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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(後編)
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第三十話、少年と私と夕枯れ退治①

 秋が深まり、ついに紅葉の本領発揮とばかりに木々は色を変え始めていた。

 宇美花(うみはな)中央公園は未だ緑の香り色濃く、紅葉の見頃までもう少しといったところ。初めての日本の秋が楽しみで仕方ない守護霊がここに一人いたりいなかったり。


(また公園来るからもうちょっと待とうね)


 年下の少年から苦笑混じりのお小言をもらい、はーいと返事をさせてもらう。しょうがないなぁ、とでも言いたげな眼差しを向けられちゃった気もするけれど、私は気にしない。お姉さんはそんなことで動じたりしないものなのよ。


 薄っすらと紅葉の始まった公園に気持ちをぐいぐい引き上げられつつも、頭では冷静に現状の分析を行っておく。


 十一月の八日、火曜日。夜。

 時刻はもう少しで十九時を迎え、漆黒の空には薄黄色に輝く満月が浮いていた。雲はなく、天頂に一つ眩い輝きだけ。


 視線を前に戻し、見渡せば広がる数度目の公園。

 半円状に作られた客席(石段)と儀式場のようにも見える、水を湛えた円形の広場。夜だからこそ公園は神秘性を増し、真円の月明かりが非現実感を助長させる。


 よく見れば公園そのものに変化はほとんどなく、石段もコンクリートも、木々も芝生も草花も。前回来た時からそう大きく変わった部分はなかった。しいて言うなら枯れ葉が増えたくらいかな。


 とはいえ、雰囲気だけはやはり一級品。この場に集まっている面々を考えて、霊海で行われている妖狐たちの儀式を考えていくと、目の前のイベント広場がただの日常の一幕だとは到底思えない。


『甚伍、最終確認しましょ』

(え、なんの?)

『これからの儀式の流れ』

(あー、うん。いいよ。あと五分はあるし)

『ん、じゃあよろしく』

(あぁ僕が言うのね。はいはい)


 と、ちょっぴり呆れながらもしっかりと説明をしてくれる。

 これから、今から行われる儀式、”夕枯れ退治”の全容について。


(まず、前回同様天狐さんたちが霊界と現実世界の位相を重ねます)

『どうして敬語?』

(雰囲気だよ雰囲気。いいから聞いて)

『ふふ、はーいっ』

(えー、時刻は十九時が目安で、九尾の九を時間に当てることで力の増幅を図ります。これは前回もそうでした)

『ふんふん』

(今回は空に満月が見えます。前回は月と星の明かりを混ぜ合わせましたが、今回は満月単体。太陽光の反射を利用した、より本物に近い夕暮れ、夕方の再現を行います)

『今日の方が本気ってことね』

(そういうことだね。……えっと、夕方を再現して、夕枯れ――火繰りをおびき出して、火の霊玉を頑張って取り返すんだけど……)

『ん、敬語は?』

(や、もういいかなって。飽きたし。普通に喋った方が楽だ)

『ふふっ。ええいいわよ。霊玉を取り返すのは?』

(う、うん。霊玉は天狐さんたちがすっごく頑張るのと、桔葉君たちに協力してもらうみたいだね。詳しい内容は知らない)

『私も知らないわ。教えてくれなかったわね』

(ね。上手くいけばいいけど……)

『心配?』

(そりゃまあ……うん。桔葉君は友達だし、なんだかんだ天狐さんとも結構一緒に居たからさ)

『……あんなに可愛かった小狐が、今じゃ立派な人型の大人になっちゃって)

(ふふふ、笑わせないでよ。むしろあの姿が本物でしょ?)

『そうね。でも……そうね。本当、私たち何にもやることないわね』

(……そうだよねぇ)


 小さく溜め息。

 そう、こうして中央公園までやってきたはいいけれど、前回同様私たちにできることは何もなかった。お手伝いいる?と聞いても特には、とやんわり断られてしまったくらい。


 桔葉さん側もそうだし、天狐ちゃん側も事が事だから繊細な作業に異物を混ぜるわけにはいかないみたい。詳しくは知らないけど。


 しょうがないので広場の隅っこ、石段もなければ芝生もなく、入口でもないただの円の端っこにぼんやり突っ立っている。甚伍一人だと可哀相なので、今回は私もお隣に立たせてもらった。


『ね、何か準備しておくことある?』

(準備?)

