表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第13章 神の花を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/118

第13章 神の花を求めてⅣ ~牙の命

「俺は、俺は、ロド様と共に在った。あの方の作る世界を見てみたくて、そのためだけに生きていた。俺では代わりになれないっ、なれないんだっ!」


 ゼイロスはロアンの足元にどっかと腰を下ろすと、真っすぐに見つめた。


「ロド様の遺志を継ぐと言え。言えばこの場で俺の首を今差し出す。そうすれば、この城にいる兵士たちはお前の言うことを聞きやすくなるだろ? さあ、言えっ」


~本文より

 グラウナが去ったあとも、しばらく広間には誰も口を開かなかった。

 血の匂いは消えず、兵たちの怒りも、怨みも、なお燻っている。


 それでも先ほどまでのような剥き出しの殺意は、オルクスの一喝と、届いた言葉の重みによって、かろうじて押し留められていた。


 ロアンは銀月の爪を握ったまま、動かなかった。


 ゼイロスは胸の傷を押さえながら、食い入るようにロアンを見つめていた。

 もしロド陛下の遺志を蔑ろにするのなら、銀狼族だろうが関係ない。俺のこの手で殺す。

 密やかな決意が血を滴らせる痛みと共に渦巻いていた。


 ロアンの瞳は揺れていた。

 その小さな爪に封じられているものが、あまりにも重い。

 王狼の名。銀狼族の未来。獣人たちの希望と怨嗟。

 そのすべてが、いまや自分の掌の内にある。


 だが、その重さに応えられるだけのものが、自分にあるのか。

 その問いだけが、何度も胸を抉った。


 そんなロアンの横へ、ランバートが静かに歩み寄った。


「……逃げぬのですね」


 低く落ち着いた声だった。

 ロアンは鼻で短く息を吐く。


「逃げたら、全部終わる。それだけはできない」


「そうですね」


 短い応答。

 それだけで、ランバートはそれ以上すぐには言葉を継がなかった。

 ロアンが横目で見る。


「何が言いたい」


「いや」


 ランバートは疲れた目を細めた。


「もう少し噛みつかれるかと思っていたので」


「アンタにか?」


「人間の将に、ですよ」


 ロアンは少しだけ黙った。

 それから低く答える。


「あんたが気に食わないのは、今も同じだ。ガイルは……もういない」


「正直で結構」


「俺は銀狼族だ」


 ロアンは掌の中の銀月の爪へ目を落とした。


「ロドさんが死んで、神人様は帝国の軍にいる。そんな中で、王国の生き残りまで敵に回したら……今度こそ、獣人は終わるだろう。未来永劫ただの家畜だ」


 その言葉に、ランバートはロアンを見た。

 若い。荒い。未熟だ。

 だが、ただ激情に振り回されているだけではないことが、今の一言で分かった。


「よく見えているんだな。感心する」


「見たくもないし、考えたくもない」


 吐き捨てるように言って、ロアンは空を仰いだ。

 その目には先ほどまでの怒りだけではなく、置いていかれた者の冷え切った孤独がまだ残っていた。


「……俺は、未熟だ」


 誰に向けるでもなく、零れた声だった。


「強さも、覚悟も、背負ってきたものも、何ひとつ届かない。ロド・グリムは重い——」


「同じになる必要はありません」


 言葉を断ったのは、ルミナリスだった。


 ロアンが振り向く。

 ルミナリスはゼイロスの応急処置を施しながら、はっきりと静かに告げた。

 百眼の奥で、銀月の爪の魔力がなおも微かに脈打っているのを観測している。


「ロド様と同じであることは、継承の条件ではありません」


 無機質なはずの声は、妙に柔らかかった。


「銀月の爪は、あなたをロド様に作り変えようとはしていません」


 ロアンの眉が寄る。


「……」


「託したのです」


 ルミナリスは迷いなく答えた。


「ロド様は、王の資質を、あなたの中に見たのでしょう」


 その言葉に、オルクスが腕を組んだまま、低く頷く。


「うむ」


 老剣士の声は、岩のように重かった。


「そんな器用な真似ができる男なら、あのような道を選ばずに済んでおったじゃろう」


 思いがけぬ言葉に、ロアンがわずかに目を見開く。

 オルクスは口元をほんの少しだけ歪めた。


「ロド殿は最期まで、不格好にしか生きられぬ男であった。じゃが、それでも王狼であった」


「……」


「ならばお主も同じじゃ」


 オルクスはロアンを真っ直ぐ見据える。


「最初から王である必要などない。立つと決め、背負い、信じぬいて、潰れぬよう足掻く者が、後から王になる」


 その一言は、慰めではなかった。

 むしろ逃げ道を塞ぐ、老英雄らしい苛烈な言葉であった。


 ロアンは言葉を失う。


 ルミナリスが構わず続ける。


「神人様も、あなたに完成を求めているのではありません。示せ、と言っただけです」


「何をだ」


「未来を守る者であることを」


 その答えは、あまりにも簡潔だった。


「王狼の名に値するかどうかは、いまここで決まるのではありません。これから決まるのです」


 ゼイロスはルミナリスの手を乱暴に振りほどくと、血を滴らせながらロアンへ歩み寄った。


「俺は、俺は、ロド様と共に在った。あの方の作る世界を見てみたくて、そのためだけに生きていた。俺では代わりになれないっ、なれないんだっ!」


 ゼイロスはロアンの足元にどっかと腰を下ろすと、真っすぐに見つめた。


「ロド様の遺志を継ぐと言え。言えばこの場で俺の首を今差し出す。そうすれば、この城にいる兵士たちはお前の言うことを聞きやすくなるだろ? さあ、言えっ」


 ゼイロスの赤い眼には強い悲しみと渇望が浮かんでいた。

 死ぬことの理由を求める者の光だ。


 ロアンは銀月の爪をじっと見つめると、おもむろに自らの首へ掛けた。


「お前の首など要らん」


 低く、だが揺るがぬ声だった。


「王狼として命じる。お前はノビリス殿の手駒であろう。ならばノビリス殿のもとで働け。同胞のために働き、同胞のために死ね。それが贖罪だ」


 その場にいた誰も、すぐには声を上げられなかった。


「これが、俺の――王狼としての最初の命令だ」


 ゼイロスはしばらくロアンを見上げ、長い尻尾を地に打ちつけると、目を閉じて深く息を吸った。


次回、ルミナリスたちが再び旅立ちます。陰謀と思惑が渦巻く旅路へ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白く読んでもらえるよう、しっかりと描いていきます。

またお目に是非かけてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