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間話4 ままならないものですね、伯爵様…


 エドガルドが屋敷の玄関ホールに転移すると、執事が上着を受け取りに来た。


「ぼっちゃま、おかえりなさいませ。もうじき夕食の準備が整うところでしたよ」

「姫の様子は?」

「お昼寝を楽しまれた後に、侍女とお庭を散策されてから自室で寛がれています」

「そうか。良かった…」


 エドガルドはエメラインと向かい合わせで夕食を食べる際も、彼の頭上に内心が炎となってダダ漏れしていた。エメラインは微笑みながら、エドガルドが緊張して手をつけられなかった彼の分のデザートも完食していた。



(同衾前にMP0にしないといけないんだったよな…)

(俺、姫と顔を合わせただけでモリモリMPが回復するんだけど、どうしよう……)


 エメラインが今夜のために侍女に手入れをされている間、エドガルドは屋敷の空き部屋にMP消費のための火球を使用人分として作成し放り込み、『屋敷分の火球収納中。入るな危険!!それぞれ魔力登録必須』と炎で作った文字をドアの前の空中に浮かばせた。


(夜だし、とりあえず夜勤担当の門番に手渡しに行こう。今のところ姫の主治医くらいしか、屋敷には領地外の人間はいないしな…)


「お疲れ様です、伯爵様」

「ご結婚おめでとうございます、伯爵様」

「ああ、ありがとう。これをお前たちにやるから、やけどしないように今すぐ魔力登録するぞ、俺が持っている火球に唾液を出せ」

「「ええ!?」」


 裏門の門番2人は嫌そうな顔をした。


「なんかキモいから嫌ですよ!他の方法は無いんですか!?」

「血とか痛いのは嫌だろう?髪とか爪でも出来るが……」

「「そっちにします」」


 戸惑いつつも門番たちがそれぞれの火球へ魔力登録を行うと炎の色が白から青へと変化した。


「あとで屋敷の使用人全員にも配って登録させる予定だ。明るさの調整は口に出せばできるからな、おいおい慣れてくれ。近くに浮かんでいろと言えば、歩いている時も追従させられるぞ」

「便利っすねー」

「しかもポカポカしてあったかいですね」


 エドガルドは、ハッとしたように付け加えた。


「これは登録した者以外が触れるとやけどするから、敵からの自衛以外は取り扱いに気をつけてくれ。家の中では天井に浮かばせるとかしてな?」


「「怖いですよ!!?」」


 門番2人のツッコミに少しタジタジになったエドガルドは頭上から火の粉が出ていた。


「伯爵のことだから、使用人以外にもばら撒くんですよね!?それを使った犯罪が起きたらどうするんですか!」

「もちろん暴力系の犯罪歴のある者には渡さないし、所持する権利も犯罪を犯した時点で消失させるぞ。そもそも今年は領民にしか配らん。領地に定住している者以外には有料にする予定だし」


 フレアワース領では、一応役所が町に1つは建てられていた。名字の無い平民は、生年月日の他は、〇〇村の農家のベンとメアリの第一子、ハンナ。のようなざっくりとした戸籍で住民登録がされていた。


(転勤でこちらに来た者には一時貸し出しにするか…?まあ後で考えよう)


「領民に配る前に屋敷で運用してから細かなルールを決めるから、言いたい事や聞きたい事があれば遠慮なく言ってくれ」

「それはまあ良いっすけど……」

「なんだか危険物もらっちまった感が強くて緊張しますね」


 口元に笑みを浮かべたままのエドガルドの頭上ではしょんぼり顔の炎の絵文字が浮かんでいた。


「それでは正門の門番たちにも配ってくるから、2人も夜勤に励んでくれ」

「はーい!」

「伯爵様もうっかり転ばないでくださいよー」


(そこまで鈍臭く見えてるのか!?おれ……)


 頭上の絵文字は、ぴえん顔に変化した。



 エドガルドは自分の周囲に火球を4つ浮かばせてから正門に向かい、門番たちに登録させた。それから執事長やメイド長に登録ついでに話をしてから今勤務中の使用人に登録させていった。


「ぼっちゃま。そろそろ入浴などのご準備を……。エメライン様は8時間睡眠を以前から希望されていらっしゃるのでしょう?」

「あ……!?」


 慌てて身支度をして、荒野に転移しMPを0にしたエドガルドは、陛下から賜った重犯罪者用の魔封じの首輪を執事長から受け取り、装着した。


「なんだかゴツくて首を下に動かせないな……」


 自然回復するMPが吸い取られ、この世界の空中に普段から漂っている無属性の魔力へと変換・放出されていくのをエドガルドは感じ始めていた。


(ぼっちゃま、ご健闘をお祈りしています!!)


 2人は心なしか涙目になっていた。




「エメライン姫。入りますね」


 エドガルドが執務室内の夫婦の寝室へと続く扉へノックをしたがエメラインの反応は無かった。


「姫……?」


 部屋に入り寝台のカーテンを開けると、すやすやと眠る無防備な彼女がそこにいた。


「っ!?きれい。だ……」


 その夜、フレアワース邸の屋根いっぱいのサイズで、屋外の空中に炎の文字が燃えているのを門番達は目撃してしまった。


「あちゃー。…伯爵、失敗したんすね」

「流石に失礼だぞ、おまえっ」

「……でも盛大に惚気てらぁ」



『姫は、寝顔も綺麗すぎるうううう!!!??』



 その日のエドガルドは、室内のソファーで就寝した。



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