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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第19章

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金枝の鳥籠Ⅻ ~商談と約束と

セフィリアは、少し楽しげに微笑んだ。


「ずいぶん強気ね」


「だって、あなたは欲しいでしょ」


「何を?」


「龍の血より、原初の焔より、もっと欲しいもの」


 ルルリアはまっすぐセフィリアを見た。


.~本文より

 ルルリアは卓の上の茶器を見た。


「部品が欲しい。中空魔導骨、銀青鋼、帝国規格の微細魔導環、魔鉄鋼、火喰い玉石。全部」


「高いわよ」


「知ってる」


「支払えるの?」


「龍の血を一滴」


 セフィリアの目が細くなる。


「一滴?」


「それ以上は出さない」


「火喰い玉石に原初の焔を噛ませるのでしょう?」


「それはバルカとイグニスの話。あなたの帳簿には載せない」


「載せない?」


「載せない。記録もしない。観測もしない。複製も試さない。火喰い玉石の変化を商会の研究帳簿に残さない」


 セフィリアは、少し楽しげに微笑んだ。


「ずいぶん強気ね」


「だって、あなたは欲しいでしょ」


「何を?」


「龍の血より、原初の焔より、もっと欲しいもの」


 ルルリアはまっすぐセフィリアを見た。


「私がこれから何をするか。その全て」


 セフィリアは黙った。


「戻らない私が、あなたの教えを使って、あなたの鳥籠の外で何をするか。あなたはそれを見たい。違う?」


 セフィリアはしばらく動かなかった。

 やがて、静かに笑った。

 とても、優しく嬉しそうに笑っていた。


「本当に、大人になったのね」


「その台詞、今日はもう二回目」


「何度でも言いたくなるのよ」


「じゃあ、いい加減覚えて。あたしはもう子供じゃない」


「難しいわね」


 ルルリアは肩をすくめた。


「条件を言うよ」


「どうぞ」


「部品は全部もらう。監視術式なし。保証印なし。商会の刻印もなし。バルカの工房へ直接運ぶ。途中で開封しない。火喰い玉石についての記録は禁止」


「こちらの利益は?」


「龍の血一滴」


「足りないわ」


「じゃあ、もう一つ」


 ルルリアは息を吸った。


「近いうちに起きる混乱について、私が読めた範囲の情報を一つ返す。ただし、私の仲間、ノビリス様、王国残党、潮牙商会を売る情報は出さない」


 セフィリアの目が変わった。

 商人の目になった。


「曖昧ね」


「曖昧にしてるの。あなたに都合よく使われないように」


「情報の価値は、こちらが判断するわ」


「判断するのはいい。でも、受け取るかどうかは今決めて」


「ルルリア」


 セフィリアの声が柔らかくなる。


「その条件では、私が損をするかもしれないわ」


「損をしない商談なんて、あなたは信用しないでしょ」


 セフィリアは一瞬、言葉を失った。

 それから、声を出さずに笑った。


「私の真似が上手ね」


「嫌になるくらい教わったからね」


「ええ。本当に、よく聞いていたもの。少し嬉しいわ」


 ルルリアは、少しだけ胸が痛くなった。

 それでも、目を逸らさなかった。


「受ける?」


 セフィリアは茶器を置いた。

 白磁の音が、小さく響く。


「一つ、こちらからも条件を出すわ」


「何?」


「西倉庫の荷を見なさい」


 ルルリアの表情が止まる。


「荷?」


「近いうちに動く荷よ。獣人たちの方へ流れるもの。薬、食料、武器、魔導部品。そして、少し厄介なもの」


「厄介なものって?」


「表向きは支援になる。けれど、見る者が見れば、支援だけではないと分かるもの」


 セフィリアは遠回しに言った。

 だが、ルルリアには分かった。


 監視して、記録して、照合する。

 人の行き先を、生き死にすら測るための道具。


「あなたが混ぜたの?」


「私だけではないわ」


「ずるい言い方」


「正確な言い方よ」


「その荷を見て、私に何をさせたいの」


「あなたなら、気づける」


「外せってこと?」


「危険なら」


「それを私にやらせるんだ」


「ええ」


「最低っ。手を汚したくないのね」


「ええ」


 セフィリアは否定しなかった。


「でも、あなたがやらなければ、そのまま流れるわ」


 ルルリアは、奥歯を噛んだ。


 怒りが湧いた。

 同時に、理解もしてしまった。


 セフィリアは止めたいのだ。

 自分だけで止めれば、名前を出せない相手に気づかれる。

 だから、外から来たルルリアたちを混ぜる。


 利用している。

 だが、危険も知らせている。

 本当に、最低だ。


「ルミィ」


 ルルリアは隣を見た。

 ルミナリスは静かに頷いた。


「ルルリアが選ぶことです」


「止めないの?」


「必要なら止めます。ですが、今のルルリアは、何を守りたいか分かっているように見えます。私が役に立てることがあるなら支援します」


 オルクスも言った。


「おぬしが行くなら、わしも行く。ルミナ嬢と同じじゃ」


「おじいちゃん」


「ただし、己を売るな」


 その言葉が、胸に落ちた。

 ルルリアはしっかりと頷いた。


「うん。売らない」


 そして、セフィリアへ向き直る。


「受けるよ」


 セフィリアの目が細くなる。


「商談成立?」


「まだ」


 ルルリアは指を立てた。


「西倉庫の荷は見る。危険な仕掛けがあれば外す。でも、その情報をあなたの帳簿には残さない。私の手順も記録しない。ルミィたちの動きも書かない。バルカの装具についても、完成品の詳細は残さない」


「徹底しているわね」


「あなた相手だからね」


「信用がないのね」


「あるよ」


 ルルリアは言った。


「あなたが絶対に帳簿へ残そうとするって信用してる」


 セフィリアは、今度こそ楽しげに笑った。


「ひどい信用ね」


「育てた人がそういう人だったから」


「否定できないわ」


「してよ」


「嘘になるもの」


「そういうとこ、嫌い」


 二人の間に、少しだけ昔の空気が戻った。

 優しくて、苦くて、危うい空気。

 ルルリアはそれを感じながら、もう一度はっきり言った。


「私は籠の中にはもういない」


 セフィリアは静かに頷いた。


「ええ」


「でも、商売人だから商談はする」


「ええ」


「私はあなたの小鳥じゃない。客だよ」


 セフィリアは、白磁の茶器を持ち上げた。


「では、お客様」


 その声は嬉し気で在り優しくもあった。

 そして、やはり怖かった。


「西倉庫へ、ご案内するわ」


 ルルリアは、腰の巻貝にそっと触れた。

 取られない。

 戻らない。

 そして、ただ逃げるだけでもない。


「ええ、やっと商談開始ね」


次回西倉庫での商談を描きます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでくれたなら、とても嬉しく思います。

コメやブクマなど、してみませんか?

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