表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第21章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
201/207

思いの果てにⅢ ~イグニスの忠告

ルミナリスは一歩前へ出た。


「イグニスさん」


「駄目だ。ここからは、神か巨人か龍か、理を越えたものじゃねえとだめだ」


 ルミナリスの足が止まる。

 イグニスは、岩と大地の主精霊から視線を外さない。


「こいつらは俺様の連れだ。余計なことをするなよ」


~本文より

 原初の岩はイグニスを遥かな高みから見下ろしながら、地響きを立てつつ語りかけた。


「焔は隠れられぬ」


「隠れてねえ」


「山を燃やし大地を焼いた焔が、何故威厳を捨てる」


「そんなもの持っていたつもりもない」


「火種にも満たぬ大きさで何を為すのだ?」


「喧嘩売ってんのか、岩」


「問うている」


 岩と大地の主精霊の声が、さらに低くなる。


「原初の焔よ。何故、火を畳む。何故、人の肩へ収まる。何故、庭へ戻りながら、庭へ己を示さぬ。それは主精霊たるものの約定であろう」


 イグニスは黙った。

 初めて、言い返さなかった。

 ルミナリスはその会話を分析していた。


 イグニスの焔は、いつもより小さい。

 だが、周囲の精霊たちは、その小さな焔を恐れている。

 花も、水も、風も、距離を取っている。

 その存在がどれほど苛烈で大きいのか。


 岩の主精霊は、さらに身を乗り出す。


「焔。答えよ」


「答える義理はねえ」


「ある」


「しつこいな」


「我は見張り阻むもの」


「知ってるよ」


 イグニスは短く吐き捨てた。

 それから、ルミナリスたちの方へ振り返る。

 焔の奥で、何かが一瞬だけ揺れた。


「おまえら」


 イグニスの声が、いつもより低い。


「ここから少しの間、俺様は離れる。あいつが相手じゃしょうがねえ。腕の一山くらい焼き崩さねえと収まらん」


 ルルリアがすぐに反応した。


「え、待って。案内は?」


「道はもう開いてる。羅針盤を見ろ。水の音を追うな。花に返事するな。変な実は食うな。笑う石には近づくな」


「情報が雑に多い!」


「覚えろ」


 ルミナリスは一歩前へ出た。


「イグニスさん」


「駄目だ。ここからは、神か巨人か龍か、理を越えたものじゃねえとだめだ」


 ルミナリスの足が止まる。

 イグニスは、岩と大地の主精霊から視線を外さない。


「こいつらは俺様の連れだ。余計なことをするなよ」


 岩の主精霊が静かに言う。


「小さき者らは、焔の影に隠れている。それはならん」


「ほらな」


 イグニスが不機嫌そうに言った。


「面倒だろ」


 オルクスが一歩前へ出た。


「イグニス殿、どこで合流する」


「庭が本気で迷わせなきゃ、先で勝手に追いつく」


「本気で迷わせたら」


「その時は、自力でどうにかしろ」


「相変わらずだな」


「褒めるな」


「褒めてはおらぬ」


 オルクスは、大地の主精霊を見上げた。


「原初の大地よ。旅の者として、歩を進める。許しは請わぬ」


 岩と大地の主精霊の視線が、ゆっくりとオルクスへ向いた。

 その重さに、周囲の草が伏せる。


「精霊人の子よ。道は自分で歩む分には何も言わぬ」


 オルクスは静かに頭を下げる。


「では、見届けていただきたい」


「それならば、山は見る」


 イグニスが舌打ちするように火を散らした。


「勝手に話をまとめるな」


「では自分でまとめよ」


 オルクスが返すと、イグニスは不機嫌そうに焔を膨らませた。


「本当に面倒な連中だ」


 ルルリアは唇を噛んだ。


「イグニス、ちゃんと戻ってくるよね」


「戻る」


 即答だった。


「本当?」


「俺様を誰だと思ってる」


