明るくなった。
気づけば俺は、
だだっ広い草原に座っていた。
驚いて目をこする。
さっきまで、新幹線の座席にいたはずだろ?
慌てて振り向く。
すると目の前には、
絢爛な宮殿がそびえていた。
どこかで見たことがあると思った。
前に少しだけ見た
配信ドラマのような中華風だ。
契約資料の準備で、ここ数日ほとんど寝ていない。
そのせいで、変な夢でも見ているのか?
少し離れた壇の上には、ひとりの女がいた。
黒い長椅子に突っ伏している。
薄絹のような桃色の衣をまとい、
髪はふわりと揺れる藍青の長髪だった。
次の瞬間、彼女は勢いよく顔を上げた。
整った顔には、
赤みと涙の跡が残っている。
その目は、どこか焦点が合っていなかった。
俺に気づいたのか、彼女はすぐ白い手巾を取り出した。
必死に顔を拭いて、席の横から立ち上がる。
服を整えると、そのまま壇を下りてきた。
そして一歩ずつ、ゆっくり俺のそばまで来る。
「親愛なる冒険者よ。
転生へようこそ……。」
声はとても優しい。
でも、なんだこの酒臭さ。
さっき、げっぷも、してなかったか……?
まずい。
酒の匂いがさらに濃くなった。
「転生? 待てよ!まさか……事故か?」
「ええ、その通りよ。
あなたが乗っていた新幹線は、物に衝突して脱線したの......。」
頭の中に、大事故のニュース映像がよぎる。
死傷者の多い事故。
それに、昔見たアニメのお決まりの展開まで浮かんだ。
じわじわと、つらい気持ちが込み上げてくる。
なんだよ。
これが運命の冗談か?
せっかく俺が、成功者になれそうだったのに……。
「でも、あなたは死んでいないわ。
ただ昏睡状態で、
病院に運ばれただけよ」
「俺は死んだ……って、え?
そんなに運がよかったのか?
すみません。
でも、この事故って
死傷者は何人なんですか?」
人が昏睡するような事故なら、死亡率も高いはずだ。
俺はごくりと唾を飲んだ。
「重傷者一名。それがあなたよ。
死亡者はゼロ!」
「死亡ゼロで、重傷が俺?
なんでですか?」
「落ち着いて。少し資料を見るわね!」
目の前の女神は、優しい手つきで タブレットを手に取った。
画面を確認したあと、彼女は微笑んで、
少し待つよう促してくる。
「情報をもう一度、確認するわね!」
そう言って、彼女はふいに横を向いた。
なんだか、何度も呼吸を整える音が聞こえる。
「もしもし?
本当にこの人が冒険者で合ってるの?
この人、ちくわを喉に詰まらせて緊急搬送されたんだけど……。
おかしくない?
え?
本当にこの人なの?
私、これ担当しなくちゃ駄目?
は?
断ったら追加ポイントも
返却しろって?
私、もう何人も連続で案内してるのよ?
それでこれはさすがにひどくない?
他に方法はないの?
え? え……。 ちょっと、もしもし!」
女神は生気のない目のまま、こちらへ向き直った。
それでも笑顔を作って、
手にはしっかりタブレットを持っている。
「ちくわを喉に詰まらせて昏睡って、さすがに地味すぎない……?
あっ……いえ、些細なことよ!
毎年、事故で昏睡する人はいるもの。」
今のって、もしかして。
女神がどこかに連絡して、俺の担当を断ろうとしていたのか?
「それで、俺は今、何をすればいいんですか?」
「あなたの件、
ちょっとニュースになっているみたいよ。
見る?
まあ、落ち着いて。
ごめんなさいね。
元の世界でそのまま目を覚ます『一般民眾』を、
どう処理するか少し確認するから……」
女神はそう言いながら、
手元のタブレットを操作し始めた。
「でも……。
さっき、俺は転生だって……?」
「一般民眾!」
女神の笑顔だけが、やけに眩しかった。
AI翻訳や文章の修正も使いながら書いています。
不自然な表現などがありましたら、教えていただけると嬉しいです。




