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マリオネット、されるがまま

「うふふ…うふふふ…やっぱり可愛いわぁ、ムホルくん〜♡」


「(ううっ…良い匂いがする…柔らかい…)」


あれから『分』どころか『時間』が付くほどに時が刻まれても、アイリスさんはぬいぐるみになった僕を離すどころか抱き締めながら頬擦りをし続けていた。


「(あの…ところでこれからどうするんですか)」


不思議と嫌じゃないけど、このままと言う訳にはいかない。それに異世界転移(と言うよりも僕の場合は転生になるけど)したからには何かすべきではないかとアイリスさんに目的を訊ねる。


「そうねぇ…ムホルくんをこのままギュ〜っとして、チュウチュウして、それからそれから◯◯◯で☓☓☓してぇ…♡」


聞かない方が良かった…このまま永遠の時の中でアイリスさんの愛に溺れるのかと思うと異様な恐怖が湧いてくる。


「…でも、それじゃあ物足りないのよ」


さっきまで僕の感情を差し置くように興奮していたアイリスさんは急に冷めたように呟いたかと思えば、ぬいぐるみなのに異様な寒気を感じた。


「やっぱりムホルくんの温もりをその手に欲しい…髪の毛から身体の垢(あか)まで舐りたい…そして魂と肉体を私無しでは生きられないようにして、永遠に添い遂げたいわぁ…♡」


あの学校で一番の美少女だったアイリスさん…今じゃ魔王四天王の末裔に相応しい危険な雰囲気と共に僕への重過ぎる愛に押し潰されそうになってしまう。


「そのためにはあなたの身体を見つけないと」


考えてみると異世界転移している間に僕は殺害されたのだ。そうなると僕の亡骸は共に転移したはずの生徒達と共にこの世界へ召喚されたはずなのに、アイリスさんは見つけられなかったと落胆していた。


「(そう言えば僕のクラスの人達はどうなったんですか)」


更に思い返せば、共に異世界転移していたはずのクラスメイトがあの後でどうなったかは僕は知らないため、アイリスさんが何か知っているのではと訊ねてみる。


「無事に召喚されていたわ。それぞれ神からの『ギフト』を授かった状態でこの国…セーレス王国の召喚儀式の間に集まっていたわ」


僕以外のクラスメイトは無事にギフトを授かって召喚されたようだ。そしてもう一つ分かったのが、この世界のセーレス王国と言う国にクラスメイト達は召喚されたと言うことだ。


「私は別ルートからこの世界に来て、ムホルくんと出会えるのを楽しみにしてたんだけど、いつまで経ってもあなたが出てこないから直接見に行ってみたら、儀式の間で彷徨っているあなたの魂だけが見つかったのよ」


「(そう…ですか。その時に僕はもう…)」


転生のライトノベルでは割とすんなりと受け入れられたが、自分の死と転生の経緯は聞いてて気持ちの良いものじゃなかった。いつの間にか死んでて、気付いたら全く違う存在に生まれ変わっただなんて人間の理屈や感情で受け入れられるような内容ではなかった。


「(その…クラスの人達は何か言ってましたか)」


「私は魔族だけど、人が死んだってのにムホルくんのクラスメイト達は何食わぬ顔をしていたわよ。それでも同じ人間なのって思ったわ」


クラスメイト達は謂わば殺害現場の目撃者なのだ。幾ら僕のことを悪い比喩表現に使ったり、アイリスさんに近寄ったことで暴行を加えてきたとは言え、人が殺されたら動揺しないのは如何なものかとアイリスさんと共に同意した。


「まあ、実のところムホルくんを殺したからダンマリをしてるってことも考えられるわね」


アイリスさんの発言に最初は違和感を抱くも、その言葉の意味に気付いた僕は殺された時に感じた、背中から心臓に掛けて貫くようなゾッとした感覚が思い起こされる。


「(まさか…クラスメイトの誰かが僕を殺したんですか)」


あり得ない話で認められなかったが、考えてみればあの場には女神様とクラスメイトしかいなかった。何よりもそれ以外に僕が死んだ理由が思い付かなかったため認めざるを得なかった。