『うん。いざという時にってやつ』

(あー……うーんとねー)


 言いながら、いつもの肩掛け鞄をごそごそ。ミニヒクイドリのミドリは地面に座って大人しくしている。


(何も準備するものないよ)

『まあそうよね』


 鞄を漁った意味は特になかったらしい。

 私も予想はしていたから落胆はない。ないけど、本格的に待つだけは結構なじれったさがある。


(呪符はいつもより多めに持ってきたんだけどねー。夕枯れの大きさと霊力?考えると効果なんてあってないようなものだろうし)

『霊力、霊力ねぇ……』


 アレを霊力と呼んでいいものか……。


(守護霊さん?)

『え?な、なに?』

(いや、守護霊さんが怯えている気配を感じて)

『別に怯えてはないわよ。ただ……』


 思い返して背筋が震えちゃっただけ。


(ただ?)

『……霊力なんていう生易しいもの?と思って』

(……そうかもしれないね)


 怪異"夕枯れ"が取り込んだものが霊玉なら、エネルギーの根本は龍脈を流れる大地の力、霊力は霊力でも地力、とでも言えそうなものだと思う。

 地力に加え、夕枯れ現象を引き起こしたことによる太陽の光力、ヒクイドリ――火喰いの概念を取り込んで得た"権限"のような力。

 これらが混ざり合わさって、何が原因か無作為なエネルギーの塊として暴走してしまっている。原因はたぶん……私予測だけど、霊玉取り込んで制御できなかったんじゃないかなぁって。火繰りがどんな妖怪か知らないけど、霊玉って、そんな一個人が簡単に取り込めるものじゃないでしょう?


 天狐ちゃんくらいすごい狐だったら別かもしれないわね。


 ともあれ、夕枯れの力は霊力というより、混沌の力とか、ただ単にエネルギーとか、別の呼び方をした方がいいかもしれない。


『甚伍』

(なに?)

『夕枯れの力の名称は混沌の力にしましょう』

(別にいいけど……どこからそれ出てきたの?)

『だって色々混ざってそうでしょ?』

(あーまあ、うん。納得)


 ちょっぴりの苦笑。うんうん頷いてくれる。ありがとうね、私、そういう素直なところ好きよ。


 どうでもいい名付けが済んだところで、甚伍に時間を聞けばあと五分で十九時と言われた。気を引き締めつつも、そういえば、と思ったことがあった。


『ねえねえ』

(うん、なに?)

『あなた、まだ私のこと見えないのよね?』

(うん)

『どれくらいわかるようになったのか教えて?』

(どれくらい……?)


 と、困惑気味にこちら(・・・)を見ながら返事をしてくる。

 綺麗で美麗で見入ってしまいそうな海色の瞳と私の視線が完全に絡むことはないけれど、ちゃんと私の顔のある辺りを見つめてくれている。


『どれくらいはどれくらいよ。場所がわかるとか、姿形がわかるとか、そういうの』

(うーん……どうなんだろう。前まではなんとなくでこっちかなー程度だったけど、ハロウィン事件以降明確に場所がわかるようになったんだよね。姿形は……人型だよね?)

『もちろん人型よ。逆にそうじゃなかったら――』


 ……自分で言ってて思ったけど、レメイラだと人間型(・・・)以外もたくさんいるし、こっちの世海にだって妖怪いっぱいいるから厳密に人型がどうとか言えないわね。


『――とりあえず、私は人型よ。あなたと同じ』

(そうだよね。どんな見た目してるの?)

『宇美花様みたいな』

(守護霊さん、罰当たりだよ)

『うふふ、ちょっとした冗談よ』


 だから天罰とか止めてください。

 直接宇美花様に会ってる分性格?とかわかってるからいいけど、甚伍の言う通り罰当たりは間違いないからごめんなさい。謝っておきます。

 あと甚伍、そのじと目で私を見つめるのはやめなさい。


『ま、まあ、ね。ほら、綺麗な美人さんよ。なんといってもあなたのお姉さんだし』

(……はぁ、そうだね。守護霊さんはお姉さんみたいなもんだね。たまに年上感一切なくなるけど)

『それこそあなたの世海で言うギャップ萌えというやつじゃない』

(そう、なのかなぁ)


 むうっと口元を歪めて首を傾げながら、まあ、と続ける。


(うん。なんにせよ、今はちゃんと守護霊さんがどこにいるかわかるし、薄っすら光った影っぽくも見えるよ。感覚的にね)

『ふんふん。わかったわ、ありがとう』

(どういたしましてー)


 聞きたいことも聞けて満足したので、あとは緊張と集中を保って時間を待つ。

 もうすぐ二度目となる夕枯れ退治が始まる。今私たちにできることはなくても、なんとなく何かどこかで役に立つ、役に立てるような気がする。守護霊の直感は馬鹿にできないから、じっと天狐ちゃんや桔葉さんの活躍を見ながら、その"機"とやらを待たせてもらいましょう。

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