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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(中編)
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第二十七話、ハロウィンとカボチャと悪霊退治①

 マリーゴールドがその花を散らし、地面を眩い黄金色で塗り潰してすぐ。

 フラワーガーデン全域を照らしていた明かりは沈み、空の色が近くなったように感じる。


 見通しが悪くなったわけではなく、光の位置が地面に変わったため、まるで草花を下からライトアップでもしているかのような景色になった。

 庭園の風景だけでなく、霊感的なものにも大きな変化があった。


『甚伍、甚伍』

(……なに、なに?)


 隣に話しかけて、返事が弱くて元気なさげだったので少年の前に回る。顔を見れば、やっぱりどこか沈み気味だった。しょんぼり甚伍だ。可愛い。


『ね。どうかしたの?元気ないわね』

(……だって、マリーゴールド散っちゃったし)

『あ、それでショック受けてたの?』

(……うん)


 (うち)の子が可愛くて辛い。私の取り憑き相手はね、定期的に純真無垢な感じ出してくるのよね。本当にね。それがめちゃくちゃ可愛くてまったく……しょうがない、私が慰めてあげましょうか。


『甚伍。元の世海に戻ったらマリーゴールドも咲いてるから元気出しなさい』


 たぶんね。


(根拠は?)

『勘よ』

(ふ、ふふふ……はぁ。勘かぁ。勘ね。はいはいわかったよ。元気出ました。ありがとう)

『……なんか納得いかないけど、どういたしまして』


 私の思っていた回復の仕方じゃなかったけど、とりあえずこの子が笑顔になってくれたからよしとしましょう。


(それで?守護霊さん僕に何か言いたいことあったんだよね?)

『そうそう。そうだった。甚伍、悪霊の方見なさい』


 伝え、二人で前方遠くを見る。

 さっき私が霊力を感じて、実際に目で見た時よりもさらにわかりやすくなっている。


 ほんの数分前まで奥から奥からと湧いて出てきていた悪霊たちの勢いが衰え、今ではすっかり停滞してしまっている。

 こちら側からの攻撃もまだしていないので悪霊が減ることもないけれど、これ以上増える気配は感じられない。


 何より、私の霊感をびしばしと強く叩いていた例の扉からの圧、霊圧のようなものが消えてなくなっていた。

 これをまとめるとつまり。


(――悪霊の通り道がなくなった?)


 私の思考の続きを甚伍が言ってくれた。ありがとうね、さすが甚伍だわ。

 やわやわなでなで。髪を撫でてあげた。もちろんフリだけ。今撫でてるわよ、なんて伝えもしない。さすがにそれは私が恥ずかしい。いくら目で見られなくてもね、私にだって恥ずかしいことはあるのよ。


「ふふふー、石海君。どうやどうやー?どやー」


 と、ある程度霊術の行使が落ち着いたからか小狐形態の天狐ちゃんが話しかけてきた。

 どやどやと言って、小狐ながら自慢げに目を細めて口元を緩めている。噂に聞く”どや顔”を浮かべているっぽいけど、小動物だからか、甚伍に撫でられてうっとりしている時と同じ顔にしか見えない。いえ、あれよりはまだまともね。あれはもうなんていうか……人型でされたら甚伍の教育に絶対良くない顔だもの。


「ええっと、色々聞きたいことはあるんですけど、時間もないので先に悪霊祓いを――」

【――――】


 ……。


『甚伍』

(わかってる。……扉近くかな)

『そうね。あの辺りに霊力集まってるかも』


 甚伍からの翻訳はなく、それでも私の理解できる言語(・・)として聞こえた意味ない言葉の羅列。

 久しぶりの感覚だった。頭に直接声を入れてくる、超常特有の念話のような代物。それもただの超常じゃなくて、無理やりに生き物の声を作って押し付けたような、怪異でしかありえない類のもの。


 気を引き締める。

 以前出会った神様とはまったく方向性が違う。壊れていても、相手がきちんとした”怪異”としての格を備えていることには変わりないから。ここからは油断なんて絶対にできない。


『どう動く?』

(静観で。今回は僕ら以外にもいろんな人がいるからちょっと他の動き待ってみる。少し天狐さんに聞いてもみるね)