「そうとしか言えないわね。何があったかは私にも分からないけど、ムホルくんはきっとクラスメイトの誰かに殺害された。それ以外考えられないわ」


アイリスさんもそれ以外はあり得ないと同意した。それと同時に拳を強く握りしめ、拳が青い炎に包まれる。


「ムホルくんの身体を取り返すには、そのクラスメイトの連中を片っ端からとっ捕まえて拷問して…何があったか吐かせるしかないわね」


魔王四天王と言うだけあって、僕を殺したかもしれないクラスメイトに対して怒りを孕んだ獰猛な笑みを浮かべるアイリスは正しく地獄の鬼神のようであった。


「私達の当面の目的はそれね。まずはそのクラスメイト達を見つけないとね」


幾らクラスメイトから酷い扱いを受けたとは言え、拷問はやり過ぎだと考えるが、確かに僕の死の真相を探るにはクラスメイトを見つけて色々聞く必要がある。


「そしてムホルくんの身体を見つけることが出来れば…心も身体も永遠に私の物に…!」


「(……もしかして、僕は元の身体で生き返ることが出来るんですか)」


変わらぬ重い愛を目の当たりにして言葉を失っていたが、アイリスさんの台詞は僕の身体の特徴やら温もりやらと、僕が元の身体で生きていることを前提に話しているようにも聞こえた。それはつまり身体を見つけることが出来ればぬいぐるみから生き返ることを案じしているようにも思えた。


「もちろんよ。転生術があるぐらいだからね」


「(そう…なんですか!)」


確かに人間からぬいぐるみに転生した方法があるのなら、その逆があっても不思議ではない。アイリスさんには悪いけど、不自由極まりないぬいぐるみよりも、不幸体質とは言え自由に動ける人間の体の方がずっと良いと思ってしまう。


「(僕の身体…失くすとこんなに恋しいんだ)」


転生モノとかだと元の身体を失くしたとしても未練がないことが多いけど、幾ら不幸体質とは言え、生まれてからずっと不幸の星の下で共に歩んできた自分の身体が失くなってしまったと実感すると、とても寂しいものを感じてしまう。


「大丈夫よ。ムホルくんの身体はきっと見つけて蘇らせてあげるから」


「(アイリスさん…!)」


やはり僕の考えていることは筒抜けらしく、『ぬいぐるみの姿では不自由』と言う考えが伝わってアイリスさんは最初は驚いた顔をするも、すぐに天使のような優しい微笑みを浮かべて抱き締めてくれたことに嬉しくなってしまう。


「私もぬいぐるみよりも生きたムホルくんに永遠の命を与えて、この世の終わりまで愛で続けたいわぁ…♡」


『天使』って言うのは前言撤回しよう…その裏には魂を虎視眈々(こしたんたん)と狙う悪魔のようなドス黒い感情に似た僕への重い愛が詰まっていたことを再確認して再び言葉を失ってしまう。


「それじゃあムホルくんの身体を見つける旅に出る準備をしなきゃ」


そう言うとアイリスさんは制服のボタンに手を掛けたかと思えば上から順に外してワイシャツ姿になり、更にそこからボタンを外して脱ぎ始めていく。


「(え…何をしてるんですか)」


ちらちらと見える芸術品のような綺麗な肌は見惚れてしまうほどに美しく思わず息を呑んでいたが、ハッとなって今服を脱いでいるアイリスさんの前には僕がいることを思い出して注意するように呼び掛ける。


「何ってお風呂に入るのよ」


「(僕…その見えちゃってるんですけど…)」


何を言ってるんだと言わんばかりに答えられるも、女の子っぽい見た目とは言え、僕も一応は男であると告げる。それに対してアイリスさんは最初、驚いた顔をするが…。


「ふふふっ、あなたになら見られても問題ないわ。寧ろゾクゾクしちゃう…!」


言わぬが花と言うべきか、アイリスさんは恥ずかしがって身体を隠すどころか、だだっ広げにした産まれたままの姿で妖艶な笑みを浮かべながら僕に迫ってくる。


ぬいぐるみだから体格差があるのも仕方ないけど、アイリスさんの身体は押し潰されてしまいそうなほどに魅惑的で圧倒され、ちょうど巨人と相対した人間が己の小ささを思い知らされた場面を思い出させた。


