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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第20章

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精霊の庭へⅩⅤ ~見つめる泉

ルミナリスは一歩進む。

 足元の水が、急に深くなった。


「っ」


 膝まで沈む。

 ルルリアが反射的に手を伸ばした。

 その手も水に沈む。

 水が冷たい。

 ただの水ではない。

 手首を掴むように重い。


~本文より

 暫く進むと水の道の先が明るくなった。

 出口が近い。

 木の内側の暗さが薄れ、銀色の光が強くなる。

 水音が大きくなる。


 もう、逃げる音ではなく、待っている音だった。

 ルルリアは息を整える。


「ここを抜けたら、泉?」


「泉の前だ」


 イグニスが答える。


「まだ中じゃねえ。入口の前の、さらに前だ」


「まだあるの?」


「ある。精霊は段取りが多い」


「面倒くさい」


「何度言う気だ」


 ルミナリスは星の羅針盤を見た。


 針は、完全に止まっている。

 真っ直ぐ前。

 その先で、木の壁が薄く開いていた。


 外の光が差し込んでいる。


 ルミナリスは一歩進む。

 足元の水が、急に深くなった。


「っ」


 膝まで沈む。

 ルルリアが反射的に手を伸ばした。

 その手も水に沈む。

 水が冷たい。

 ただの水ではない。

 手首を掴むように重い。


 ルルリアは歯を食いしばる。


「ルミィ!」


「名を呼ぶな!」


 イグニスが怒鳴った。

 ルミナリスは振り返らず、星の羅針盤を強く抱いた。


 足元から、声がする。


 ルミナリス。

 ルミナリス。

 ルミナリス。


 水が名を覚えようとしている。

 胸元の灼熱の石守が赤く光る。

 栄光の星の杖が背で震える。

 羅針盤の針が、前を指したまま動かない。

 ルミナリスは、ゆっくり息を吐いた。


「私は、進みます」


 それは返事ではない。

 水に答えたのではない。

 自分へ言った言葉だった。


 足が動く。

 水が少しだけ軽くなった。

 ルルリアも息を吸い、名前を呼ばずに手を伸ばす。


「こっち」


 短く言う。

 ルミナリスはその手を取った。

 水が二人の間で揺れた。


 メル・アラの補助翼が、音もなく開く。

 跳ぶためではない。

 沈む体を支えるため。

 ルルリアは腰を落とし、ルミナリスを引いた。


「届いた」


 小さく呟く。

 水が、また笑ったように揺れた。


 今度は、嘲りではなく、少しだけ、認めるような音だった。


 オルクスが後ろから二人を見ている。

 手は出さない。足も踏み出さない。

 目は逸らさず、二人の姿を捉えている。


 その様子をさらりと見たイグニスは少しばかり、感心したように火花を散らして、


「よし。今だ。抜けるぞ」


 全員に声を掛けた

 同時に水の道の出口が開いて、銀色の光が一気に差し込む。


 ルミナリスとルルリアは、水を踏みしめて前へ出た。

 次の瞬間、足元の感触が変わる。


 土と柔らかい苔と新鮮な冷たい空気。

 木の中の水の道が、背後で静かに閉じていく。


 一行は、広い場所へ出ていた。


 森の奥に、円形の空地がある。

 空は見えない。

 枝と葉が高く重なり、天井のように覆っている。

 その隙間から、銀色の光が降りていた。


 中央には、まだ泉はない。

 かわりに、濡れた石の輪があった。


 石は十二個。

 それぞれに古い紋様が刻まれている。

 半分は苔に覆われ、半分は水に濡れている。

 石の輪の中は、ただの窪地だった。


 水はない。


 水音だけがする。

 どこからともなく、染み入るように。


 近くから、遠くから。

 足元から、頭上から。


 イグニスの焔が、小さくなる。


「着いたぞ」


 ルルリアは窪地を見た。


「泉、ないけど」


「逃げる泉だからな」


 イグニスは短く言った。


「ここからが本番だ」


 ルミナリスは、星の羅針盤を見た。


 針は、窪地の中心を指している。

 灼熱の石守が、胸元で静かに温もった。

 存在を肯定する神の花が光を放っている。


 オルクスは石の輪の外側で足を止める。

 その顔に、深い緊張が宿っていた。


「森王の泉……」


 言葉が落ちる。

 その瞬間、どこにもなかった水音が止んだ。

 森全体が、息を止めたようだった。


 窪地の中心で、最初の一滴が落ちる。

 ぽつり。

 乾いたはずの土に、銀色の水が滲んだ。

 たちまちに鏡のような水面が十二の石の文字沿うように張りめぐらされた。

 森王の泉が、一行を認め見始めていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

また是非ご一読ください。



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