4話 私、ここにいる意味あったのかな……?
馬車から出た後、浮かばせていた火球10個を馬車の周囲へ残し、新たに補充した火球カーテン持参で会場へ歩き出したエドガルドとその腕に手を添える謎の仮面美人リリア(ルチルの変装)。内側は彼の魔力操作でポカポカ程度に抑えられていて、意外と熱くない。
会場に着くと挨拶もそこそこに、美食フリーク達が皿の上の料理を炙るためにやってきた。
「ごきげんよう、フレアワース伯爵。早速だが、息子のプリンを炙らせてもらえないか?」
「ああ、良いぞ。やりすぎると皿ごと蒸発するから気をつけろよ?」
こうしてプリンを炙る食いしん坊侯爵親子を筆頭とした美食フリークたちが列を成していた。
「美味しいー!やっぱり自分で炙ったブリュレ風プリンは最高だ!」
「ステーキも温め直すとなかなかだぞ?」
「伯爵、この火球を新たに1つ追加購入したいんですけど。来年結婚式を挙げる婚約者にプレゼントしたくて」
「ああ。後日注文書をそちらの領地から一番近いフレアワース領の役所宛てに送ってもらえれば対応する。世話になっているから、もう1つお祝いでプレゼントしよう。登録してから3年で消えるものだから、無くなってから続けて登録して使っても同時登録しても好きにしてくれ」
「ありがとうございますっ、伯爵!日取りが決まりましたら、招待状を送付させてください」
「そうか。楽しみにしておく」
この侯爵親子とエドガルドは、エメラインとの初めての結婚記念日に彼らの領地の特産品の大粒真珠のネックレスを購入した時から仲が良い。
「あらまあ。エドガルドちゃん、大人気ねえ。貴方がいると場が華やかになるわ〜。暖を取らせてくださいな?」
「はい、かまいませんよ。アシッドレイク公爵夫人」
「みなさま、暖を取っても良いそうですわ〜」
その反対側には冷え対策目当ての老婦人達が手をかざしていた。その中には風魔法師も混ざっていたので会場内の空気は澄んでいて、参加者の服に料理の美味しそうな匂いが移ることは皆無だった。
「ご婦人方、近寄りすぎるとドレスが焦げますので80センチは離れてください!」
会場の隅の方で、令嬢たちは扇を片手に小声で話し合っている。
「あの白い炎の塊はエドガルド様よね!?人が多すぎて近寄れないわ!」
「火傷覚悟で無理に近寄ったら、身分の高い方々を押し除けることになってしまうものね…」
「誘惑以前に社会的に死んでしまうわ!」
エドガルドとリリア(ルチル)の火球カーテンの周囲には、やんごとなき夜会の参加者たちの天然のバリケードが出来ていた。
後妻狙いの女性たちは、この天然バリケードに阻まれて近寄ることすら出来なかった。
リリアは明らかに偉い人の見た目をした人物が近づいてくるのを見つけた。
「エド様、あちらの方は…?」
「ああ、エメラインの父である先代の国王陛下だ。
…皆様!これから大切な話をするので火力を上げます。2メートルは離れてください!!」
ゴゴー!!
火球カーテンの燃える音で2人の声はかき消され、熱気から避難した周囲に先代の国王陛下とエドガルドの話の内容が漏れることはなかった。
(フレアワース伯が来ると、その日の光熱費が抑えられてラッキーなんだよなぁ)
夜会の主催者の伯爵は内心ホクホクであった。
帰りの馬車の中でリリア(ルチル)は口を開いた。
「伯爵様。今回私は何もしていないので報酬はいただけません。ほぼ立っていただけですから」
「今夜はギガントパール侯爵親子が参加していたから、運が良かっただけだ。報酬には夜会での高位貴族や王族との会話内容の守秘義務も含んでいる。初めての任務、お疲れ様。明日の庭師見習いの仕事は午後からにしてくれとトマスにも伝えているから、睡眠時間は削るなよ?」
「ご配慮いただき、感謝します。伯爵様」
(伯爵様は色んな貴族の方々に慕われていらっしゃるんだなあ…)




