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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第六章 放課後、きみは隣にいる

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第4話 きみと過ごした夏③

 気付けば、小学校は終わっていた。


 卒業式の日のことは不思議と細かく覚えている。体育館のワックスの匂いとか、椅子を引く音とか、校長先生の話が思ったより長かったこととか、そんな別に大事でもないことばかり記憶に残っている。


 卒業する実感は、実はその時はあまりなかった。


 中学も同じ町だし、会えなくなるわけじゃない。


 別れという感じもしないし寂しくもなかった。


 だから、泣いている子たちを少し不思議に見ていた。


 私も玲奈も、その輪の外にいた。


「美香」


 式が終わったあと、玲奈が校庭の端から歩いてくる。


 卒業証書の筒を肩に担いでいた。


「写真撮った?」


「撮ってない」


「撮ろう」


「なんで」


「卒業だから」


「さっきまで興味なさそうだったじゃん」


 玲奈は少し考えてから言った。


「終わると急に寂しくなる」


 変なことを言う。


 でも、その言い方は少しだけ覚えている。


 玲奈は案外そういうところがあった。始まる前は平気そうなのに、終わる瞬間になると急に立ち止まる。運動会のあとも、遠足のあとも、夏休みの最終日もそうだった。


 過ぎていく時間を惜しむ癖がある。


 その頃の私は、そういうのがよく分からなかった。


 終わるものは終わるし、次がある。


 そんなふうに思っていた。


「中学も一緒だし」


 私が言う。


 玲奈が笑う。


「それもそう」


 結局、写真は撮った。


 変な顔だった。


 あとで見返したら、私だけ少し嫌そうな顔をしていて、玲奈だけやたら笑っていた。


 あの写真は今も残っている。


***


 中学一年。


 春。


 クラス分けの日。


 昇降口の前に人が集まっている。


 紙が貼られていて、みんな騒いでいる。


「美香!」


 声がする。


 見る。


 玲奈だった。


「見た?」


「まだ」


「一組!」


「玲奈?」


「うん」


 紙を見る。


 私も一組だった。


「おー」


「おーじゃない」


「そんな嬉しい?」


「嬉しい」


 即答だった。


 玲奈はそういうところがある。


 嬉しい時に変に隠さない。


 だからこっちも少し照れる。


「同じクラス三年連続」


「すごいね」


「運命」


「軽い」


「失礼」


 笑う。


 別に奇跡じゃない。


 同じ地域の学校なんだから、そういうこともある。


 でも、その時は少し嬉しかった。


 教室に知っている人がいる安心感じゃなくて。


 明日もたぶん同じように話すんだろうな、という安心感だった。


***


 中学は思っていたより普通だった。


 制服になった。


 教科が増えた。


 部活が始まった。


 でも生活はそんなに変わらない。


 休み時間になれば玲奈が来る。


 帰り道は一緒。


 休日もなんとなく遊ぶ。


「美香」


「なに」


「購買」


「嫌」


「まだ何も言ってない」


「どうせ買いに行こうって話でしょ」


「正解」


「行かない」


 玲奈は黙る。


 少し考える。


「焼きそばパン半分」


「行く」


「よし」


 交渉成立だった。


 そんな話ばかりしていた。


 思い返すと中身がない。


 でも、その中身のない時間がすごく大きかった。


 友達って、案外そういうものだったのかもしれない。


 悩みを相談したとか、感動する話をしたとかじゃなくて、何でもない会話を山ほどした相手の方が、あとから思い出す。


***


 夏。


 窓が開いている。


 教室は暑い。


 授業中なのに誰かが寝ている。


 蝉がうるさい。


 そんな日だった。


「ねぇ美香」


「なに」


「好きな人いる?」


 急だった。


 ノートから顔を上げる。


「いない」


「ほんと?」


「玲奈は?」


 玲奈は少し考える。


「いる」


「え?」


「いる」


「誰」


「秘密」


 笑っている。


 嘘か本当か分からない。


「なんで聞いたの」


「なんとなく」


「最低」


 玲奈は机に突っ伏した。


「美香は分かりやすい」


「なにが」


「今ちょっと焦った」


「焦ってない」


「焦った」


 笑う。


 教室の外を見る。


 空が白い。


 暑い。


 時間だけがゆっくり流れている。


 あの頃の夏は長かった。


 まだ一年生だからだろうか。


 一週間も、一か月も、夏休みも、全部ずっと続く気がしていた。


 だから、何も急いでいなかった。


 来年も同じだと思っていた。


 その先も。


 別に疑いもしなかった。


***


 中学二年の春。


 私たちは少し背が伸びて、少しだけ話すことが変わった。


 でも結局。


 隣にいる人は変わらなかった。


 玲奈が言った。


「夏祭り行こう」


「まだ先だけど」


「約束」


「予約みたいに言うね」


「じゃ約束」


 その時は、別に何も思わなかった。


 毎年行っている祭りだった。


 花火があって、屋台があって、帰りが少し遅くなる。


 それだけ。


 だから私は、


「いいよ」


 と答えた。


 玲奈は満足そうに笑っていた。


 その笑顔だけ、なぜか今でもよく覚えている。



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