第二十八話、ハロウィンとカボチャと悪霊退治②
「とうっ!!」
軽やかな声と共に、どこからともなく現れてしゅたっと地面に降り立つ一人の人間。
頭に被ったカボチャは目と口と鼻の部分が開けられ、にやりと曲がった口元と笑みを形作った目、小さな鼻の穴からは淡い光がこぼれている。
胴体は細長いカボチャで覆われ、艶のある橙色が美味しそうだった。近寄ればほのかに香る甘い野菜の香り。どこからどう見ても本物のカボチャだった。
首から足元までの長い黒マントを背に靡かせ、手には黒革の手袋をつけて仁王立ちしていた。どういう原理かマントがばっさばっさと揺れ、マントの背部に描かれた可愛らしいお化けカボチャがぐにゃぐにゃと揺れている。
胴体のカボチャから突き出た足は、金色に輝くマリーゴールドをあしらった先の長く丸っこい靴で包まれ、見た目可愛いけど履き心地はあんまりよくなさそう。
腰にはカボチャに巻き付けたベルトがあり、細々とした瓶が取り付けられていた。割れちゃいそうで怖い。中にはゆらゆら液面を揺らす謎の飲み物?が入っている。
そして頭のカボチャの上にさらに被ったとんがり帽子。
マントと同じ黒色に、輝くマリーゴールド色のリボンが一つ巻かれている。
ふざけた装いにしか見えないのに、全身から尋常じゃないほどの霊力……?かな。霊力っぽい力の波動を垂れ流していた。
「ぼ……我が名はカボチャマント。救いを求める民の声により参上した。ハロウィンを荒らす不届き者よ。正義の魔法使いが討滅してくれる!」
ちょっぴり声を張ってかっこよくして。
渋いような渋くないような、何とも言えない声の持ち主、カボチャマントさん。ていうか甚伍。
何がどうなってこうなったのか、家の子がお化けカボチャの仮装をして巨大骸骨の前に飛び出していた。
『甚伍』
「てやああああ!」
『……うん、後にするわ』
私の話は全然聞いてくれない、というよりさっきから声に出したことも羞恥心の叫びも全部だだ漏れで少しうるさいくらいなので、話は後にする。ついでにちょっとだけ距離を取らせてもらった。
何をするのかと思って見ていたら、叫びながら突進する。パンチとかキックとか、それこそさっき叫んでた魔法使いとかで魔法使うのかなって思ったら、普通にタックルだった。そこはいつもの甚伍のままらしい。
マントのはためき具合にしては動きは遅く、思考加速をしていない私でも目で追える程度だった。
ただし体当たりの結果は結構なもので。骸骨の足にぶつかったかと思えば、相手の身体を浮かせて弾き飛ばした。ここまで風の音が聞こえてきて、霊力の衝突と閃光が瞼を焼く。
一瞬の光が収まり、骸骨の姿はというと庭園の奥側……の壁?異空間の壁っぽいところにぶつかって止まっていた。庭園全体を囲うように空間隔離してるからか、ちゃんと壁はあるみたい。
姿形に変化はないけれど、見るからに悪霊の霊力が減っていて驚く。
『推測は当たっていたってわけね』
さっきより遠く小さくなってしまった甚伍と悪霊の戦いを眺めながら、天狐ちゃんの言葉を反芻する。
"向こうがカボチャ利用してるなら、こっちもカボチャ利用しようや"。
その一言がきっかけだった。
相手がカボチャのエネルギーを吸い取って回復しているなら、こっちもカボチャのエネルギー吸い取って霊力にしようと。
そもそものカボチャがエネルギー的に正負で言ったら正のエネルギーなんだから、利用するなら私たち側の方が利用しやすい。カボチャって植物だし。野菜だし。生き物だし。悪霊は生きてないし悪い霊だものね。
天狐ちゃん曰く、"悪霊はカボチャのエネルギーを利用して負の力を吐き出している。元が正なのだから効率はそこまでよくない"、とのこと。
とはいえ、悪霊は悪霊で準備してきているし、こちらがただカボチャを丁寧に調理して食べて正のエネルギーとして取り込んでも勝ち目はない。カボチャ一個じゃエネルギー量も少ないし、意味なくはないけど今の悪霊には届かない。