『ん、了解』


 待ちの構えを取る少年に頷き、少し高度を上げて庭園の奥を見る。

 真っ直ぐと続く道はマリーゴールドの花弁で彩られ、橙色の絨毯が綺麗に敷かれていた。寂寥感と、散ってなお美しいままの花に微かな感動が胸に寄せてくる。

 気持ちを振り払い、今は見るべきものをと視線を奥へ固定する。


 扉。マリーゴールドで形作られていた扉もまた、花が散ったため当然のごとく崩れ去っていた。

 跡地とも言えるような場所に、ぐるぐると渦巻く霊力が感じ取れる。霊感だけでなく、目で見ても薄黒い靄が、寒気が走るような半透明の何かが扉のすぐ近くにいた。そしてそこ以外、他の場所にあれだけたくさんいた悪霊はその一切が姿を見せなくなっていた。


「天狐さん、話の途中でしたけど状況が変わりました。さっきの声と、扉近くの悪霊?と。あれ、何だと思います?」

「……難しいこと聞くなぁ」


 監視は続けたまま、甚伍の通訳に耳を傾ける。


「……形はのうても悪霊なのは確かや思うんよ。他に悪霊いーひんようになったし、あれが悪霊たちの統合体みたいなもんや思たら納得もいくんやけど……」

「けど?」

「そやけどな。そもそも悪霊って言うのんは人それぞれ、個人個人の記憶と感情に呼応して現れるものなんよ。この場所で言う、わてらや倒れてる人たちのことやね。恨めしい、妬ましい、憎らしい。そないな風に思うから悪霊呼ばれるのであって、そうやなかったらただの霊体でしかあらへんの。問題はな、悪霊それぞれが別個の悪意を持って存在してはるって点や。薄うとも自我を持ってるわけや。そないな悪霊たちが、そう簡単に合体なんてできる思う?」

「……できないでしょうね」

「そやね。できない……はずなんやけどねぇ」


 困ったように笑う天狐ちゃんは、本当にわかっていない様子だった。

 会話をする二人から離れて、私の視線の先、悪霊はというと結構な変わり具合だった。


 不定形で霊っぽさ全開だったのも今は昔、完全に形を得て戦闘を開始していた。

 甚伍も天狐ちゃんも無視しているけれど、霊術師三人(竹林さん、日村さん、水道さん)がバチバチと霊力をみなぎらせて戦っている。


 悪霊の見た目は巨大な骸骨。全身欠けのない人型だった。

 それに対するはここまで熱を感じ――ることはない炎と、景色が重く見える雨と、植物お化けその他諸々。

 見上げるほどの大きさにふさわしく動きの鈍い骸骨へ火の玉がぶつかったり、雨の槍が降り注いだり、光を放つお化けカボチャが体当たりしたりと。色々やってはいるみたいだけどあんまり効いてはないみたい。


「天狐さん。悪霊が合体したのは置いておいて、マリーゴールドの架け橋が落ちたことは変わらないんですよね?」

「うん。そら変わらへんね。石海君が言うてはった死者の日ぃ考えたら――あ」

「?どうかしましたか?」

「いやね、あの悪霊、さっきわて人の感情由来って言うたやんか?」

「はい」

「でも、ハロウィーン由来の悪霊でもあるんよ」

「……つまり?」

「アレが骸骨姿なのはハロウィーン、死者の日由来の悪霊であることの証左や思うんよ。ハロウィンの悪霊やったら個も群も関係なしに姿変えられてもおかしないやん?」

「あー……どういうことですか?」

「ふふふ、そやなぁ。簡単に言えば、悪霊は悪霊でもアレは特別っちゅーことやな」

「あぁはい。それならわかります。ありがとうございます」

「ふふ、ええよー」


 甚伍がぺこぺこ頭を下げる姿を見て和み、前方で一際激しく瞬いた光に驚き、急速再生する骸骨にもっと驚き、そういえば今時間はと甚伍に聞いて冷や汗が出た。


『もう二十三時ってやばいじゃない……』

(思ったよりやばいね。しかもあの骸骨見た?)

