5話 ルチルちゃん大好きっ!
「それでは今日は打ち合わせ通り、別邸の客間に泊まれ。何か困ったことがあればティリーに言ってくれ」
「ありがとうございます。伯爵様」
エドガルドの屋敷前で挨拶後にリリア(ルチル変装中)はティリーとともに敷地内の別邸に入り、通された脱衣所でやっと仮面を外すと、仮面の水膜とウォーターコンタクトを解除した。髪の根本から先端まで一撫ですると、赤髪は茶色になった。両目を一度手で覆って放すと、紫色から水色の瞳へ変化していた。
「ふぅ……、緊張したぁ…」
「お疲れ様でした、ルチルちゃん。その仮面、口元が隠れてるから何も食べられてないよね?お風呂の間に軽食準備するねっ!次回はどんな髪型にする?アクセサリーは??楽しみだなあー」
リリアとしての衣装は、別邸の客間で保管することになっている。ルチルと同い年のティリーは、彼女が変身するのを見たり手伝うのが楽しみだそうだ。彼女は収穫時期の麦の穂のような色の瞳を輝かせていた。
「1年くらい同じ格好でリリアを印象付ける予定だよー。夏は袖は裏に付いてるボタンで取り外しが可能だし、冬は伯爵様の火球カーテンで暖かいし。そもそも貴族でもないのに浪費しちゃいけないもの」
「えー、経費で落ちるんでしょ??今の領主様に代替わりしてから領民は光熱費がかからなくなったけど、税収はずっと先代の時から変わってないんだよ?毎月の固定費は家賃と井戸利用費くらい〜」
(確かにこの地域に来てから、火球が1人1個支給されるって聞いた時はびっくりしたなあー。3年で消えちゃうらしいけど…)
エドガルドは領地に居着くかどうか分からない移住者や転勤者には、もしも持ち出された時の対策として移住初日から型落ち品を支給するという制度にしていた。他領へ移住する領民へも型落ち品に交換していた。したがって取り違え防止のために、作りたての火球は白炎色、領民用は青炎色、型落ち品は赤〜オレンジの炎の色をしていた。役人が一時的に登録をした新品火球は深緑色になり、型落ち品の一時的な登録分はライムグリーン色になる。それらは本登録をすれば元の色に戻るが。
ルチルは困ったように微笑みながら言う。
「ママがね、良く言ってたんだ。『贅沢して領民を締め付けすぎるといずれ石投げられて死ぬんだよ。ひいじいちゃんみたいになっちゃう』って。だからリリアとしての依頼だとしても、線引きはするつもりなの」
「ルチルのひいじいちゃん、何したの!?」
「おじいちゃんに家督を譲った後に愛人に入れあげて、隠居後に引きこもった土地で多重課税して石投げられて2人仲良く死んだらしいよ?腐っても魔術師だったらしいけど、リラックスしている時に背後から攻撃されると対応しづらいんだねえ〜」
「何それ怖っ!?」
ティリーが驚愕している表情についつい笑みをこぼしながら彼女は話を続けた。
「…それで、おじいちゃんは責任を取って王家に男爵の爵位を返上したんだとママは言ってた。『その時は実家が無くなったことを理由に公爵家の侍女の仕事をクビにならないかヒヤヒヤしてたけど、もしそれが無かったら片思いしてたパパに話しかけることも出来なかっただろうから、平民になれて良かった』って、パパに抱きついてにこにこしてたよ。…あ、おじいちゃんは商会で護衛や経理の仕事をして、おばあちゃんと今も仲良く暮らしてるから安心してね?」
ルチルの母・シャルロットは今も侍女の仕事を続けている。トマスとルチルがエドガルドの魔力で乾燥しがちなフレアワース伯爵家に派遣されてからは、両親の遠距離結婚状態が続いていた。ルチルと年の離れた妹は、母と暮らしながら読み書きの勉強を始めている。
「そっかぁー。それにルチルちゃんは普通の愛人じゃなくて、肉体関係NGのハニトラ撃退要員だもんねぇ」
ティリーは思いついたかのように両手を合わせて続けた。
「じゃあ『愛人はデメリットだらけだよ、セクハラ貴族には気をつけて』って、知り合いの美少女なご近所ちゃんに教えてあげようー!……でもなんかモヤモヤしちゃう。だって、偉い人は立派な格好してるよね?」
「もちろん王族とか、他国と外交担当の方は質素な服装だと舐められちゃうよね。でも、愛人には不要でしょ?だから調子に乗ると人は簡単に死にます。私は長生きしたい」
ティリーも可愛い顔立ちをしていて、麦の穂のような髪と目は豊作を感じさせるが、彼女の明るい性格やそばかすの散った顔はどちらかというと、貴族モテよりも商人モテ・職人モテをするタイプなのだ。
「肝に銘じます。話し込んじゃってごめんね、リリアの衣装と仮面をクローゼットに片づけてくるね!着替えはここに置いてるから、ルチルちゃんはゆっくりしてて〜。湯浴みと着替えが終わったら客間に案内するから、この魔道具の黄色いボタンを押してね!」
「はーい、ありがとう。入ってきまーす」
タオルを体に巻いたルチルは浴室へ入っていった。




