大地から空を見上げる
「あ、」
手からガラスのコップが滑り落ちていい感じの音で割れた。そう、いい感じの・・・。 帰宅したのは夜の7時だった。アパートの住人はそそくさと各々の部屋でそれぞれの生活を送っている。隣の男は相変わらずいびきをかいて眠っていた。
ショックを受けていた。知らない間に、とんでもないショックを受けていたのだ。戦争の ようなものだった。喧嘩とは戦争だ。人のこころの安全を奪って、可哀想な人生にする。 誰が悪い、あれがよくない。もういいではないか。
夢を見た。ソファーで寝落ちしてしまったのだ。夢の中の望は、ミクルを殺したいと思っていた。望は代理人を雇って、犯行を命じた。その通りミクルは居なくなったし。 嬉しかった。嬉しかった?何だって?・・・ただ、最後に「解って欲しかった」とミクルは囁いたそうだ。なにを"解って"欲しかったのだろう。悲しい経験?つらい過去?どうしようもない記憶?
とめどなく流れ落ちるはもう居ない友人の敵かな望への希望のようにも思えた。 助けて欲しかったのかな。ーーーあの子は天へ昇り、わたしは地獄へ堕ちるーーーこうなる前に、なんとか解り合えなかったのだろうか。
「晩ご飯、晩ご飯・・・っと」
望は変な場所に寝て起きたとき特有の淋しさを抱えながら美味しいご飯を作ろうと思っ た。キッチンの電気をパチンと点ける。
「今日はなにを作ろうかな」
人は、一度大地に叩きつけられたら、あとはそこから空を見上げるしかない。幸せかなと思う方向が、実はとても不幸な道だったりもするし、不幸な状態かなと思う方向が、実はとても現実的で幸せなものなのだと実感できることもある。
自分の脳に騙されたり解き放たれたり。色々だ。
過去に、本当につらいことがあった人物にとって微笑とは微かな赦しに近い。哀しみを含 んだ優しい笑顔だ。どこに居ても、何をしていても、トラウマのフラッシュバックで照明 がガシャンと落ちてなにも見えなくなっても、大丈夫。綺麗ごとを言うつもりはないが、 しっかりと心の中に灯りが点灯してくれている。絶対に。わたしたちを護るように。
望は晩ご飯に今日書店で買った漫画の中に描かれてあった野菜炒めが無性に食べたくなって、冷蔵庫にあった野菜たちでなんとかほかほかの、おばあちゃんが作ったようなほどよくしなっているピーマンとかが入っている野菜炒めを頑張って作って大満足だった。
「今日も生きたぞー!」
月が輝く夜。
「今」を避けていたら幸せにはなれない。