『再生してたところ?』

(うん。相手が積極的に攻撃してこないのは時間まで待ってるって考えると……うん。実時間あと五分しかないんだけど、これ終わり?)

『こら、諦めないの。少し考えるわ』

(わかった。僕も考えるけど……守護霊さんお願い)

『任せなさい』


 思考加速。

 目を閉じて考えてみる。


 天狐ちゃんからは、あの悪霊が個であり群でもあることは矛盾しないって聞いた。


 "ハロウィンの悪霊"。

 名前を付けるならきっとこうなる。


 ハロウィンの悪霊からしたら、帰り道はなくてこれ以上の戦力の補充もできない。でも、あと五分待てば自分たち?の勝利になる。外の世海で倒れている人の身体を乗っ取るのか、そのまま悪霊として外に出るのか。どうやってかは知らないけれど、きっとそれは怪異にとって都合の良いもののはず。


 だからハロウィンの悪霊は待ちの姿勢でいられる。

 対して私たちは攻勢に出なきゃいけない。時間はなく、急ぎあの巨大骸骨を討滅しなくちゃいけない……のだけど、ここで問題が出てきてしまった。

 そもそものハロウィンの悪霊の防御力が異常に高いことと、攻撃が通ってもすぐに回復してしまうということ。


 一撃であの骸骨を消し飛ばすことができればいいのかもしれないけれど、さすがにそれを期待するのは無理がある。一応その旨は伝えるにしても、本命を考えた方がいい。


 本命……本命……。

 少し視点を変えてみた方がいいかも。


『……』


 周囲を見渡し、ゆったりゆっくりと動く時間の合間に庭園を眺める。

 ハロウィンに彩られた庭園。マリーゴールドの絨毯と、咲いたバラの赤、朱、桃、紅色と。草花を飾るように跳んだり跳ねたり止まったりしているハロウィン代表お化けカボチャ。


『……お化けカボチャ?』


 言ってみて引っかかるものがあった。

 お化けカボチャ。というよりカボチャ。


 悪霊が出てきて死者の日とか慰霊祭とか、ハロウィンそのものがそっち方面のしんみりしたものだとしか頭になかったけど、実際のところ収穫祭でもあるのよね。ハロウィンって。


 甚伍が言ってたわ。"カボチャって秋の作物なんだよ"って。


 怪異に関わるようになって、甚伍から色々と聞いて私も少しは"縁"というものを理解できるようになった。


 収穫祭で、カボチャで、ハロウィンで。

 たくさん採れるカボチャは野菜であり、自然の恵みでもある。それはつまり、自然のエネルギーとも言い換えられる。


 ただカボチャがあるだけでそんなエネルギーになるのかって思うかもしれないけれど、それが怪異にとっての"縁"というものだから。理屈じゃない。ちょっとでも繋がりがあれば、その繋がりを利用して自分の力にできる。

 それが空間侵食型の怪異なら尚更。


 カボチャがあるだけで、カボチャから生命力や霊力を取り出して自身に還元できる。できてしまう。超速再生の理由はたぶんこれで合ってる……かな。うん。合ってるかも。

 とりあえず甚伍にお話しようかしら。


『甚伍ー』

(はいー)


 かくかくしかじかあれやこれや。

 時間がないので口早に説明させてもらう。ふんふん頷く甚伍もその旨を理解してか真剣な顔で聞いてくれている。こんな状況でなんだけど、横顔近いと普通に悪戯したくなっちゃう。さすがにしないけどね。我慢我慢。


(――カボチャか。確かにありそうだね。盲点だったかも。ちょっと天狐さんに伝えてくる)

『ん、お願いね』


 すぐ傍の小狐に話しかける甚伍を見守り、その後の流れも守護霊らしく見守っていく。


 時間は残りわずか。あとはこちらの、地球の人たち(妖怪含め)に任せるしかない。頑張れ甚伍。ふれっふれっ!頑張れーっ!


(ちょ、ちょっと今は応援しないでもらえる?すっごく気が散るから!)


 頬を赤くした少年が抗議してきた。状況が状況でごめんなさいだけど、やっぱり私の取り憑き相手は可愛い。ついついにっこりしちゃった。

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