2話 俺はセクハラおじさんじゃない!/契約内容を決めましょう
エドガルドの執務室に通された庭師見習いのルチルと、ベテランの庭師でありルチルの父のトマスの顔は強張っていた。
「伯爵様……。成人したばかりの15の娘を魔術師兼愛人にするというのは、あまりにもご無体です。私は娘の晴れ姿も孫の顔も見れないということでしょうか…?どうかお慈悲をくださいませっ」
「違う!彼女を抱くつもりはない。愛人という名の夜会での虫除け担当者だ。俺が後妻を娶る羽目にならないように、令嬢や未亡人達を威圧する護衛みたいなものだ」
23にして身分を笠に着た、セクハラおじさんの汚名を被せられそうになったエドガルドは慌てた。
「俺は亡き妻のエメラインに操を立てている。息子が成人して後を継ぐまでに、無理矢理領地に押しかけて嫁いできた後妻に屋敷の中や領地をめちゃくちゃにされるようなことは起きてほしくないんだ。
……だから、優秀な魔術師である娘さんに助けてほしいという、あくまでも仕事の依頼でしかないんだ。魔力が豊富であれば自分の身を守れるだろうから」
トマスとルチルは跪いたままポカンとしていた。
「それでは、娘は結婚出来なくなるような苦しみを受けることはこの業務には無い。ということですか…?」
「当たり前だ!ほぼ夜会で私の側にいるだけだ」
エドガルドはパニックのあまり、頭上から火の粉が出ていた。
(伯爵様は悪い人じゃなさそうだし、大丈夫なのかな?
でも変装無しで貴族の社交界に出るなんて、家族を人質にされたら困るよね……)
「伯爵様。この姿で、リリアという名前でお仕事をしても良いなら、お受けします」
ルチルは自身の魔力で髪や目の色を変化させた。
「これは、水魔法なのか?」
「はい。魔力で水分量を変化させるので、ウォーターコンタクトと呼んでいます。魔力で染めるとツヤツヤになるんですよ?…身元を探られても分からないように、この姿で業務用の衣装を着て仮面を着けさせてください」
「ああ、もちろんだ」
エドガルドの側に控えていた執事長や家令はニコニコしていた。
((エメライン様以外の異性に対してテンパリがちなぼっちゃまに、良い部下が出来て嬉しい……))
メイド長も静かに頷いていた。
そうして契約書を話し合いながら作成し、1日は終了した。
(『関係を怪しまれたら髪にキスをすることがあるかもしれない。大変申し訳ない』って、伯爵様に頭を下げられちゃった。ママから聞いていたヤバい貴族あるあるとは全然違う人みたい。報酬も1度の夜会に出席につき、見習いの年収くらい出して頂けるし、頑張ろう……!)
ルチルが父との帰り道で奮起していた一方で、エドガルドは転移の魔道具を使用して荒野へ行き、溢れそうになったMPでバスケットボールサイズの火球を量産していた。
「エドガルド様、火球を作りすぎではありませんか?もう荒野に建てられた倉庫代わりのガラス宮にも、そろそろ入りきりませんし」
「何を言う。領内の各家庭分だけでなく、家畜小屋への配給分も含まれているのだぞ?どちらかというと、ガラス宮を新しく建てるべきだ」
「ええー、それを無償で配給されるんですか?」
「ああ。去年の配給分と交換したら型落ち分を他領に高値で売りつけて、そこから利益を取るのだ。領民1人につき1つ。出生予定分も+50ほど加味して各役所へ届けねばならん」
エドガルドが爵位を継いでから初めての改革は、特製・調光機能付き青炎色の火球を全領民へ支給することだった。火球の持ち主の魔力登録をさせることにより、赤子でも事故が起こることはない。(登録されていない空き巣などは大火傷の危険はあるが…。)この効果により領地の犯罪率が減少し、夜営業の飲食店の従業員が帰り道に怖い思いをすることも減っていった。彼の領地は、街灯替わりに等間隔で火球が浮かべられているため、深夜でも足元がはっきりと見える。
「そのうち国内や隣国に供給が完了すれば、その周辺国へも売りつけるのですか?」
「まあな。だが、魔力登録を2回した型落ちの火球は3年以内に徐々に小さくなって消えるように設計しているから安心してくれ」
「火球がない領地は未だにロウソクや魔道具利用なのに……。
ウハウハでございますね」
「ああ。ウハウハだな」
火魔法師が同じことをすることは可能だが、複数人分を維持したまま他の魔法を使うことは魔力コントロール的に困難という者が多いのだ。他領の火魔法師は繁忙期の灯り係として引っ張りだこだが、夜勤は眠いと不満の声も上がっているようだ。需要が尽きることはない。エドガルドと家臣は暗い笑みを浮かべた。




