6話 伯爵様はいつも楽しそうに仕事をなさっている
エドガルドの1日は、荒野焼きから始まる。
「おはようございます。エドぼっちゃま」
「おはよう、執事長。…ヴィンセントもいるし、もうぼっちゃまと呼ばなくても良いんだぞ?」
「私にとっては、いつまでも可愛いエドぼっちゃまですから」
「……まあ古参の使用人のみの時なら良いが」
着替え終わると手渡された転移用魔道具へ行き帰り分のMPを補充し、荒野へ転移した。髪を結ぶエメライン手製のレースリボンは、今日は黒を選んでいた。
(ガラスブロックの労働者たちがまだ出勤していない、今のうちに……)
誰もいない荒野へ、複数の火柱を出して焼いていく。MPが1/5ほどになったところで止めると、声が聞こえた。
『おはようございます、フレアワース伯爵。点呼は終わり、ヘスティアは作業に入りました』
(この声は、ドニーか)
「伯爵様の転移後に冷風で冷やしてから、新たな地層を切り出していきますので、みなさまは昨日の分を運搬地点まで運び終えてくださーい!」
振り返ると、後ろのガラスの地層の近くで午前中担当の風魔法師・ドニーが集まった運搬役の労働者勢に指示を出していた。彼の声は小さいが、怒鳴らずとも風を操り全員に声を届けることが可能だった。
「おはよう。全員怪我の無いように気をつけてくれよ。ガラスが落ちて割れても、また焼けば良いんだから」
「おはようございます、伯爵様」
エドガルドの声はそよ風によって、労働者全員に届き、彼らの返事もそれによって届けられていた。
ドニー(ドミニク・ワイルドウィングス)は、ワイルドウィングス侯爵の三男だ。MPを持て余しがちなため魔法を使わずにいると、室内で魔封じの足輪を2つ装着していても、自室でハリケーンが起こる。そのため毎日午前中はMP発散兼お小遣い稼ぎで荒野で働きにきているのだ。
「土製ドームは本日屋根を作れば完成となります。この調子ですと、おやつの時間には出来るかと」
「そうか。多く収納出来るように、屋根は可能な限りふっくら高くさせておいてくれ。その時間にまた来るからよろしく頼む」
フレアワース領の家令の末娘である土魔法師のヘスティアは、一昨日運搬が完了した元ガラスブロック地層の穴埋めの続きを行っている。彼女は作業中に話しかけると、たまに魔力暴走で全身岩になることがあるため周囲はそっとしているのだ。穴に落ちて割れでもしたら助けられなくなる。
彼女の作る黒土は、農家にも評判が良い。他領の休耕地へドニーと共に、土壌回復の依頼に派遣されることもあるのだ。その際は彼女が黒土を出し、ドニーが元々の土とミキシングしていた。
(もしこの2人が交際したら、魔封じグッズをお祝いで贈ろうか……あ。雑談していたら少し回復してしまった)
エドガルドは土製ドームの床と壁を焼いて強化ガラス化させた。彼の炎が撫でるように通過したところからガラス化していく様子に、ガラスブロック運搬者たちは見惚れていた。ドニーがすかさず冷風を送ると同時にエドガルドは100個程火球を放り込み、屋敷へ転移した。
息子と2人で朝食を取った後は、執務室へ行き領地の報告を聞いた。
「西端の村で川や井戸の水位が下がっているだと……!?」
「はい。このまま雨が降らなければ、井戸が枯れてしまうかもしれません。先々代の時であれば、レイングレース男爵家に依頼出来たのですが、爵位を返上されてからはどうにも行方が掴めず、他の水魔法師が在籍している領地は遠方で、数ヶ月はかかる距離ですし……」
「あの村の主な収入源は、農作物だからまずいな…」
その時、ルチルの姿が頭に浮かんだ。
『水やり以上に溢れそうになったら、家の近くやお屋敷の井戸に放出してますから』
『…没落しちゃいましたが、母は元男爵令嬢だったそうです』
(リリアとしての仕事、日照り対策に無いよりマシかと念のため魔術師としての非常時の業務も盛り込んでいたが、そちらも本格的に使えるかもしれないな。運が向いてきたようだ)
エドガルドは彼女の出勤次第、仕事を依頼することにした。




