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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第三章、異世界海上同棲生活with星と煙と他色々。
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第十話、西の神様対策。

 水上を行くサーフボードが一枚。

 日本の――いや地球人類の誰が見てもこれを船だとは思わないだろう。しかしこれは船である。魔法で浮いて魔法で動く、正真正銘ファンタジーな魔法船だ。たぶん工夫すれば空も飛べるんじゃないかなと思ったり思わなかったり。


 魔法船には現在、三つの人影が見える。

 上空数十メートルより見下ろす中でも輝きを衰えさせず世界を照らす白金色の髪。美貌のリィムさんである。


 他にもソベルトさんとミィルクさんが同乗しており、ハユレさんはお留守番だ。ただのお留守番ではなく、深満様への情報伝達という重大過ぎる役目を担っている。申し訳ないけど、冷や汗だらだらだったハユレさんはかなり面白かった。


『ふいー……』


 疲れた。霊体の身体だけど精神的に。こう、疲れたーって感覚。


 今は午後の十六時。なんと驚いたことに、二十一月六日の十六時なのだ。ちなみに深満様浄化作戦は二十一月六日の朝に行われた。

 そう、そうなのである。日付が変わったとか時間が飛んだとか、そんなファンタジーなことは一切なく、普通に同じ日のまま。レメイラはファンタジーだけど、今日は別にファンタジーじゃなかった。


 なんやかんやと色々あって、あれよあれよと言う間に海上神を鎮めに行こう!となってしまった。びっくりだよ。


『えー、クゥレー』

『なんだー』

『ツィヤー』

『シー。なんでしょう』

『今朝も同じようなことやった気がするけど、またやります。海上神攻略作戦の概要について再確認をしよう』


 集めた――集める前から既に僕の近くにいた異種族二人と話を始める。

 もくもく煙の妖精クゥレとピカピカミニ星のツィヤだ。


『わーわー!』

『ワーワー』

『いやそれは今はいらないから』


 そこまで同じにしてほしいとは言ってない。


『改めて、海上神攻略の手順を話そう。ツィヤ』

『シー。はい。最初にシィステラ様たちレメイラの方による魔法術で嵐を弱めます。この際、深力の影響を受けないようジンゴのポルターガイストが必要です。わたしも協力します』

『つぎはわれだな。えっと、フカミツががんばって海なおすの』

『そうだね』


 とにもかくにも星脈の乱れをどうにかしないといけないので、そこは深満様に任せてある。

 時間をかければレメイラの人でもできるだろうが、今回はできちゃう人に任せちゃおうということでお願いさせてもらった。深満様との連絡手段は色々あるけど、わかりやすくレメイラの携帯を使えばいいよね、ってことでハユレさんがそちらにいる。だからこそのお留守番である。


『深満西ノ海蛇フカミツニシノカイジャ様が星脈の修復をしている間、わたしたちは海上神の怒りを治め、対話への準備に取り掛かります』

『すごい怒ってるからなー。われもあんまりちかづきたくないけど、みんなが行くならしょうがない。てつだってやる。たぶんこうげきしてくるから、われがぜんぶふせぐよ』

『クゥレが海上神の攻撃を防いでいる間に、ジンゴとわたしは引き続きポルターガイストで深力の影響を無効化します』

『ふたりががんばって、あとはリィムたちがまほうじゅつでこえ大きくして、ジンゴと一緒にはなしかけておわり!』


 最後はリィムさんと僕の二人で対話に持ち込んで終わりだ。対話メインはリィムさんなので、僕は念力で神様の意識を無理やりこっちに向けるだけだったりする。でも。


『なんか僕のやること多くない?』

『今さらだぞ』

『そうかなぁ』

『ジンゴ、わたしもお手伝いするので気負う必要はありませんよ』

『うん。ありがとうね』


 感謝への返事は短い点滅。

 話をまとめると。


 一、嵐はリィムさんたちが魔法術で止める。

 二、僕とツィヤがポルターガイストで深力除去する。

 三、星脈の修復は深満様がやってくれる。情報伝達役はハユレさん。

 四、海上神の攻撃はクゥレが防ぐ。

 五、対話への意識誘導は僕がポルターガイストで行う。

 六、魔法術で神様に声届くよう調整したリィムさんがお話する。


 こういうことか。

 わかんないけどいけそうな気がしてきたな。うん。


「私たちも手順の最終確認しませんか?」

「も?」

「はい。上でジンたちも状況の確認をしていたようなので」

「そうなのねぇ。いいわよ、私たちもやりましょうかぁ」


 何やら下の方でお喋りが聞こえる。リィムさんの透き通った声は聞き逃さない。僕の耳は良いのだ。

 ふよふよ飛んで下に降りていく。魔法船で三人完璧なバランス感覚を持って立って話していた。結構雪風強いのにね。まあ実際のところ魔法で波とか風とかの影響受けてないらしいけど。


