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育成スキルはもういらないと勇者パーティを解雇されたので、退職金がわりにもらった【領地】を強くしてみる   作者: 黒おーじ
《第20章》 幸せな時

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第157話 めでたい!


 客は、黒ぶちのメガネをかけたコワモテの男と、年増の美人だった。


「……父と母です」


 俺に、悦子さんが耳打ちする。


 背筋がピーンと伸びた。


「そ、ソファへどうぞ。イコカ、お茶を頼む」


 メイドが返事をしてキッチンへ行くと、五十嵐夫妻は会釈をしてソファーへ座った。


「領主さま、無事お目覚めになったようでなによりですわ」


「軽い記憶の混濁があると聞いておりますが……?」


「ええと……少しだけな。大丈夫だ。執政には問題はない」


 ガッツリ記憶喪失だって言うと不安を与えるので、広く領民たちへはそう周知しているのだ。


 逆に、記憶障害をまったく隠してしまうと、言動の不自然に言い訳ができないしね。


「それで今日はどうしたんだ?」


「ええ。かねてより進めていた結婚式が三日後と迫りましたので、ご様子をうかがいにまいりましたの」


 三日後……? マジ?


 隣を見ると、悦子さんが「あっ」という感じで目を見開いていた。


「お、お母さん。エイガさまはまだ魔王戦でのダメージが残っています。式のほうはまた後日ということに……」


「まあ」


「そうか……」


 五十嵐氏が、考え込むようにメガネを正す。


 失礼だけど、顔、怖いな……


「やはり、領主さまの記憶の混濁が相当重い……というか、ほとんど記憶喪失だというウワサは本当だったのですか?」


 そう言われて、俺と悦子さんは顔を見合わせる。


「そんなことはない。最近の記憶が軽く飛んでしまったくらいだ」


 これもあらかじめ決めておいた答え方である。


「それでは延期することなく、粛々と式を行うべきではございませんの? 領民たちも心配しておりますし、結婚式で元気なお姿をお示しあそばれるべきでしょう」


 夫人がそう言う。


「それもそうか……」


「エイガさま……!!」


 悦子さんが小声で袖をひっぱる。


「イヤか?」


「い、イヤ……では、ありません、けれど……」


 タイトスカートのお尻をモジモジさせる悦子さん。


「お義母さまの言う通りだ。今は領民たちに不安を与えるようなことがあってはいけない。どちらにせよ、いつまでも延期できるものでもないしな」


「し、しかし……」


「悦子、領主さまがそうおっしゃるのですよ?」


「では、予定通りの日取りということでよろしくお願いします。いやあ、めでたい、めでたい!」


 そうして、五十嵐ご夫妻は帰っていった。



 ◆ ◇ ◆



「ティアナ姉ちゃん……」


 ティアナは声をかけられたので、手帳から顔を上げた。


 少女の可愛らしい瞳が、パチクリとこちらを見ている。


「……モリエ、どうしたの?」


「そろそろエマとデリーが着く頃だよ」


「そうね」


 時計を見ると、正午前だ。


 もう出立の準備はできている。


 手帳を閉じ、立ち上がった。


「ねえねえ。あのふたりって、お師匠の領地は初めてじゃない?」


「ええ。だからこの街で一旦待ち合わせたのよ」


 宿を出ると、モリエを連れてマリンレーベルの街を歩いていく。


 マリンレーベルは、ザハルベルトと比べると道幅がせまいけれど、混雑する市場近くなどではとりわけ別種の活気を感じる。


「港?」


「いいえ。魔動列車のはずよ。あのふたりは大陸を探していたのだわ」


 クロスの捜索のことである。


「ほとんどの街や村を調べたみたいだけれど、手がかりはつかめなかったみたいね」


「そっかあ。やっぱりクロス兄ちゃんは……」


 ドン!! ドン!!


