間話3 孫嫁を一同総出で孫から守れ!
「今までありがとうございました。陛下」
「体に気をつけてな。引退したら我もフローレンスを連れて時々遊びに行くからの〜」
王宮で結婚式を終えると、エメラインは父王に深くカーテシーをした。厳重にMP管理されていたため、エメラインが倒れることもエドガルドが魔力暴走することもなく、終始穏やかな式だった。
それから魔道具越しに参列した他の王族へ手を振り、エドガルドの手を取って、フレアワースの屋敷へ転移した。彼女の荷物や主治医は先に転移していた。
「ようこそいらっしゃいました。エメライン様」
玄関ホールに着くと、使用人が整列して彼女を出迎えた。階段の近くには、端の透明な花弁から中心の濃い青にグラデーションになっている8分咲きのジーヴァフルーレの花が、机の上に置かれた巨大な花瓶に生けられて冷気を放っていた。
「出迎えご苦労様。…夕食の時間になったら使用人が来ますから、姫は先に休んでいてください」
「ありがとう」
エメラインは少し背伸びをしてエドガルドの耳元で囁いた。
「夫婦になったんだから、姫じゃなくてエメラインって呼んでも良いんだよ?」
(ひ、姫の顔が近いっ!?綺麗だ)
エドガルドの頭上で、炎で出来たハートマークと天使が複数舞っていた。
(((伯爵様。ベタ惚れが奥様にバレバレです……)))
使用人一同は内心和んでいた。エメラインは微笑んで夫を見上げている。屋敷は何故かエドガルド達が到着してから冷涼な空気が漂ってきていた。
「伯爵様。先々代の伯爵様からのお祝いが届いていました。エメライン様のためにも到着前に必ず設置せよとの指示がありましたので、寝室前へ設置しております」
「お祖父様から?なんだろう…」
エドガルドの頭上の炎が消えた頃にメイド長が静かに話しかけた。メイド長は彼の祖父の代からフレアワース家に仕えている、生き字引のような存在の1人だ。
「冷却の魔道具ですね。辺りに漂う火属性の魔力を吸収して屋敷を涼しくさせる効果があるそうです」
「だからいつもより少し涼しいのか……」
彼女から手渡された一筆箋には、祖父の実直さが文字に現れていた。
『結婚おめでとう、エドガルド。万が一魔力が漏れそうになったら、嫁にダメージを与える前にそちらへ放熱せよ』
(お祖父様にも姫の心配されてるよ、俺……)
「ありがとう、後でお礼状を書くよ」
エドガルドは、執務室と夫婦の寝室の隣にあるエメラインの部屋へ案内した。ここは、執事長が王命が出てから急ピッチで吸熱の魔木を使った家具一式を注文し、設置させていた。
「何か困ったことがあればベルを鳴らしてくださいね、姫」
「エ・メ・ラ・イ・ン!名前で呼んでって言ってるでしょ?…エドガルドっ」
その時、エドガルドの頭上には、『姫がかわいい!』と炎の文字がデカデカと燃えていた。
(駄目だっ、儀式用のサークレットは返却してしまったから、もうMPが満タンになってしまう!?)
「エメっ、ライン…姫。ゆっくりくつろいでくださいっ!!」
「あっ、逃げた。……もー!」
エドガルドは脱兎のごとく部屋から逃げ、執務室に置いていた転移の魔道具で荒野へ飛んだ。領地の反対側の方角を向くと、斜め上へ向けて火柱を複数発射した。日没であれば綺麗に見えたかもしれない。火柱は荒野の地面に着地すると、地下へ向かって燃えていった。
(人は結婚をすると、MPが超回復するのか……?知らなかった……)
彼は王命が下るまでに荒野に建てたばかりのガラス宮殿の中で端の部屋から順に、MPが1になるまで火球を放っていった。
(他国からの旅人や酔っ払いなどがうっかり入り込んで蒸発するのを予防するためにガラス製にしておいたが、砂漠国から荒野を旅してきた者たちの目印になりそうだな)
「よし、これで500個。各役所へ役人を増員をかけつつ、運搬させるか」
彼は裏切りと事故防止のために、役人に魔力の一時登録をさせてから領民全員へ行き渡るように運搬させようとしていた。
(今年の俺の目標は、領民の冬の薪代を0Gにすることだからな。とはいえ、木こりや材木屋にはその分の仕事が減ってしまっては本末転倒だ。薪用に切り出した木材は、他領へ輸出して外貨を稼ぐように伝えねば。うまく行くだろうか……)
その頃のエメラインは魔法を発動させてから、ベッドに入り、久しぶりの昼寝を楽しもうとしていた。丸いテーブルの上では、浮遊魔法で布へ手芸用インクの入ったペンで刺繍の下書きを描かせ、その近くでは布を張った刺繍枠が浮かび、アラクネの刺繍糸が通った針が耐熱対炎結界の紋様の一つを作り上げようとしていた。
「これで良し。30分過ぎて止まってもテーブルからは落ちないわ。昼寝してる間に楽が出来てサイコ〜。おやすみなさーい……」




