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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(前編)
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第十二話、少年と運動とミドリ。

 十月の十六日。日曜日。

 この日はきっと何かが起こるような予感が……しない。しないわね。あんまりしない。意外に私の霊感は何も働いていなかった。


 朝起きて、取り憑き相手の少年が布団にくるまりうだうだとしている間に意識をはっきりさせる。目覚めた瞬間から意識は明瞭だけど、なんとなく気が抜けている感じがするからそこをしっかりさせる意味で。


 はっきりさせるっていうか、きちんとするって言った方が正しいかもしれない。


 ぽやぽやと考え事をしている間に、ようやくとばかりに少年が起き上がってきた。


「守護霊さんおはよー……」

『おはよ。もう八時よ。ほら、顔洗ってきなさい』

「うんー……」


 起きているのか起きていないのか、昨日から私の居場所をぼんやり霊感的にわかるようになったらしい甚伍はいつも通りのろっとしていた。

 朝に弱いわけじゃないけど、寝起きはやっぱり眠そう。いつも通りに可愛い。


 お手洗いを済ませ、食事を済ませ、身支度を済ませ。

 なんだかんだ一時間ほどかけて朝の支度を行い、休日らしく部屋に戻ってくる。その間、私はずっと甚伍の後ろを漂い付き纏っていた。もちろんお手洗いとかは別よ?


 食べ物が消化されてお腹もこなれてきた頃。

 適当な雑談はおしまいにして、ゆっくり家の外へと向かう。


「いってきまーす」


 ”いってらっしゃい”の声を後ろに、玄関を出て家のすぐ前に立つ。

 服装は朝着替えたまま。普段からこれに備えて動きやすい格好にしていた。


『さ、今日も走るわよー!』

(妙に気合い入れてるっぽいけど、走るの僕だからね?)

『ふふ、わかってるわよー』


 はぁ、と短くため息を吐きながらもランニングのための準備を進めていく。

 足首を回し、腰を回し、手足を伸ばして靴の先をトントンと地面に立てる。深呼吸を繰り返し、最後に周囲を警戒して準備完了。


『毎回思うけれど、外を出るたびに周り警戒しなくちゃいけないっておかしいわよね』

(それを言っちゃおしまいだよ……)


 しょんぼりと肩を落とし、そのままの勢いで走り出す。

 最初はゆっくりと、息は一切乱さずに歩調は一定で進む。


『今日はどこまで行くの?』

(うーん、いつも通り水道道の終わりでもいいかなって思ってたんだけど)

『けど?』

(ちょっと公園まで見に行ってもいいかなって)

『あぁ、下見も兼ねて?』

(うん。どうせ今夜行くんだし、お昼時はどうなってるのか確認してもいいでしょ?)

『そうね。甚伍の体力に余裕があるなら行ってもいいと思うわよ』

(ふふ、今の僕なら余裕さ)


 走りながらも少し頬を緩めている。

 私との会話に加え、笑顔を見せる程度にはランニングに余裕がある様子。さすがにそれなりの期間走ってきただけのことはある。この程度のランニングでバテるほど軟な身体はしていない。


 走るペースを上げ、息が少し苦しくなる程度の速さを維持する。

 甚伍曰く、苦しくないと肉体的に成長はしないそう。心肺機能がどうとか、筋組織がどうとか。インターネットで調べたことを自信満々に語ってくれた。


 知識の真偽はともかく、ここ数か月続けている運動を見てきた私としては、この子のネット知識もあながち間違っていないんじゃないかって思う。

 実際に息を荒げる時間も減ったし、走れる距離も伸びてるし、走る速度だって上がっている。今じゃ目的地までほとんど息を乱さず走りきれるくらいには運動能力が向上している。


 下手したら、というか下手しなくても私より運動できる子になっちゃってる。まあ魔法術使えば私の圧勝なんだけど。


 ちょっぴりの対抗心はさくっと捨てて、今日も快晴な空を見上げる。

 青い空、白い雲、輝く太陽。

 少し視線をずらして周りを見れば、長閑(のどか)な畑の風景が広がっている。夕枯れのゆの字もないくらいに平和な景色だった。


 妖怪もいなければ幽霊もいない。もちろん怪異の片鱗も一切ない。私と甚伍の二人だけ――。


『――ねえ甚伍、ミドリは?』

(うん?家にいるはずだけど)

『連れてこなかったの?』

(あー、うん。え?連れてきた方がよかった?)

『んー……』


 そう聞かれると困る。

 冷静に考えると別に連れてくる必要ないような気もするし、けど公園に行くならミドリがいた方がいいような気もする。


 (うち)にミドリを連れ帰ってもう一週間くらいになるけれど、あの子は本当に大人しい。甚伍が学校に連れて行っても一切騒がないで鞄の中でじっと静かにしてるし。ご飯だってぱくぱくなんでも食べて可愛いし、ご飯あげられない時は甚伍の霊力でお腹いっぱいになってくれるし、なんだかんだ鳴き声にも愛着湧いてきちゃったし。


 何より一番可愛いのは、甚伍からできるだけ離れないようにしているところ。顔が見えない位置まで行かないように、同じ家の中でもちまちま歩いて付いてくる。最近は家に慣れたのか甚伍の部屋で寝ていることが多かったりもするけどね。


 あの子空飛べないから階段とか心配したりもしたけど、思った以上にスムーズに歩いててびっくりしちゃった。


 見た目可愛い鳥だとしても、やっぱり霊体であることには変わりないみたい。それにしては机とか椅子とか鞄とか、私からしたら普通の物に普通に触れちゃってるのはどういうことなのって言いたいところではある。


 そんな可愛い愛鳥であるミドリを今日は連れてきていなかった。単純に忘れちゃってたのもあるけど、ミドリ自身が付いてこなかったっていうのもある。後ろを見ても――いないわね。全然追いかけてきてない。


『連れてきた方がよかったっていうか、普段くっついてるからいない方が違和感あるのよ』

(そういえばそうだね……。なんであの子、今日は来なかったんだろう)

『……』

(……)


 二人して無言になる。

 なんとなく嫌な予感する。あれだけ引っ付いていたミドリが自分から来ないってなると、どうにも来ないだけの理由がないとおかしい。例えばそう、今日の、今のランニングで何かよくないことが起きるとか。命に関わるかどうかは別として、ミドリからしてもあんまり関わりたくないようなこと。


 それを私たちに当てはめると簡単に答えが出てしまう。全然嬉しくない答えだから言わないけど、頭には完全に浮かんじゃってる。


 ちらっと甚伍を見て、見るからにさっきより顔色が悪くなった少年に察する。この子、私と同じこと考えてるわね。


『ま、まあ、ね。ほら、何事もなく帰れるかもしれないし、今から考えたってしょうがないわよ。ね?』

(そ、そうだよねー)


 お互いものすっごく棒読みな感じだったけど、それでもいいと思う。本当に考えたってしょうがないことだもの。こんなにお天気も良くて平和な景色なんだから、きっと私たちの考え過ぎよ。


(……とりあえず守護霊さん、予定通り公園まで行こう)

『ええ。うん。予定通りにね……』


 切り替えられない気分をどうにか切り替えて、私と甚伍は秋の太陽の下を走っていく……。

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