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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第六章 放課後、きみは隣にいる

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第3話 きみと過ごした夏②

 小学五年生。


 春。


 転校生の水城玲奈がやって来てから、一週間ほどが過ぎていた。


 結論から言うと。


 玲奈は変な子だった。


「美香ー」


 休み時間。


 美香が本を読んでいると、玲奈がやってくる。


「なに?」


「暇」


「友達と遊べばいいじゃん」


「美香いるし」


「理由になってない」


 玲奈は勝手に隣の席へ座った。


 そして。


 本を覗き込む。


「面白い?」


「面白いよ」


「どんな話?」


「冒険もの」


「へー」


 興味があるのかないのか分からない返事だった。


 それでも玲奈は離れない。


 しばらく黙っていたかと思うと。


「ねぇ」


「なに?」


「お腹空いた」


「知らないよ」


「給食まだ?」


「あと二時間」


「長い」


「我慢して」


「無理」


「無理じゃない」


 玲奈は机に突っ伏した。


 美香は本へ視線を戻す。


 けれど。


 少しだけ口元が緩む。


 玲奈はうるさい。


 騒がしい。


 落ち着きがない。


 それなのに。


 一緒にいて嫌ではなかった。


 むしろ。


 休み時間になると、『今日は何を言い出すんだろう』と考えている自分がいた。


***


 その日の放課後。


 二人は並んで帰っていた。


 いつの間にか、それが当たり前になっていた。


「ねぇ美香」


「なに?」


「好きな食べ物は?」


「急だね」


「大事」


「そうかな」


「大事」


 玲奈は真面目な顔だった。


「ハンバーグ」


「おお」


「玲奈は?」


「オムライス」


「普通だね」


「失礼な」


「なんかもっと変なの言うかと思った」


「変なのってなに」


「イナゴとか」


「食べないよ!」


 玲奈が抗議する。


 美香は笑った。


「今笑った」


「笑ってない」


「笑った」


「気のせい」


 玲奈が頬を膨らませる。


 子供みたいだった。


 玲奈はすぐに感情が顔に出る子だった。


 嬉しい時は嬉しそうに。


 怒る時は分かりやすく。


 悲しい時はすぐ黙る。


 隠し事が苦手だった。


 だからこそ。


 一緒にいて安心できたのかもしれない。


***


 六月。


 梅雨の季節。


 その日、学校帰りに二人は公園へ寄った。


 雨上がりだった。


 遊具には水滴が残っている。


「あ」


 玲奈が声を上げた。


 ブランコの近く。


 小さな段ボール箱が置かれていた。


 中から。


 弱々しい鳴き声が聞こえる。


「猫だ」


 二人は駆け寄った。


 箱の中には子猫がいた。


 白と茶色の混じった小さな猫。


 まだ生まれて間もないようだった。


「かわいい……」


 美香が呟く。


 玲奈はしゃがみ込んだ。


「捨て猫かな」


「たぶん」


「どうしよう」


「どうしようって……」


 二人は顔を見合わせた。


 連れて帰る?


 でも飼えない。


 置いていく?


 それも嫌だった。


「うーん……」


 玲奈が悩む。


 珍しく真剣だった。


 やがて。


 玲奈は立ち上がった。


「よし」


「なに?」


「飼ってくれる人探そう」


「そんな簡単に?」


「やる前から諦めるのはよくない」


 玲奈はそう言った。


 そして本当に。


 近所中を歩き回った。


 商店街。


 公園。


 住宅街。


 知り合いの家。


 夕方になるまで。


 諦めずに。


 結局。


 商店街の花屋のおばさんが引き取ってくれた。


 帰り道。


「疲れた……」


 美香はへとへとだった。


 玲奈は笑う。


「でも良かったじゃん」


「まぁ」


「猫も助かったし」


 夕焼けが二人を照らしていた。


 その時。


 美香は思った。


 玲奈は馬鹿だ。


 お人好しだ。


 面倒事に自分から突っ込んでいく。


 でも。


 そういうところが好きだった。


***


 ある日の昼休み。


 校庭で遊んでいた玲奈が盛大に転んだ。


 何もない場所で。


 本当に何もない場所で。


 派手に。


「うわぁ!」


 砂煙が舞う。


 周囲が静まる。


 一秒後。


 爆笑が起きた。


「玲奈!」


「大丈夫!?」


「今の何!?」


 玲奈は顔を真っ赤にして立ち上がった。


「笑うなー!」


 その姿がおかしくて。


 美香まで笑ってしまった。


 玲奈が振り向く。


「美香!」


「ご、ごめん……」


「笑った!」


「だって……」


「裏切り者!」


 玲奈は本気で怒っていた。


 けれど。


 五分後には一緒に笑っていた。


 そんな子だった。


***


 季節は少しずつ流れていく。


 春が終わり。


 夏が近づく。


 気付けば。


 二人は毎日一緒にいた。


 学校でも。


 帰り道でも。


 休みの日でも。


 それが当たり前になっていた。


 あの日。


 転校してきたばかりの玲奈が、『親友になるから』と言った時。


 美香は変なことを言う子だと思った。


 けれど。


 今なら分かる。


 玲奈は最初から本気だったのだ。


 人との距離を測るのが苦手で。


 思ったことをそのまま口にして。


 勝手に隣へやって来る。


 そんな玲奈だったから。


 気付けば。


 私の隣にいるのが当たり前になっていた。


 そして。


 まだ知らない。


 私たちには、これからたくさんの時間が待っていると思っていた。


 ずっと。


 ずっと先まで。


 一緒にいられるのだと。


 そう信じていた。



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