「……」

「……」

「……あの、お二人ともどうして私を見られるのですか?いえ、何を求めているのかはわかります。しかし今回の私は特に状況を深く理解しているわけではありません。いえ理解はしていますが、今回もまた中心に居るのはリィムさんです。相手が神様とはいえ、異種族であることに変わりはありませんから。ならやはり進行はリィムさんではありませんか?」

「んー、お話長いわぁ」

「進行はリィムさんでは?」

「簡潔でよろしい。――だ、そうよぉ?リィムちゃん」

「私は自分のことで手一杯なので、全体の進行と状況の把握はソベルトさんにお願いしたいです」

「……ミィルクさんは?」

「うふふー、言わなくてもわかるでしょお?」

「……はぁ。ええ、はい……そうですね。私の手が比較的自由なのは確かでしょう。……はぁ。わかりました。私が情報の統括を行います」


 溜め息一つ。安堵の息一つ。微笑み一つ。

 和やかに話してるなぁ。平和で何より。


『僕も和やかな話でもするか……』


 話し相手は二人しかいないので、その二人の方を見る。


『わははー!われがむてきのクゥレだぞー!てんこうほうかいびーむ!!』

『一時的かつ極限られた範囲とはいえ、天候操作を容易く行えるのは天候種故でしょう。しかし、共星種であるわたしたちは恣意的な変化を元通りにすることも可能です』

『わ、われの隕石雨がきえた……』

『次をお願いします』

『むぅ、まけない!』


 なんだこれ。急に超次元バトル始まってるじゃん……。


『……はぁ』


 ソベルトさんと同じく溜め息を吐き、そっと目を逸らして見なかったことにした。


 規模は小さいのにやたら高度なやり取りに割り込むのは止め、ある程度海上神――竜神様の領域に近づくまで待つ。


 雲行きは怪しいまま。ひらりはらりと音もなく、永遠を演出する雪が海空を彩る。見慣れた雪空はあまり変化がないようで、じっと見つめているとその移り変わりがよくわかる。


 単純に上空の風で動き飛ばされもするが、今はそれだけじゃないとわかる。わかってしまう。

 目で追っていれば、雲の移動がやけに速いとわかるし、風に吹かれただけでは説明できない動きも見せている。まるで何かに巻かれるかのように、恒星の周りを公転する惑星のように、ゆるりと長大な弧を描き雪雲は動く。


 中心にある者、いる存在はきっと神様。神様の状態がどんななのかはわからないけれど、引き起こされた嵐によって雲が巻かれているのだ。

 海も少しずつ少しずつと波が高くなってきている。魔法の力で揺れはなく、僕自身は空に浮いているため実感はないが楽観視してはいられない。


 今日二度目の神滅――じゃなかった。今日二度目の説得が始まる。


「そろそろです。ミィルクさん、準備をお願いします」


 翻訳が聞こえてくる。いつの間にかじゃれ合い(超次元)を止めていた二人が近くに漂っていた。眼下ではリィムさんを後ろに、魔法船前方で並んで立ったミィルクさんとソベルトさんが両の手を掲げている。


 海は荒れている。

 強い風に襲われた雪が吹雪となって景色を歪めている。海しか見えない世界ではあるが、気のせいでなく水平線が霞んで見えなくなっている。

 僕にも何か手伝えることはないかと……。


『あれ、僕ってポルターガイスト使うとかそんな話じゃなかった?』

『シー。はい。その通りです。既に海上神の影響範囲には入っています。わたしたちも深力除去を行いましょう』

『うん。……ちなみに深力ってどうやって見つけるの?』

『宙空に念力を使ってみてください。普段の空間と異なり力の波があるはずです』

『ふむ……』


 言われて使ってみる。

 指を伸ばし、何もない空に触れる。


 感覚的に、念力の使い方ならしっかりと心得ている。

 力を流す。動かすように、揺らすように、掴むように。


『……うわ』


 重い。重さそのものというより、水中をかき分ける時の圧力的なアレ。

 普段ならサラサラっと抵抗なく空中を動かせるのに、今は結構重い。鬱陶しい抵抗感がある。ツィヤが言うにこれが深力そのものなんだろう。

 この重さだけを留めるように固定すればいいわけか。


『むーん』


 集中。


『えい、ほい、やー』


 気分だけの声出しを行いながら念力を使う。

 範囲は狭く、魔法船すら抜けられない程度の空間だ。広範囲はそもそも無理だし、少し気になることもあった。


『……あー、やっぱり?』


 空気が攪拌されているということは、すなわち深力も攪拌されているということ。

 それに抗うのは当然として、深力を一か所で捕まえ続ければ必然たくさん溜まっていく。つまりそういうこと。最初から重いのにどんどん重くなっていって念力の出力が足りなくなる。


