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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第五章 水の記憶

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第2話 裏山の入り口

 石段は思ったより長かった。

 上へ行くほど木が増え、光が届きにくくなる。


「……結構あるね」


 朱音が少し息をつく。


「昔はここ通ってたの?」


「らしいです」


 星蘭は周囲を見回していた。学園の裏山へと続く石段は古く、ところどころ苔が生えている。だが、不思議なことに――落ち葉がほとんどなかった。まるで誰かが掃除しているみたいに。


 コツ。コツ。コツ。


 足音が続く。


 朱音がふと振り向いた。


「……星蘭」


「はい?」


「今さ」


 朱音は少し眉を寄せる。


「足音、変じゃない?」


 星蘭は首を傾げる。


「変?」


「うん」


 朱音はもう一度石段を見る。


「なんか、私たちの足音の他に」


 一瞬、言葉を探した。


「もう一人いるみたいな感じ」


 星蘭は少し考える。そして小さく笑った。


「それ、昨日の怪談の影響では?」


「……かな」


 朱音は肩をすくめた。


「自分で言っといて怖がるのも変だよね」


 二人はまた歩き出した。


 コツ。コツ。コツ。


 足音は、やはり三つあった。


 石段を上りきると、小さな開けた場所に出た。そこは山の途中の広場のようだった。中央に、小さな池がある。


「……池?」


 朱音が目を丸くする。水は静かだった。風が吹いているのに、水面はほとんど揺れていない。鏡みたいに静かだった。


 そして。池の周りに、白い花が咲いている。


「昨日の花……」


 朱音がつぶやく。花壇にあったものと、同じ花。いや。ここは、その花で埋まっていた。


 ふわり。甘い匂いが強くなる。


 星蘭は池を見つめていた。その目が、少しだけ揺れる。


「……変です」


「何が?」


「この池」


 星蘭はゆっくり言った。


「深い」


 朱音が笑う。


「見ただけで?」


 星蘭は首を振る。


「違います」


 少し黙ってから言う。


「……知ってる感じがするんです」


 朱音が首を傾げる。


「池を?」


「はい」


 星蘭は水面を見つめていた。


「来たことがある気がする」


 その瞬間だった。


 ぱしゃ。


 小さな水音がした。


 朱音が振り向く。


「……え?」


 池の端に、波紋が広がっていた。まるで。誰かが、水に触れたみたいに。


「魚?」


 朱音が言う。でも。魚影は見えない。


 そのとき。星蘭が、池の向こう側を見た。


 木の影。そこに。白い影が立っていた。長い髪。白い制服。静かにこちらを見ている。


「……」


 星蘭は一瞬、目を細めた。しかし次の瞬間。風が吹いた。葉が揺れる。もう、そこには誰もいなかった。


「どうしたの?」


 朱音が聞く。


 星蘭は少しだけ迷った。そして首を振る。


「……何でもないです」


 そのとき。池の水面が、わずかに揺れた。


 そこに映っていた。


 星蘭。朱音。そして。もう一人の少女。二人と同じ制服を着た少女が。星蘭のすぐ後ろに立っていた。


 だが。それに気づく者は、誰もいなかった。


 その少女は、静かに微笑んでいた。まるで。ずっと前から、ここにいたように。


 ――真白ましろ


 それが、彼女の名前だった。



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