↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第六章 放課後、きみは隣にいる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/79

第8話 二人で帰るはずだったのに

 男は動かなかった。


 私たちが一段下りても、二段下りても、石段の途中に立ったまま、こちらを見上げている。


 顔は暗くてよく見えない。


 それなのに、見られていることだけは分かった。


 隣を歩く玲奈の手に、少し力が入った。


「……美香」


「うん」


「戻る?」


 小さな声だった。


 私も一瞬迷った。


 神社へ戻れば、まだ誰かいるかもしれない。社務所に人が残っているかもしれないし、祭り帰りの参拝客が来るかもしれない。


 でも、男は何もしていない。


 ただ立っているだけだった。


 知らない人とすれ違うだけで引き返すなんて、考えすぎなんじゃないか。さっき玲奈が話していた「見られている気がする」という話に、私まで引っ張られているだけなんじゃないか。


 そう思った。


「大丈夫じゃない?」


「……うん」


 玲奈も同じことを考えたのかもしれない。


 私たちは、そのまま下りた。


 一段。


 また一段。


 男との距離が近くなる。


 十段くらい。


 もっと近く。


 すれ違えば終わる。


 それだけ。


 私は玲奈の手を握ったまま、なるべく男を見ないようにした。


 その時だった。


「君たち」


 声をかけられた。


 二人とも足を止めた。


「……はい?」


 玲奈が答えた。


 男が一段、上がってきた。


「祭りの帰り?」


「そうですけど」


 もう一段。


 理由は分からない。


 ただ、嫌だった。


 声なのか。


 歩き方なのか。


 それとも、もっと別の何かなのか。


 頭ではまだ何も起きていないと分かっているのに、身体だけが先に危険だと言っていた。


 私は玲奈の手を引いた。


「行こう」


「うん」


 男の横を通らないと、下へは行けない。


 だったら神社へ戻る。


 そう思って振り返った。


 直後だった。


「美香!」


 玲奈の声がした。


 強く腕を引かれた。


 何が起きたのか分からなかった。


 玲奈の身体がぶつかってきて、私はよろめいた。足が石段の縁を踏み外し、掴んでいたはずの玲奈の手が離れる。


「玲奈……!」


 視界が傾いた。


 空。


 木。


 石段。


 また空。


 身体が何度か硬い場所にぶつかって、息ができなくなる。


 止まった時、自分がどちらを向いているのかさえ分からなかった。


 音が遠い。


 頭の中で何かが鳴っている。


 起きなきゃ。


 そう思うのに、身体が動かなかった。


「……れい、な……」


 声になったのかも分からない。


 霞んだ視界の向こうに、誰かがいた。


 玲奈だった。


 少し上の石段に立っている。


 その向こうに男がいる。


 何かがおかしい。


 逃げて。


 玲奈。


 逃げて。


 そう言いたいのに声が出ない。


 玲奈が私を見た。


 目が合った。


 ほんの一瞬だった。


 その時の玲奈がどんな顔をしていたのか、今でもうまく思い出せない。


 怖がっていたようにも見えた。


 泣きそうだったようにも見えた。


 それでも。


 私を見ていた。


 最後まで。


 男の手元で、何かが光った。


「……玲奈」


 玲奈の身体が揺れた。


 私は手を伸ばした。


 届くはずがなかった。


 遠すぎた。


 立ち上がることもできなかった。


 助けることもできなかった。


 玲奈が倒れる。


 男がそのそばにいる。


 やめて。


 やめて。


 やめて。


 頭の中では何度も叫んでいるのに、身体は何一つ言うことを聞いてくれない。


 やがて視界の端から、少しずつ暗くなっていった。


 玲奈が見えなくなる。


 嫌だ。


 それだけは嫌だった。


 目を閉じたら、本当に玲奈がいなくなってしまう気がした。


「れい……な……」


 もう一度、名前を呼んだ。


 返事は聞こえなかった。


 ただ最後に。


 暗くなっていく世界の中で、私には確かに見えた。


 玲奈が、私と男の間に立っていた。


 まるで。


 私を庇うみたいに。


 そこで、私の記憶は途切れている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。