「それにこれから一緒に…お風呂に入るんだから♪」


「(お…お風呂…!?)」


突然服を脱ぎ始めたと思ったらアイリスさんはお風呂に入ろうとしていた。それも一緒に入ろうと眼下に見えるぬいぐるみの僕に向かって手を伸ばしてくる。


「(待ってください!やっぱり僕は男だし、一緒には入らない方が…それにぬいぐるみだから別にお風呂に入らなくとも…)」


やっぱり男女がいきなり一緒にお風呂に入るのは良くないと考えて、何とか方法はないかと色々言ってみるも、アイリスさんは僕のぬいぐるみの身体を鷲掴みにして持ち上げてくる。


「うふふふ…元の身体だったら逃げられただろうけど、こんなぬいぐるみの身体じゃあ、何処にも逃げられないどころか私にされるがままよねぇ〜?」


鷲掴みにされた僕のぬいぐるみの身体は顔まで持っていかれるのが、ただでさえ大きく見えたアイリスさんは僕の未来を見据えたような不敵な笑みをこれでもかと突きつけてくるためとても大きく見えた。


「(ひゃああああ〜!?く…くすぐったい!?くすぐったい!?止めて〜!?あはははは〜!?)」


「ああ…♡ムホルくんが私の手によって悶えてる…♡堪らないぐらいに愛おしいわぁ…♡」


予想通りと言うべきかアイリスさんはワキワキと動かす指にたくさんの泡を着け、僕のぬいぐるみの身体に這わせてくる。とてつもないくすぐったさに声が出る訳でもないのに笑い声が強制的に搾り出されてしまう。


「(お…お願い…ひひっ…も…もう…くすぐった…はひひ…いよぉ…)」


「充分に綺麗になったわね…それじゃあ」


散々くすぐられ、笑い過ぎて再び死にそうになったところで終わったのだが、アイリスさんは泡だらけになった僕を鷲掴みにした。


「(むぐっ…!?アイリスさん…何を…!?)」


「うふふふ…ムホルくんが…私の身体を舐め回すように這っているわぁ…♡」


急に良い匂いが鼻の中に充満し、全身に柔らかい感触が伝わって来ると思ったら、アイリスさんは泡の付着した僕のぬいぐるみの身体をスポンジのようにして身体を洗い始めたのだ。


「(ちょ、僕の身体で洗わないで…!?)」


ぬいぐるみの身体がまるでスポンジのように扱われ、学校で一番の美少女の身体を洗うのに使われるなんて想像も出来なかった。


そのためかアイリスさんの花のような香りに、プリンとマシュマロを合わせたような弾力と柔らかさを持つ肌がぬいぐるみの身体に触れる度に気持ち良い感触が伝わって、僕の想像を軽く凌駕して気が遠くなりそうになる。


「うふふふ…そんなこと言って、本当はとても気持ち良いんでしょ?」


「(ううっ…それは…)」


やはり言葉にしなくとも僕の心情は筒抜けらしく的確な指摘にドキッとなり、アイリスさんの赤らんだ顔による幸せそうな甘い表情に心まで蕩けてしまいそうになる。


「不謹慎かもしれないけど、あなたの身体が無かったのは幸いだったわ」


最初は僕の身体がないことに憤りを露わにしていたアイリスさんは何故かこの時ばかりは心底嬉しそうにしていた。


「だって…はあっはあっ…抵抗も逃げることも出来なくさせられた上に…はあっ…」


それまで腕や足と言った身体の末端を洗っていたアイリスさんは次第に呼吸が荒くなり、表情がみるみる赤らんでいくのだ。


「あんな所やそんな所…はあっはあっ…こんな所を…ムホルくんの身体で洗えるんだから…♡」


最初は台詞の意味を理解出来なかったが、それまで洗っていた場所が身(・)体(・)の(・)末(・)端(・)だったと気付いた瞬間、アイリスさんが僕のぬいぐるみの身体で何処を洗おうとしているのか気が付いた。


「(や…やめ…怖いよぉ…!?)」


「大丈夫…はあっはあっ…優しく…するから…♡はあっ…それに怖くないし…はあっ…お互い…気持ち良いからぁ…♡さあ、いざ…幸せな一時を…♡」


それから僕は忘れることが出来ないほどの気持ち良さに悲鳴を挙げるほど味わい、アイリスさんと僕のぬいぐるみの身体は綺麗になるものの何か大切な物を汚してしまった感じがしてならなかった。

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