表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
育成スキルはもういらないと勇者パーティを解雇されたので、退職金がわりにもらった【領地】を強くしてみる   作者: 黒おーじ
《第20章》 幸せな時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
195/196

第160話 白無垢


 結婚式の朝。


 俺はベッドから起きると、カーテンを開けた。


 天気は晴れている。


「覚えていてほしい……か」


 思わずつぶやく。


 自分があらゆることを忘れてしまったクセに、よく言ったもんだ。


「いや、よそう。今は……」


 俺は頭を振って、居間へ降りていった。


「おはよー」


「「「おはようございまーす!」」」


 朝ごはんはメイドたちが作ってくれたものを館で食べた。


 チラリと横をみると、姿勢の正しい女秘書が美しいはしさばきでご飯を食べている。


 変わった様子はない、か。


「ごちそうさまー」


 結婚式は昼前。


 あわてることはない。


 朝ごはんが終わると、みんなの準備をゆっくり待った。


「……さて、そろそろ行くぜ」


「お二人は着替えていかないんスか?」


「ああ。五十嵐家で着付けしてもらうからな」


 ガルシアは少しフォーマルな礼服を着ており、メイドたちもめいめい華やかなドレス姿だ。


 俺と悦子さんだけは普段の恰好である。


「おはようさん。いよいよだねえ……」


 館を出ると、すぐにリヴさんが合流した。


 彼女もいつものジーンズとタンクトップではなく、スリットが深く入ったロングドレスでなんかゴージャスだ。


「晴れてよかったッスけど、寒いッスねー」


「雪が降ってもおかしくないですー」


「このマフラー、スノー・ウルフのモフモフでつくったんですよ」


 こうして、みんなでぞろぞろ歩いて行った。


 村に到着。


 まずは五十嵐家だ。


「お待ちしておりました。領主さまはこちらへどうぞ」


 フミエ夫人は俺を部屋へ案内すると、娘の悦子さんを別室へ連れていった。


「領主さま、いよいよですなあ」


 俺の部屋にはイサオさんがいる。


 あのロン毛がすっかり角刈りになっていて、一瞬誰かわからなかったけれど。


「悦ちゃんの迷いは吹っ切れましたかのう?」


「どうかな……」


 こうして紋付き袴を着ていく。


 昨日よりはすんなりいったかな。


「では、しばらくお待ちくだされ」


「ああ」


 当然、悦子さんの着付けの方が時間がかかるので、そのまま待つ。


 しかし……


 どうにも落ち着かないな。


 帯の結び目をいじったり、座ったり立ったりしてみるが、時間はちっとも進まない。


 そんな時、障子が開いてガルシアが入ってきた。


「おお、旦那! イカしてるッスねー!」


「そう?」


 改めて姿見で確認する。


 ……まあ、自分ではわからん。


「それにしても……こういうことになって、自分は嬉しいっスよ」


「ありがとう。でも……」


 俺は、羽織の袖の構造をいじりながら言った。


「こうして結婚式が近づくと、ちょっと考えちゃってな」


「はぁ? マリッジブルーってやつスか?」


「そんなんじゃないよ。ただ、昨日、悦子さんに今の俺を覚えていてほしいって強く思ったんだ。じゃあ、俺はどうなんだって。忘れるってのは、それだけで罪なんじゃねえかってさ……」


 俺が記憶を失ったことで、傷ついたり、悲しむ人がいたのかもしれない。


「それは旦那のせいじゃねースよ」


「でも……」


「そう思うなら今度は忘れねえことッス。五十嵐さんのためにもね」


 ガルシアはそう言って、俺の肩を軽く叩いた。


 で、しばらく後。


 悦子さんの着付けが終わったようで、フミエ夫人が呼びに来た。


「こちらです」


「は、入るぞー」


 障子を開いて、中を覗く。


「エイガさま……」


 ……白無垢の花嫁だ。


 雪を何枚も重ねたような純白。


 大きな綿帽子の影から、黒髪と涼やかな目元が印象的に覗いている。


「ええと、その……」


「……や、やっぱり、変ですか?」


 綺麗だ――と言葉にするとこぼれてしまいそうだった。


 俺はただ首を振って言った。


「お嫁さんだな」


「……はい!」


 五十嵐家を出ると、軒先には多くの領民が集まっていた。


 太陽の光が、人々の笑顔の歯や頬のシワを燦然さんぜんと照らしている。


「領主さまバンザーイ!」


「おめでとー!! わーい、わーい」


「悦ちゃん、おめでとう!」


 驚いた。


 こんな慕われた領主だったんだな。


 あちこちで悦子さんの花嫁姿を褒める声も聞かれ、それも嬉しい。


「行きましょう。エイガさま……」


「あ、ああ」


 俺と悦子さんは吉岡神社へ向かった。


 神社の場所は事前に確認してある。


 だが、その道程はフワフワして夢のごとし。


 急激に心拍数があがっていき、自分の手足が自分のものじゃないみたいだった。


 人々のざわめきや祝福に鳴り響く太鼓や笛のドンドン、ピーヒャラのなどもどこか遠くに聞こえ、まるで次元のはざまで催されるあやかしの祭に迷いこんだようである。


 マジやばい、終わった……


 途中でそうあきらめたものの、気づけばなんとか神社の階段までたどり着いたようだった。


「領地に来たばっかの時、三人でここを登ったッスねえー。うひーん(泣)」


 なんか後ろで泣いてるヤツがいる。


「行こう、悦子さん」


「はい」


 目線が触れ合う。


 俺は花嫁の手を取った。


 ……と、その時だ。


「その結婚、待った……ですわ!」


 幸福に満ちた一幕に、そんな声が響き渡ったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
I seriously hope Tiana isn't the one who interrupted that moment. I am vouching for her after the fa…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