7話 俺の息子は可愛すぎる
「それでね、お父さまっ。先生と計算の練習をしてから、練習場でシャボン玉みたいな火球を続けて10個飛ばせたんだよー」
「そうか。順調そうでなによりだ」
昼食の時にヴィンセントから学業や魔力制御の報告を聞いた。彼は常に両手足に魔封じを装着して、肌着以外の全ての服には魔封じの刺繍もしているが、焚き火レベルの炎を出せる程度の魔力はある。ヴィンセントの目の色はエドガルドと同じ紅茶色をしているが、髪の色はエメラインと同じ絹糸のような白い髪だった。
(ヴィンセントが生まれた時に、『そんな便利なものがあったなら、MP消費のために荒野焼きに転移させられなくても大丈夫だったじゃないか』と両親に文句を言ったら、父に逆ギレされたっけなあ……)
(『刺繍も幼児用の装具を全部付けてても、お前は4歳までしか持たなかったんだよ!!庭が更地になった時にMP使わせずにここに置いて置けないって悟ったわ!』って)
エドガルドはしみじみと過去を思い出していた。
(でも、父が遅くに出来たたった一人の後継なのに『絶対に美人で優秀な火魔法師の女の子と結婚したいんだぁ!!』って祖父母に駄々をこねたせいなんだがな、俺がMPお化けとして生まれたのは……)
エドガルドは4歳の更地事件から15の誕生日を迎えるまで、屋敷で長時間過ごした事がなかった。
幼少期の彼は毎朝身支度を整えると、朝と昼用の弁当を持たされて、『MP0にするまで帰ってくるな!』と家庭教師達とともに、荒野へ転移させられていたのだ。
その日からのエドガルドは、転移→MP1/6まで荒野焼き→パラソルの下で先生と朝食→そのまま座学→体力作り→昼食→荒野焼き→座学→MP0にしてから夕方に帰宅というルーティンだった。ちなみに荒野でのスープの温め担当はエドガルドだった。
(暴走しかけた時は、土魔法師の先生と結界魔法の先生の二重ガードで先生方への怪我は無かったから、良かったんだろうけども……)
(だが成人した15の誕生日に、『成人おめでとう。それじゃあ俺は妻と第2の新婚旅行に行ってくるから、後はよろしく!』って突然家督を譲ってきやがったのは違うだろう……)
当時エドガルドの母は、その辺に転がっている石に魔力を込めただけで火魔石を作れた女性だったので、産後の体力回復後から息子の成人まで鍛冶屋への魔道コンロやオーブン用の魔石搬入に領地を飛び回っており、教育方針はエドガルドの父や家庭教師陣に全てお任せしていたらしい。ちなみにエドガルドが母の作成資料通りに魔石作りに挑戦した時は、石が溶けただけだった。
(父は新婚旅行終盤に、俺への引き継ぎ0で家臣にすら引き継ぎ資料も渡してなかったとバレて、母にボコボコにされたらしいがな…)
エドガルドの眉間にいつのまにか皺が寄っていた。
(領地運営のサポートをしてくれる妻を探そうとしたら、年齢や家格の近い女性は全員婚約内定済みだったし…。エメラインと王命で結ばれたのは幸運だったが……。せっかく陛下から初夜のための重犯罪者用の魔封じの首輪を頂いていたのに、肝心な時に崩れてしまうなんてっ、、)
当時15だった彼は当時19歳だった姫との同衾前にMPを0に調節して、首輪を毎日装着して眠っていた。
彼女と想いが通じ合い抱きしめた日に、それは砂のように崩れてしまった。そして翌朝、彼女に高熱を出させてしまったことを未だ悔やんでいた。
(俺がせめて人並みの魔力の貴族だったなら、ヴィンセントから母親を奪うことは無かったのに……)
息子を出産した日から彼女の体は弱っていった。陛下はその年に王太子に最後の引き継ぎを終えて引退した。
「お父さま?お部屋が少し暑いです」
「ああ、すまん。ちょっと嫌なことを思い出してな」
「泣かないで、パパ、、ぎゅーってする?」
ヴィンセントは食事を終えるとエドガルドの側に行き、俯いて瞳を揺らす父を抱きしめた。
「ありがとう、ヴィンセント」
「あのね…。ぼく、良い子でいるから。
……まだ、いっしょにいてください。お父さま」
「ああ。ヴィンセントの成人を見届けることはエメラインと約束しているから。いっしょにいるよ」
(うちの息子、可愛い〜!絶対にこの子には引き継ぎ無しで家督を丸投げトンズラなんてしないからな!!)
(泣いたらうっかりマグマが出てしまう。泣くなら誰もいない深夜の荒野にしないと……)
エドガルドは深呼吸をして決意を新たにした。




