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育成スキルはもういらないと勇者パーティを解雇されたので、退職金がわりにもらった【領地】を強くしてみる   作者: 黒おーじ
《第20章》 幸せな時

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第161話 トルドの偽サイン



 ざわざわ……


 結婚式直前に入った横やりに、場は騒然とした。


「お待ちなさいませ! その結婚!」


 あちらの道から、馬上で両足を横にそろえた花嫁姿の女がやってくる。


 金銀散りばめた豪奢な色打ちかけに、飾り立てられた角隠し。


 ただし、貴人が被るベールのような衣被きぬかずきで、顔は判然としない。


 その上、馬の周りのお供の数も数十あり、並ならぬ身分の女に見える。


「よくお聞きなさいませ。そちらのエイガ殿と結婚するのは……このあたくしですわ!」


「な……なんスか、アンタは!」


 尻込みする領民たちの中で、ガルシアが一人いきり立つ。


「頭が高い! 控えおろう!」


「こちらの御方をどなたと心得る!」


 そこに同じ顔をした男二人が、負けじと怒鳴る。


「この鴉の紋所が目に入らぬか!」


「帝国一の秘密忍者集団『鴉』の姫にあらせられるぞ」


 秘密というにはずいぶん主張の激しい連中だな。


「ぐ、ぐぬぬ、なんかスゴそうッス……」


 ちょっと圧され気味のガルシア。


「でも、どんだけスゲーかは知らねースけど、やっていいことと悪いことがあるッスよ!」


「あら? 何もあたくしは無根拠に邪魔をしようというワケではございませんのよ。こちらを御覧なさい!」


 女が言うと、供の者が一枚の紙を広げる。


 婚姻届だ。


 そして、そこには見覚えのあるサインがあった。


 今、練習中の俺のサインだ。


「よもや忘れたとは言わせませんわ。仮に、記憶喪失だったとしても」


「なに……!?」


 記憶喪失がバレてる?


「おオホホホ。仮に……と申し上げているではございませんか」


 絶対バレてるじゃん。


 帝国一の秘密忍者集団って言ってたし、情報収集能力はヤバいのかも。


「つーか、ガルシア」


 俺は小声で尋ねる。


「俺って、本当はあの女と結婚する予定だったのか?」


「知らねーッス。でも旦那ならありえるかも。女たらしッスからねー」


 なんてこった……。


 いや、でも怪しくね?


 状況的に、記憶喪失だと知って付け込んでいるようにも見える。


「それ、本当に俺が書いたサインか?」


「何をおっしゃいます。どこからどう見てもエイガ殿のサインですわ」


 確かに、それは俺のサインなんだよなぁ……


 つーか、今の俺よりもずっと正確に書けている。


「ふふ、覚えていようがいまいが、結構なことでございますわ。そんなことよりも、いいかげん目をお覚ましなさい」


「なに?」


「エイガ殿はこの遠雲の領主。しかも、今極東で最も注目を集めている領主ですわ」


「だ、だからなんだよ……」


「以前も申し上げましたが、あなた様はすでにひとりの身ではございませんのよ。結婚相手にも相応しい相手というものがある。格と政略が求められるのですわ」


 正論だ。


「おホホホ!……エイガ殿と鴉が結びつけば天下統一も夢ではございませんわ。さあ、共に極東の新秩序を築きましょう」


 しかし、スキを見せたな。


 あまりにも強い正論には、スキがある。


「悦子さん……」


「……」


 俺は隣の白い花嫁へ目線で合図を送った。


 綿帽子の内で、鋭い目がキラーンと光る。


「俺はこの地の領主だ。結婚相手にも家柄や政治的な責任もあるだろう。でも、俺はキミを選ぶ! 悦子さんを愛しているから!」


「え、エイガさま……嬉しいデス」


 悦子さんは俺にピタリと寄り添った。


 ちょっとオーバーで演技めかしているが、これくらいでちょうどイイ。


「いいぞー! 領主さまー!」


「きゃー、カッコイイ……!!」


「頑張れ五十嵐さーん! わっしょい! わっしょい!」


 すると、それまで押し黙っていた領民たちのテンションがアゲアゲになった。


 打ちかけの女は完全に悪役令嬢といった雰囲気である。


「くっ……」


 女も供の者たちも完全に圧されている。


「庶民どもが……いい加減になさいまし!」


「華那子! そこまでにせい!」


 するとその時。


 今度は低い声が響くので振り返ると、そこには黒い軍服の男が腕を組んで立っていた。


 只者じゃない。


 高い背に、隆々とした筋骨。


 顎ヒゲがイケおじって感じである。


「お、お父様……」


「ここは一旦引くのだ」


 どうやらご令嬢の父親らしい。


「しかし……」


「案ずるな。話はついている」


 軍服の男がそう言うと、後ろの黒塗りのかごが戸を開いた。


 中から、束帯の貴人がひとり出て来る。


「な……大臣さま」


「すまぬが、お嬢様。ここは引いてくださらぬか?」


 大臣?


 たしか悦子さんの元上司だったか。


「どうして大臣さまが……?」


「麻呂は、この結婚の後援でのう。元上司としてスピーチも用意しておるのだ」


 大臣はしゃくを口元に寄せて続けた。


「しかし、いくら大臣さまが後ろ立てにいようと、わたくしも西園寺家の令嬢としての立場がございますわ。それこそお嫁にゆけません」


 そりゃそーだろうなあ。


「何も永遠に引いてくれとは申しておらぬ」


 と大臣。


「エイガ殿ほどの領主ならば求められる縁が一つということもあるまい。今回だけは引いてくれと申しておる」


「それは……」


「華那子。大臣さまは我々の間も取り持ってくださるとおっしゃっておられるのだ」


 軍服の男がそう言うと、ご令嬢は供の者に命じ、馬を反転させた。


「わかりましたわ。ここは引きましょう」


 ほっ……


 なんかさらっと不穏な話が聞こえた気もするが、とにかくあの女は帰ってくれるようだ。


「さあ、エイガ殿、五十嵐君! 心置きなく結婚式に臨むがよい。ワハハハハ!」


 あ、そうだ。


 結婚式だった。


 そう思い出すと、再び緊張が身を縛る。


 つーか、この空気からどーやって再開すりゃいいんだよ!?


「あ……」


 そんな時、悦子さんが上を見上げると、宝石のような白い粒がチラホラと舞い降りた。


「……雪です」


 ただそれだけのことに、俺は救われた。


「積もる前に行こう」


「はい」


 こうして二人で石段を登っていく。


 そう。


 結婚式は、晴れているのに雪が降る日だった。



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Ok, so Aega false signature (the one made by the thief who nearly took advantage of Tiana) comes bac…
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