「強い火」


「原初の焔だ」


「うん。偉い火」


「雑に直すな」


 そのやり取りに、少しだけいつもの調子が戻った。

 それでも、ルルリアの表情は晴れない。

 イグニスは、ほんの少しだけ焔を低くした。


「小鳥」


「小鳥じゃない」


「今は小鳥でいい」


「よくない」


「ルミナリスを見てろ。足元を見ろ。今、あいつは危うい」


 ルルリアは真剣な顔で頷いた。


「分かった」


 イグニスは次に、ルミナリスを見た。

 ルミナリスは、胸元の灼熱の石守を握っている。


「その石、持ってろ」


「はい」


 イグニスは、少しだけ黙った。

 それから、低く言った。


「精霊王には気をつけろ。とくにルミナリス、お前はな」


 空気が止まった。

 ルミナリスは瞬きをする。


「精霊王……」


「庭の王だ。優しい顔をするかもしれねえ。怖い顔をするかもしれねえ。何も出さずに、声だけ寄こすかもしれねえ」


 イグニスの焔が、わずかに揺れた。


「どれでも信じすぎるな」


 オルクスの表情が硬くなる。


「イグニス、それは」


「老いぼれ、おまえもだ」


 イグニスは遮った。


「王子のことになると、おまえは足元を見なくなる。精霊王の言葉を、そのまま飲むな」


 オルクスは沈黙した。

 その沈黙だけで、言葉が刺さったことが分かった。

 イグニスは最後に、三人まとめて見るように焔を揺らす。


「願いを見せすぎるな。ここでは、願いは餌になる」


 岩と大地の主精霊が、低く言った。


「焔。話は終わったか」


「急かすな、岩。山のくせに短気だな」


「山は待つ。だが、焔の偽りは長く見ていられぬ」


「見せてやるよ。この後たっぷりとな」


 イグニスはルミナリスたちから離れた。

 小さな焔が、岩の巨体の前へ向かう。


 大きさは比べものにならない。

 岩の主精霊は山のようで、イグニスは灯のようだった。

 小さな焔の内側に、山をも焼く火が畳まれている。


 岩と大地の主精霊が立ち上がる。

 その身が天井の枝に届き、枝の方が自然と道を譲る。

 肩の苔から小さな花が落ち、土に戻る。


「来い、焔」


「命令するな」


 イグニスは文句を言いながら、岩の主精霊の方へ飛んでいく。


 二つの原初が、庭の奥の別の道へ進み始めた。

 その道は、ルミナリスたちには見えない。

 ただ、地面が重く沈み、赤い火の粒がいくつか残った。

 イグニスの焔が、岩と大地の主精霊の影に飲まれていく。

 赤い光が、苔むした岩の巨体の向こうへ消えた。


 庭に、静けさが戻る。

 だが、それは先ほどまでの静けさとは違った。

 案内役の火がいない。

 乱暴で、偉そうで、うるさくて、でも分かりやすい声がない。

 ルルリアはぽつりと言った。


「急に心細い」


 ルミナリスの胸元の灼熱の石守は温かい。

 星の羅針盤も光っている。

 オルクスは深く息を吸った。


「我らの足で進むぞ」


「はい」


 ルミナリスは星の羅針盤を見た。

 針は、庭の奥を指している。


 精霊王には気をつけろ。


 イグニスの言葉が、胸の中で重く残った。

 その時、足元の白い花が、ゆっくりと開いた。

 花びらの奥から、小さな声がした。


「ようこそ」


 ルルリアは即座に両手で耳を塞いだ。

 花は、楽しそうに揺れた。


 ルミナリスは羅針盤を握りしめる。

 オルクスは剣を抜かず、ただ前を見た。

 イグニスのいない精霊の庭で、一行は初めて、自分たちだけで歩き出した。


次回、精霊の庭の奥に進む一行を描きます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

更新が少し遅くなるかと思います。

二日に1度は更新しますので、是非ご一読ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