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《商品》

 

 顔をあげると、背中に激痛が走って息を止めた。サトシが私の腕を掴んでいた。



 そしてまたフラッシュバック。

 宿木のおじさんから、何やら紙を受け取った。文字がびっしり書かれている。


 石段を上がる。

 さえぎの神社だ。吐く息が白く寒い、今は何時だろう。空は暗くなり始めている。石段の途中に横道にそれる、けもの道があった。本当は石畳がうっすらと残っているのだが草木に覆われていた。そこを真っ直ぐ行くとさえぎのおじいちゃんが立てた、洋館があった。小さい頃は4人でここでよく遊んだ。その頃からすでに中には鍵がかかっていて入れず、広場になっていた庭で遊んでいた。木々に囲まれたここは外の世界から切り離された、私たちだけの秘密基地だった。しかし今日は洋館の扉は開いていた。中に入ってみた。

 ああ、これは何だろう。

 身体が勝手に動く。夕闇の迫った洋館は薄暗く不気味だ。普段なら足がすくんで中には入らない。しかし体が勝手に入って行くのだ。中から声のする部屋がある。うめき声だ。

 こんな暗い洋館でうめき声。恐ろしくてたまらないのに扉を開けた。

「若、お疲れ様です。」

 そこに居たのは貝原のおじさんと、宿木のおじさんの家にいる顔のこわい男の人二人が、深々と頭を下げた。

「ん、首尾は?」

 聞きなじみのあるこの声は、鈴之助だ。

「この通りです、担架お借りします。」

 彼らの足元には、人が倒れている。髪が長い。女の人かと思ったが違う。あのマフラーには見覚えがあった。鈴之助は腹這いの彼を蹴ってあおむけにさせた。

 さえぎ…?

 意識を失っているが、呼吸はしていた。少し鈴之助が頷いた。それから持ってきていた簡易担架を広げた。足元に落ちている眼鏡など構いもせずに、さえぎを担架に乗せ手際よく洋館を出た。

 何をしているの…?

 人に見つからないように慎重に石段を下りバンに乗った。乗り込むとサトシがいた。

「これでののかは助かるんだな…。」

 ほっとしたような顔をしていた。鈴之助は珍しくにこりと笑った。

「ああ…。」

 夜が始まった。

 見慣れた街並みを抜けて車は病院についた。ここは業者用の裏口だった。金子先生が迎えた。

「ドナーはどんな状況だ?まさか傷つけてはいないだろうな?」

「大丈夫だぜ、センセ。ちっと抵抗されただけさ。」

 貝原のおじさんがストレッチャーに乗せられていく、さえぎの後ろ頭を見せた。

「たんこぶができてる。呼吸は安定しているが…、あんまり《商品》に傷をつけないでくれよ。」

 呆れ声の金子先生がさえぎの口に吸引器をつけてさっさと行ってしまった。

 商品…?



 背中が痛い。脈打つ痛さは私が生きている証拠だった。

 さえぎはそのまま手術室に連れていかれた。私はストレッチャーと一緒について行った。

「そっちは頼みます、高木先生。」

 金子先生はストレッチャーをその先生に渡した。

「了解。彼女を救えよ。」

「わかっている。」

 金子先生を見送って、じゃあこっちもやろうか。と、容器を取り出す。

「今回の目的は心臓だが、ほかは好きにしろ、と言われている。健康体だ、もったいないから摂りつくそう。ふむ、今回の『事故死体』は高校生、男性。事前にカルテは診ているな?」

 私はこくりとうなずいた。

「麻酔が効いたら手術を始める。」



 どくん。どくん。どくん。

 まって。

 どんどん手術は進む。まずは眼球だった。神経を傷つけないように慎重に、頭がい骨が開けられた。私は、直視できなかった。さえぎは麻酔で叫ぶことも出来ず、ただ横になっていた。

 しかし私にはさえぎが痛いと叫んでいるような気がした。痛い痛いやめてくれ!そういっている気がした。

 人工心臓がつなげられ、しっかりと血管の張った健康な心臓が取り出された。その頃にはさえぎの内臓は違う容器に移され、ほとんど残っていなかった。

 どくん、どくん、どくん。

 そして人工心臓も外され、残ったのはさえぎの『ガワ』だけだった。

 ぴぃ――――――。

 さえぎ…。さえぎ…。まさかなんでいつどうしてなんでどうして。

 私はその場から動けなかった。隣の部屋から施術完了と声がして、人が運ばれていく。

 あれは。

 わたしだ。

 さえぎ、の、心臓は、私に、移植された?


 思わず自分を追った。無菌室にいれられていった。廊下から声がする。

「金子先生…。ののかはどうですか。」

「できることはしました。あとは回復を待ちましょう。」


 私はなんで、生きているの?

 さえぎはなんで生きているの?



 私はさえぎの方に行く。しかし、先程まで確かにあったさえぎの体が無くなっている。『ガワ』だとしてもあれはさえぎだ。


 冷蔵庫や冷凍室ものぞいた。さえぎの体があるかを探したが、見当たらない。

 何がどうなっているのか、まったくわからない。



 気が付くと私はサトシに腕を掴まれ、ぼう然として、座り込んでいた。背中の激痛より、胸の痛みが凌駕していた。自然と涙が出てくる。

 手を握りしめ、爪が掌に食い込んだ。

 目を閉じると、いろんな人の声が聞こえる。私について何か話しているようにも聞こえるが、声があまりにも重なり過ぎて、何を言われているのかさっぱりだった。


 それでも心臓はわれ関せずというように常時と変わらず血液を送る。そう、いつもと変わらずに。


 背中が渦を巻くように引っ張られた。背中の真ん中にその中心があって、そこをグイッと回される。皮膚がねじ切れた。背中が痛い。

 サトシがこちらを心配そうに見ている。鈴之助が目を瞑って眠っている。脂汗がすごく出て、いい夢は見ていないようだ。

「さえぎ、は、なんで、生きているの?」

 私は震えながらサトシを見た。一瞬こわばった表情をしたが、首を振った。

「俺には分からん。入学式にいつも通りあらわれて、鈴と本物か確認しようと思ったら、七門たちがいて、近ずけなくて。いろいろ調べても、髪の毛を採取してDNA検査しても、音無なんだよ、あいつは。気味が悪いから監視していたけど、特に変わった点はないし。」

 分らない。

「でもな、たぶんだけど、エレがかかわっているのは、何となくわかるんだ。」

 そこでサトシは言葉を切った。

「あの、エレシュキガルが。あいつらが。」

 そして鈴之助を見た。

「あいつらはお前の手術の翌日に現れた。おかしいだろ?タイミングよすぎるだろ?あいつらの事は調べている。大丈夫だ。ののかは心配しなくて、大丈夫だ。」


 サトシは泣き笑いのような顔をしている。あの女が、関わっている?

 それもさえぎの、生に。

 私は腹の奥底から背中に強い嫉妬が起こったのを感じた。知れば知るほど嫌悪感と嫉妬心が湧きあがる。怒りや哀しみなんてモノはもう通り越していた。


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