 駅につくと、街に空砲が鳴り響いた。


 やがてホームに列車がやってくる。


「おーい! エマー、デリー!」


 モリエが、栗毛の少女と長身の剣士へ向かってピョンピョン跳ねる。


「おひさ〜、です」


「……」


 あいかわらずのエマと、無口なデリーだ。


「ふたりともお疲れ様。お腹が減っているでしょうけど、極東行きの魔動汽船までの時間がないわ。そのまま港へ行きましょう」


「ティアナ先輩……あいかわらずわかりやすい人ですねえ」


 エマがジト目で見てくる。


 そんな視線には構わず、歩いていった。


「そう言えばー、アタシたちがエイガ先輩を解雇にしたのはこの街でしたね」


「……ええ」


「……」


「ボクはいなかったけどねー」


 と、モリエが少しむくれる。


「モリエ、あの時はごめんなさい」


「いいよ。もう許すことにしたから」


「いつですかー?」


「最近」


 そんなふうに四人で歩いていると流石に目立って、通行人にサインや握手を求められたり、「あ、勇者パーティだ!」「なにしてんのー?」「勇者さまはー?」などとヤジられたりする。


 あの頃とはもう違うのだ。


「面倒ですねー」


「そうね。さっさと行きましょう」


 やがて港に着き、切符を買って、四人で魔動汽船へ向かった。


 タラップを上り、甲板へ出る。


「エイガ先輩も、ここからあの船を見ていたんでしょうね……」


 出港のときエマがつぶやく。


 視線の先には、港に残されたザハルベルト行きの船があった。


「うう、その時のエイガ先輩の気持ちを考えると……うひっ、うふひひっ」


 そんなふうにヨダレを垂らすエマの表情を見ていると、この子の将来が心配になってくる。


「……エマ。そういうところだぞ」


「はッ、いけません」


「エイガさんに謝るんだろう?」


 デリーとエマで、そういう相談があったようだ。


 エイガがザハルベルトを出るときにケンカしたらしいから、そのことだろう。


(エマ……悪いわね)


 自分のためにエイガを引き留めようとしてくれた時のコトだから、少し申し訳なく思う。


「お腹すいたでしょう? 奢るわ」


「「「わーい!」」」


 船内の食堂へ行く。


 エマは、クラーケン墨のパスタ。


 デリーは、オークメイジの生姜焼き。


 モリエは、黒ミノタウロスのハンバーグを注文した。


「でも、本当にエイガ先輩の領地に、地獄門があるんですかあ?」


「そう言っていたわ」


 ワイバーン肉のBLTサンドを食べながら答える。


「魔王級クエスト以外で地獄門が存在するなんて普通ないんですけどねー」


「お師匠の領地なら有り得るよ。それより、本当にクロス兄ちゃんは地獄にいるの?」


「……おそらく、な」


 無口なデリーが口を開く。


「……エマの言う通り、地獄門は魔王級クエスト以外では普通存在しない。それも、魔王のコアが地獄へ還っていく瞬間だけだ。しかし……その地獄門を生成できる男を、オレは知っている」


「その男が、クロスを地獄へ連れて行ったと考えているワケね?」


 そう尋ねると、デリーは頷いた。


「アタシたちの魔法中学校時代の同級生ですねー。あと……これまで黙っていましたけど、アタシとデリーはそっちの世界出身なんですよー」


 そっちの世界……つまり地獄出身ということ。


「ふたりが異世界人であることは、なんとなく気づいていたわ」


「ええ! そーなの?」


 モリエがひとり目を見開いて驚愕している。


「でも、そうなるとクロスを連れて行った男も地獄から来たワケね?」


「そうです。だからオレもユウリ……その男と決着をつけなければならない」


 そうつぶやくと、デリーはまたいつもの無口に戻った。


 ……船は東へ。


 天気はよく、魔物に襲われることもなかった。


 陽は後方へ沈み、茜色。


 やがて満天の星が空を埋め尽くす。


「順調ですねー」


 デッキで空を眺めていると、後ろからエマの声がした。


「そうね」


「先輩……今度のことが終わったら、勇者パーティを離れるんですか?」


 薬指につけた指輪に、エマの視線は注がれていた。


「ええ。エイガのところで暮らすわ」


「……そうですか。よかった、と思いますよ」


 エマは少しさびしげに微笑むと、客室へ戻っていった。


 冷たい風が頬をなでる。


「……ありがとう」


 ティアナはひとりつぶやくと、指輪を星空にかかげて見つめた。


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― 新着の感想 ―
20章になってから主人公もガルシアも領民も吐き気がするぐらい気持ち悪い。やっとプロポーズの返事もらえたとこなのに他の読者さんが言ってたように大どんでん返しする作者。ここまでずっと読んできてこの作品が大…
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