第156話 なんてヤローだ
後日、居間のソファに座って仕事をしていると、メイド三人がひらひらと集まってきた。
「領主さま、もう五十嵐さんのことスキになっちゃったんですかぁ?」
「記憶を失っても愛は変わらないんですねー」
「キャー! えっちー!」(?)
言うなって言ったのに……
とジトっと睨むと、スイカはぴゅーぴゅー口笛を吹いていた。
「……まあ、ケガの功名ッスね。自分は応援するっスよ~」
ガルシアは少し考え込む様子の後、そう言った。
「なにそれ?」
「自分は旦那と五十嵐さんがうまくイケばいいって思ってたんスけどね。ずっとジレったい感じだったんスよ」
「……婚約してるのに?」
「うーん、旦那が元カノに未練たらたらだったんスよねー」
なんだそれ。
最悪なヤローじゃねーか。
「でも、元カノの方にはザハルベルトできっぱりフラれたって聞いたし、今の旦那は五十嵐さんにぞっこんっぽいんでよかったッスねーと」
「ぞっこんって……オマエまでそんなこっ恥ずかしいこと言うんじゃねえよ」
まあ、たしかにそうなんだけどな。
「……みなさん、どうしたんですか?」
そこにポニーテールの女秘書がやってきて首をかしげる。
「うふふふ……」
「あ、アタシお茶を淹れてきまーす」
「わたしもー」
そう言ってメイドたちはキャッキャと散っていった。
悦子さんはそんな様子を怪訝に見て、最後に俺の顔をジッと見た。
「な……なんでもないよ。それより勉強を手伝ってほしい」
「はい。もちろんです」
ポニーテールの鬢を耳にかけると、悦子さんはソファーの隣に座った。
「領地の西側には鉱山があり、さらにその地下には古代遺跡がありました……」
「ふむふむ」
俺はノートに線を引いたりして、悦子さんの講義を聞く。
「その宝箱には古代文字で記録が残されていて、解読中です」
「なるほど。こっちの東側の地下は?」
「そちらも古代遺跡です」
「けっこう古代遺跡があるんだね? 見つかったのは最近?」
「はい。魔動鉄道のためのトンネルを掘っている時に発見されました。黒曜石のゲートが遺されていて、その起動条件も調査中でしたが……こちらは留学組の研究により、判明しました」
このように新情報が出ると、ノートに書きこんでいく。
ええと、ゲートに火気を触れさせると起動するが、地獄への門で危険だから禁止……と。
「そう言えば……」
勉強がひと段落着いた時、ふと、彼女の薬指の指輪が気になって尋ねた。
「その指輪って、俺が渡したの?」
「え? あ……は、はい……」
悦子さんは鋭い目つきの表情をほとんど変えない人だけど、その瞳だけが少し泳いだ。
「あのさ、俺には悦子さんだけだから……」
「……はい?」
「俺は、こんな素敵な婚約者がいるのにいつまでも元カノを引きずっているような、そんな男にはならない」
「いえ、それは……その……」
「わかってる。キミが好きになったエイガを悪く言うつもりはないんだ。でも、これからは俺がエイガだ。そして……俺には悦子さんだけだから」
そう言って、俺は彼女の左手をそっと握った。
「エイガさま♡……じゃ、じゃなくて、それは……」
――カランカラン……♪
そんな時、玄関のベルが鳴った。
「はーい、どちらさまですかー?」
玄関の方へメイドが走っていくのが聞こえる。
「客か」
「……は、はい」
悦子さんは鋭い目つきのまま少し頬を赤らめて返事した。
「あ、ごめん……」
俺はあわてて彼女の手を離す。
すると、男女の声とメイドがこちらへ案内する声が聞こえ、居間の扉が開いた。
「領主さま! 五十嵐ご夫妻です」





