↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第六章 放課後、きみは隣にいる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
75/79

第7話 きみと過ごした夏⑥

 神社を出た頃には、祭りの音もずいぶん遠くなっていた。


「思ったより長居したね」


「玲奈のせい」


「なんで」


「帰りたくないって言ったの玲奈でしょ」


「美香だって普通に喋ってたじゃん」


「付き合ってあげたの」


「はいはい」


 玲奈は笑いながら、石段の一段目に足をかけた。


 来た時よりも夜は深くなっていた。境内にはまだ灯りが残っているけれど、長い石段の先は木々に囲まれ、ところどころ月明かりが落ちているだけだった。


 少し怖い。


 そう思ったのは、たぶん最近のニュースのせいだった。


 私たちと同じくらいの年齢の女の子が巻き込まれる、不審者に襲われる事件が続いていて、学校からも寄り道をせず帰るよう何度も言われていた。


 先生が知ったら、きっと怒る。


「ねえ」


「ん?」


「さっきの話」


 玲奈が振り返る。


「どれ?」


「見られてる気がするってやつ」


「ああ」


「最近ずっと?」


 玲奈は少し考えてから、石段を下り始めた。


「ずっとっていうか、たまにかな。学校から帰る時とか」


「一人の時?」


「美香と一緒の時もあったよ」


「それ先に言ってよ」


「言ったら怖がるじゃん」


「怖がらない」


「怖がってる顔してる」


「してない」


 むっとすると、玲奈が笑った。


「でも本当に気のせいだと思う。振り返っても誰もいないし」


「だったらいいけど」


「心配してる?」


「一応」


「一応かぁ」


「玲奈だから」


「それどういう意味?」


「そのまま」


 私が先に歩くと、玲奈が横に並んできた。


 肩が触れそうな距離だった。


 いつもそうだった。


 登校する時も、下校する時も、買い物へ行く時も、玲奈はだいたい私のすぐ隣を歩いていた。


「じゃあさ」


 玲奈が言った。


「高校も一緒に行こうよ」


「またその話?」


「大事な話」


「まだ二年生だよ」


「だから今から決めとくの」


「行きたい高校も決まってないのに?」


「美香は?」


「決まってない」


「じゃあ一緒」


「何が」


「行きたい高校が決まってないところ」


「そんなので一緒って言わない」


 玲奈が笑う。


 少しして、今度は私から聞いた。


「玲奈は将来なにしたいの?」


「将来?」


「高校の先」


「急に遠くなった」


「玲奈が始めたんでしょ」


「うーん……」


 玲奈は歩きながら本気で考え始めたらしい。


 こういうところが玲奈らしい。適当に答えればいいような話でも、聞かれると妙に真剣に考える。


「まだ分かんない」


 しばらくして、玲奈はそう答えた。


「でも、楽しい方がいい」


「ざっくりしてる」


「大事じゃん。美香は?」


「私も分かんない」


「じゃあ、それも一緒」


「だから何でも一緒にしないで」


「いいじゃん」


 あの頃の私たちにとって、将来はずっと遠くにあるものだった。


 高校生になることも、大人になることも、その先にどんな生活が待っているのかも、まだ現実味がなかった。だから好き勝手なことを言えたし、来年も再来年も同じように二人で話しているのだろうと、疑ったことさえなかった。


 明日というものは、今日の続きを約束してくれるものだと思っていた。


「美香」


「なに」


「私たち、大人になっても友達かな」


「急にどうしたの」


「なんとなく」


「知らない」


「そこは友達って言うところでしょ」


「聞かれても分かんないし」


「冷たい」


 玲奈は唇を尖らせた。


 私は少しだけ笑った。


「でも、たぶんそうなんじゃない」


「たぶん?」


「たぶん」


「じゃあ予約」


「何を」


「大人になっても美香の親友でいる権利」


「なにそれ」


「予約したから」


「勝手にして」


「した」


 玲奈は満足そうだった。


 その顔を見ながら、ふと思い出す。


「そういえば」


「ん?」


「好きな人」


 玲奈の足が一瞬止まった。


「まだ言ってる」


「結局、誰なの」


「秘密」


「ずっと一緒にいたい人なんでしょ?」


「うん」


「同じ学校?」


「うん」


「同じ学年?」


「うん」


「同じクラス?」


「さあ?」


「今のでだいたい分かった」


「絶対分かってない」


「じゃあ言って」


「嫌」


「なんで」


 玲奈は答えなかった。


 二、三段先まで下りてから振り返る。


「いつか教える」


「いつ?」


「いつか」


「ずるい」


「そういうものです」


 得意そうに言う。


「じゃあ高校卒業するまでに」


「長い」


「大人になるまで」


「もっと長い」


「じゃあ……」


 玲奈は少し考えて、それから笑った。


「美香が自分で気付くまで」


「なにそれ」


「秘密」


 そう言って、玲奈は笑った。


 石段はまだ半分ほど残っていた。


 私たちは再び歩き出した。


 祭りの帰り道だった。


 くだらない話をして、笑って、これから先のことを話した。


 どこにでもある夏の夜だった。


 だから最初、それが何なのか分からなかった。


 玲奈が突然、立ち止まった。


「……美香」


「なに?」


 返事がない。


 数段先にいた玲奈が、石段の下を見ていた。


「玲奈?」


 その横顔から、さっきまでの笑顔が消えていた。


 私も玲奈の視線を追った。


 石段の途中。


 木々の影が濃く落ちる場所に、人がいた。


 男だった。


 顔まではよく見えない。


 ただ、そこに立っている。


 登ってくるわけでもなく、下りていくわけでもなく。


 私たちの方を向いて。


 じっと。


「……行こ」


 玲奈が小さく言った。


「うん」


 どちらからともなく、私たちは手を繋いだ。


 玲奈の手が、少しだけ震えていた。


 私の手も、たぶん同じだった。


 そして二人で、ゆっくり石段を下り始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。