『ツィヤ、深力の量多くて僕じゃ無理そう』

『シー。継続と増幅はわたしが行いましょう。ジンゴは範囲の選択と移動をお願いします』

『おっけー。魔法術の範囲見ながらってことだよね』


 ピカピカ光るツィヤに頷き、再度ポルターガイストを行使。

 今度はリィムさんとの意思疎通を熟し、魔法船の前方、船全体が通る幅を見極める。


『リィムさん。船の前方だけ深力取り除くので、その辺への魔法術お願いします』

「ん、ええ。わかったわ』


 パーフェクト翻訳のおかげでスムーズに会話ができる。僕の耳には翻訳音声(ボイス担当:クゥレ)しか聞こえないけど、話が進むならそれでいい。


 念力を使い、重みだけを捕らえて取り除く。僕がするのは範囲の確認だけだ。掴んで、船が通り過ぎれば離す。これの繰り返し。

 力の増幅は既にツィヤが行ってくれているようで、尋常じゃない力が念力越しに伝わってくる。例えるなら、僕の念力が目の大きい網だとして、ツィヤの力を加えた結果出来たのは網目のない網。細かすぎて目じゃ見えないやつだ。しかも自分の捕りたいやつだけ捕れる取捨選択機能付き。すごい。


 まあ選別機能は僕の念力にデフォルトで付いているんだけどね。


 えいえいと念力を使いながら、見えない霊的アンカーを刺した船が進むのに身を任せる。


 激しく吹き荒れていた風も、波打つ海面も、吹きすさぶ雪も。まるで僕らの乗る船の周囲だけが隔離され取り残されたかのように静まり返っている。


 水面を滑り続けることしばらく。

 ハユレさんから、星脈の修復はそれなりに進んでいると連絡があった。竜巻や海流により削られた部分は簡単に直せたが、やはり深海穴は厄介らしい。超越存在の元神様パワーをふんだんに使っても大変だと言う。


 深海穴の場所を変えるとかなんとか言っていたけれど、その発言聞いてつい耳を疑っちゃったね。深海穴って異世界への入口でしょ?それ場所変えられるんだ……。


 そんな二度見ならぬ二度聞きする話もありつつ、こちらも順調に進んでいく。


「きゃーっ、風強すぎて術の壁越えてきちゃってるわぁ」

「言っている割にミィルクさん余裕そうですね……。私は、結構これでも限界が近いのですが」

「うふふー、ソベ君は普段から運動しないからよぉ?私はねー。毎日のんびり体操してるんだから」

「体操でどうにかなる問題じゃないですよ、これ」

「ふ、二人ともよく立っていられますね……!」


 船を守る魔法術の壁は破られ、いい感じに雪と風が吹き込んできていた。もちろん僕は霊体なので影響はない。風の音は轟々と結構聞こえてきているけど。


 バランス感覚抜群にその身だけで立つミィルクさん、ソベルトさんと違い、リィムさんは水人形数体に身体を支えてもらっていた。可愛い。


『……しかし』


 念力と魔法術は継続しているはずなのに、どうしてこうも嵐の影響を受けてしまうのか。さっきまでの平和な景色はどこに行ってしまったのだろう。


『ジンゴ』

『はい?』


 考えていたらツィヤから声が飛んできた。横を向き、ピカピカ衛星を高速回転するミニ星を見る。ずいぶんと光っているから、何か急ぎの用でもありそうだ。


『クゥレが戦闘を開始しました。上空をご覧ください』

『え……うわぁ、やば……』


 白む空の上。雪に紛れて雨あられと降り注ぐ物体を薄く広がった半透明な虹色が防いでいた。ぶつかった地点が揺らぎ撓み、すぐに戻る。

 問題はその範囲だった。空全面、視界いっぱいに同様の景色が広がる。端的に言ってやばい。竜神様の攻撃もやばいけど、それを全部防ぐクゥレもやばい。ていうか僕らの直上、虹バリアにちっちゃく見えるのクゥレだよね、たぶん。いつの間にかあんなところまで移動したんだろう……。


『上空は問題なさそうですね。わたしたちは継続して前方の深力除去に努めましょう』

『うん……』


 頷き、見なかったことにして自分の念力に集中する。リィムさんたちも驚いた顔で空を見ていたけど、そっちも見なかったことにした。スケールが大き過ぎてね。考えるだけ無駄って話さ。


 風と波と会話と、三つの音に微かなバリアっぽい音も混じる海上を進む。

 戦闘が始まってどれだけ経っただろうか。十分くらいは経ったような気もするし、もっともっと時間が過ぎているような気もする。わからない。ただでも、そろそろだというなんとなくの予感はある。


『――ジンゴ』

『うん』


 呼び声には頷くだけで返す。ツィヤの言いたいことはわかった。

 前方上空、ついさっきまで気づかなかったのがどうしてか疑問に思ってしまうほどの圧倒的な存在感。

 それは巨大で細長く、遠目でもわかる硬質な鱗や揺れる髭を持っていた。海色の身体に、海色の目。全身海色一色の竜が、怒気を散らし炎を宿した目で僕らを、霊体である僕も含めたレメイラ一行を睥睨していた。


 そこには、雪の嵐を纏った竜の神が屹立していた。

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