第2話 裏山の入り口
石段は思ったより長かった。
上へ行くほど木が増え、光が届きにくくなる。
「……結構あるね」
朱音が少し息をつく。
「昔はここ通ってたの?」
「らしいです」
星蘭は周囲を見回していた。学園の裏山へと続く石段は古く、ところどころ苔が生えている。だが、不思議なことに――落ち葉がほとんどなかった。まるで誰かが掃除しているみたいに。
コツ。コツ。コツ。
足音が続く。
朱音がふと振り向いた。
「……星蘭」
「はい?」
「今さ」
朱音は少し眉を寄せる。
「足音、変じゃない?」
星蘭は首を傾げる。
「変?」
「うん」
朱音はもう一度石段を見る。
「なんか、私たちの足音の他に」
一瞬、言葉を探した。
「もう一人いるみたいな感じ」
星蘭は少し考える。そして小さく笑った。
「それ、昨日の怪談の影響では?」
「……かな」
朱音は肩をすくめた。
「自分で言っといて怖がるのも変だよね」
二人はまた歩き出した。
コツ。コツ。コツ。
足音は、やはり三つあった。
石段を上りきると、小さな開けた場所に出た。そこは山の途中の広場のようだった。中央に、小さな池がある。
「……池?」
朱音が目を丸くする。水は静かだった。風が吹いているのに、水面はほとんど揺れていない。鏡みたいに静かだった。
そして。池の周りに、白い花が咲いている。
「昨日の花……」
朱音がつぶやく。花壇にあったものと、同じ花。いや。ここは、その花で埋まっていた。
ふわり。甘い匂いが強くなる。
星蘭は池を見つめていた。その目が、少しだけ揺れる。
「……変です」
「何が?」
「この池」
星蘭はゆっくり言った。
「深い」
朱音が笑う。
「見ただけで?」
星蘭は首を振る。
「違います」
少し黙ってから言う。
「……知ってる感じがするんです」
朱音が首を傾げる。
「池を?」
「はい」
星蘭は水面を見つめていた。
「来たことがある気がする」
その瞬間だった。
ぱしゃ。
小さな水音がした。
朱音が振り向く。
「……え?」
池の端に、波紋が広がっていた。まるで。誰かが、水に触れたみたいに。
「魚?」
朱音が言う。でも。魚影は見えない。
そのとき。星蘭が、池の向こう側を見た。
木の影。そこに。白い影が立っていた。長い髪。白い制服。静かにこちらを見ている。
「……」
星蘭は一瞬、目を細めた。しかし次の瞬間。風が吹いた。葉が揺れる。もう、そこには誰もいなかった。
「どうしたの?」
朱音が聞く。
星蘭は少しだけ迷った。そして首を振る。
「……何でもないです」
そのとき。池の水面が、わずかに揺れた。
そこに映っていた。
星蘭。朱音。そして。もう一人の少女。二人と同じ制服を着た少女が。星蘭のすぐ後ろに立っていた。
だが。それに気づく者は、誰もいなかった。
その少女は、静かに微笑んでいた。まるで。ずっと前から、ここにいたように。
――真白。
それが、彼女の名前だった。




