間話1 優雅なインドア生活終了のカウントダウンが始まっていたなんて…!?
グレイシアス王国 ジュリアス4世は王太子のアレクサンドルや宰相とともに、婚期を逃しつつある第7王女・エメライン(19)の嫁ぎ先に頭を悩ませていた。
「もう、平民と結婚させても良くない?年の近い貴族のフリーな若者は、魔力暴走防止のために毎日荒野燃やしてる、フレアワースの炎の化け物みたいなMP坊や(15になりたて)しか残ってないじゃん。商才のある若手の豪商とかなら、下手な子爵より金持ちでしょ?いくらMP坊やより魔力控えめとはいえ、我より年上のバツ8のスケベ公爵の後妻とか嫌だし」
ジュリアス4世の脳内は考えすぎにより、はっちゃけていた。王冠を机の上に置いて、髪をもしゃもしゃに乱しながら話を続けた。
「…平民でも打診してオッケーもらえたら、婿殿に1代限りの爵位あげたら?せっかくの国一番の美人さんなのに、この子から生まれる孫の顔が見れないのは、我は嫌よ?」
王を見る2人の表情にも疲れが滲み出ていた。
「陛下、お戯れを…。身分差がありすぎで前例がありませんし、子孫が先祖返りして魔力暴走した時の被害が計り知れませんっ」
「確かに、隣国に嫁いで行ったエレクトラ(元第3王女)の幼い頃みたいに、美味しいものを食べてご機嫌になって四方八方に放電するタイプだったら大変だよなぁ〜」
「宰相も、息子まで……。我はどうすれば良いのだ?下手な貴族と結婚させて、MPが平民の子どもより低いエメラインが相手の魔力漏れに巻き込まれて消滅したら、婿殿が殺人犯になってしまうよ?」
その時、執務室に王妃フローレンスが入ってきた。彼女は公務をこなしながら王子を3人、姫を4人産んだ猛者である。フローレンスが夜の共同作業で初めて弱音を吐いた後に嫁いできた側妃は姫を3人産み、末娘のエメラインの出産後に亡くなっていた。
「大丈夫よ、愛しい陛下。この、魔力差中和のティアラをあの子の嫁入り道具にするわ。MP坊やには、重犯罪者用の魔封じの首輪を初夜に着けてもらいましょう。あの子は戦闘面では役立たずだけど、浮遊魔法の裁縫は得意だもの。赤子用の魔封じの刺繍を量産させれば、生まれてくる子へ魔力暴走の対処の準備期間を稼げるから」
王妃の側仕えが執務室の机にケースごと置いたそのティアラは、王妃の祖母から受け継がれたものだ。結界の護符の紋様に編み込まれたミスリルの土台に、輝く結界石が散りばめられており、祝いの日には立てて着けると華やかに見え、寝かせて着けると普段使い可能な可憐なデザインだった。
「フローレンス…。そんな貴重な思い出の品を、良いのか?我の妻が心まで綺麗すぎて、今もときめいてしまうよ……」
「ええ、今はあの子に必要なんだから良いのよ。……もちろん、未来の子孫たちの幸せのためにも、複数同じ効果のものを作らせて保管しておく必要はあるけれどね?」
宰相は微笑みながら口を開いた。
「それでは、姫のお相手はエドガルド・フレアワースで内定ということで書類を作成致しますね」
「良いな、よいな〜っ!運良く2人の間に孫が出来ても、良い具合に弱体化してくれてるかコントロールに優れた孫になったら領地が更地になるような悲劇は起きないものな?それでは式場は王宮内の結界石の間にするか!姫のドレスには、隣国からの献上品のクレセントシルクの生地を使おう〜!裁縫ギルドに今年の公務で使った採寸データはあるしな、ベテラン針子集団に相場の3倍の時給を出して耐熱耐炎結界の護符の刺繍を全面にさせるぞ!昨年引退した職人たちも駆り出せば間に合うはずだ。エドガルドの採寸データも、成人の誓い用に仕立てた時のものが残っているはずだ。王命を出して今月中に式を行う!!」
(((陛下、まだ打診もしてないのにお疲れでポジティブすぎー…)))
その時エメラインは、自室で本を読みながら浮遊魔法でお茶のおかわりを注ぎ、優雅に皿から浮遊した焼き菓子を口に入れていた。
(公務のない日のごろごろ生活は、最高ね……。お腹がもちもちしてきたら、昼寝している間に浮遊魔法で気になる部分の筋肉を動かせば良いだけだし…。インドア万歳!!)
彼女の浮遊魔法はMP1消費で30分は持つ王国一、燃費の良い魔法だった。彼女は昼寝をしながら魔法で足腰の筋肉を動かしていると、侍女に起こされた。
「エメライン姫、起きてくださいましっ、国王陛下の執務室へ来るように仰せつかまつりましたよ!」
「うぅ……ふぇ?」
(急ぎの公務関係の用事はしばらく無いはずなのに。夕食の時まで待てないほどの用事って何かしら?珍しいわね―…)
見苦しくないように着替えさせられ、整えられた彼女が陛下の執務室に入ると、ジュリアス4世は好々爺のように微笑んでいて、王妃と王太子、宰相まで居たためエメラインは目をぱちくりとさせた。
(なんなのこの雰囲気は)
「ようやくエメラインの結婚相手が決まった。相手は、エドガルド・フレアワース伯爵だ。魔力漏れの無いよう、今月中に結界石の間で身内だけの式を行う。念の為、王太子や他の王族は魔道具越しでの参加となる。王妃はエメラインと入場後は退室し、彼らと合流して見守ることになっているから、突然退室しても不安に思わないでほしい」
「ぇえ!?そんなに危険なのに、陛下は同じ部屋にいてくださるのですか?……良いんですか!?」
「引き継ぎは終盤に入っていて、宰相もまだ現役じゃ。我がもしもの時も、フローレンスとアレクがいれば安心して任せられるからのぅ〜」
王妃はエメラインの両肩に手を置いて言った。
「エメライン。貴女は式の日までに、体力作りと冷却の護符を手持ちの肌着に刺繍することだけに力を入れなさい。花嫁衣装へ針子達に耐熱耐炎結界の護符の刺繍を全面に入れてもらえるように手配は進めるけれども、貴女は貴女で自分にできる精一杯のことをやりなさい」
王太子もエメラインのそばに来て口を開いた。
「即席だけれども明日から毎日、騎士見習いのメニューを指導してもらえる教師を手配したから。私の幼い頃に鍛えてもらった先生だ。式の日までにしっかり鍛えろ。嫁いでからも週3で習うといいぞ」
(いつも美味しいお菓子をくれるアレク兄様まで……)
「そ、そんな…お昼寝は?」
フローレンスとアレクサンドルは呆れたような表情をした。
「「嫁いでからにしなさい」」
(いやあああっ!?)




