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友人の名はミクル

街は様々な色の車が走っていた。おお、爽快、とまたしても呟く。


揺れている。揺れている。心が揺れる。


小さいことがもっともっと小さくなってゆく。 このままこのまま、消滅してしまえ、と思った。

ナニガ?

・・・小さい地球に、小さな命。・・・。


「あんな男いなければよかった」

大きな声で叫びたかった。隣の男。居なくなっちゃえばいいのに。諦めたはずなのに脳裏 に浮かぶには、生活感の無さから感じられる大きな枯渇と停止した人生にあった。あの男 の人生は確実に止まっていた。

昔、似たような境遇に陥った記憶が蘇る。友人との記憶も。

あんたは人間的すぎる。人間の性を利用して一人相撲に乱用するな、と諭された。 「ごめん、そうだよね」あのとき望は謝罪した。なんとなくそうしないといけない気がして。

機械になれたらいいのに。機械になったら、あんな感情にも振り回されずに済む。怒りの 感情が望にとっては一番厄介なものだった。憎らしい。怒りという感情が憎らしかった。

「あんたは隙を見せたくないのよ。不寛容なのね。邪魔にすることで全部の責任から逃れ ているんだわ」

ミクル。友人の名はミクルと言う。説教垂れがこんな愛らしい名前だなんて。そう思うこ とも失礼極まりないが、確かに望は勘違いをしているし、ある種、同族嫌悪をおおいに感 じていたのだった。

「誤魔化さない生き方がいいわ。傲慢になりなさい。あと少しなのよ」

望は運転の途中だったが涙が溢れ出てくる予感ががした。これはまずい、とスーパーの端っこの駐車場の車を止め、やはり的中。運転席で、顔を隠しながらわんわん泣いた。 いやだな。こんなことしたくないのに。

あんな奴、あんな奴、あんな奴。・・・怖い。こころの底ではとても怖かった。自信もなかった。隣に住んでいるだけの孤立した高齢の男に自信も何もないがこの境遇に納得なんてやはりちっともしていなかった。

悔しくてたまらないのは、"そんな"人間の存在で自分の安心できる居場所がなくなることへ の激しい屈辱だったのだ。迎合もしたくない。でも支配下にもなりたくない。自意識過剰 大歓迎。勘違い大っ恥じ。そんな状態。

「要は優位な位置に立っていたいのよ。誰かさんとそっくりね」

ミクルは言うと思う。そう思います。と言ってしまう自分がいる、と望は手に力を込めて太ももを打った。誰かさんのことは伏せるが、関わってしまったのだ、わたしは、と思う。あの男の人生に。間接的な客になってしまったのだ。深い憤慨だった。

「諦めたらいいのに。申し訳ないけどマウント取りますって失礼さをどんどん出して図太くならな や生きては行かれないわ。グズね」

・・・頭の中の友人の声が止まらない。この声は当たり前の意見なの?

「わたし、質素でよかったから」

「それがだめなのよ」

少なくとも、わたしは望みたいな生き方は大嫌いよ。 卑下と、大きく生きることは全くべつものなの。

完全に敗北だ。ミクルは傲慢で、冷酷で、これっぽっちも丁寧ではなかった。


・・・野蛮人間め。


まだ瞳からは涙がたくさん流れていた。

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