大事なのは、カボチャの正のエネルギーを悪霊以上に利用して霊力も合わせて総体として上回ること。別に食べることがすべてではなく、あくまでカボチャを正のエネルギー源として活用することが目的となる。
その結果。
「――やあああああ!」
カボチャマントの小さな拳が骸骨の顔に当たり、大きな破砕音が聞こえ骨の破片が宙を舞った。
地面に倒れ、追撃の急降下体当たりで大きく霊力を失う悪霊の姿が見えた。心なしか最初より小さくなって見える。
話を戻して、その結果が甚伍の仮装。あのヘンテコなカボチャマントになる。
カボチャを全身に纏った正義の魔法使いが悪い霊を退治する。ここで大事なのが"仮装"という部分。ハロウィンの仮装という一面を利用し、効率的にエネルギーを扱えるようにした。
お祭りなだけあって、誰だって明確な悪を退治する正義には目を奪われるというもの。それが退魔、悪霊祓いならよりハロウィンに適する。ハロウィンって収穫祭だけど慰霊祭でもあるらしいし。
飛んで跳ねて、ひたすら殴ったり蹴ったり体当たりしたりと一切魔法使いっぽくはないけれど、一撃ごとに悪霊の霊力が減って、逆に甚伍――カボチャマントの霊力が上がっていく。
ほんの少し意識を逸らしていただけで、骸骨は回復できないほどにボロボロにされていた。
【――……』
放つオーラは弱々しく、既にカボチャのエネルギーの大半は正の側、甚伍に持っていかれてしまった様子。何とか立ち上がってはいるけど、それもそろそろ限界だと思う。ただ、時間がなくて限界なのはこっちも同じだから。
『甚伍ー!!決めちゃいなさい!!!』
大きく声を張って、あの子にしか聞こえない声を届ける。ついでに思念も放り投げておいた。
任せて―!!と返ってくるものすっごく小さな声に笑い、こちらもついでとばかりに届けられる"任せて"の思念に頬を緩める。
二重の任せてを聞いちゃったらさすがにね。私も信じて心配せず見守らせてもらうとしましょうか。
「超!全力――――全開っ!!!!」
一呼吸置いて叫ぶのはいつものセリフ。あぁそれ言うのね、と思っちゃったのは内緒。
庭園全体どころかその先まで届くようにと大きく声を上げ、腰に付けていた瓶を外し口元へ持っていく。濁った琥珀色の液体はカボチャの色にそっくりで――というかカボチャそのもので。温かいカボチャスープを飲み干した途端、ぐんぐんと甚伍の霊力が上昇していく。
上空で風に揺れるマントは翼のように広がり、あふれた霊力が金色の粒子を散らす。
拳を掲げ、渦巻く霊力を収束させていく。輝く手は、集まった霊力の輝きはまるで――まるでマリーゴールドのよう。
「カボチャマント――――」
静かに技名……技名?を叫びながら振り上げた拳を胸に当て、集めた霊力を身体全体に広げていく。全身をマリーゴールド色に輝かせ、きらめく黄金を振り撒き急降下する。
「――――マジカルアタァァァァック!!!!!」
技名の続きを言い、いつものように、もう何度見たかわからないくらいの甚伍の得意技、全身全霊タックル(急降下版)を骸骨に放った。……放ったっていうか、突っ込んだ。
【――――!】
最後の抵抗として骸骨は身体の前に霊力のオーラを集めたみたいだけど、カボチャマントからしたらそんなのもうあってないようなものだった。
簡単にバリアを突き抜け貫き、悪霊本体にぶつかって眩いほどの光を散らす。同時に轟音を立て――次の瞬間、何かが崩れるようなキィィィンと甲高い音が庭園全体に響いた。
空の闇が薄れ異空間の壁が壊れていくのを見ながら、なんとなく思ったことを口に出す。
『手でパンチするわけじゃなかったのね……』
じゃあなんで一度手に霊力集めたのよ、という私の疑問は宙を舞うマリーゴールドの花びらに混じって消えた。




