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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(前編)
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第十一話、夕枯れと妖狐と私たち。

「初めまして、わてが君らの言う妖狐どすぅ」

「初めまして、石海甚伍です。先ほどは失礼しました」

「ふふふ、ええよお。そこらの妖怪共よりよっぽど礼儀正しい子やわ。わては……そうやねぇ、石海君、わての名前知りたい?」

「え?ええー……」

(守護霊さん守護霊さん)

『なに?』

(この人名前知りたいかどうか聞いてきたんだけど)

『……それ、名前を知ることで呪いがかかったりするんじゃないの?その辺聞いてみた方がいいわよ』

(あ、そういう感じか。おっけー、ありがとう)

「すみません、僕があなたの名前を知ることで受ける呪いみたいなものってあったりしますか?」

「あら、うふふ、そないなものないよぉ。これからもわてたち(・・)と付き()うていくつもりがあるかどうかで聞いただけやさかい。かんにんえ、ちびっといけずやったわ。わては火守乃(ひもりの)天霊狐(てんれいこ)。気軽に天狐ちゃんって呼んでな」


 和やかな雰囲気で自己紹介が始まる。

 緊張しつつも妙に照れ気味な甚伍が可愛い、けども、それより私からしたら目の前の人――妖怪が大事。


 名前は聞いた通り天狐ちゃん。腰下まで艶のある純白の髪を伸ばしていて、長い白髪(はくはつ)の色は布女さんのそれに似ている。髪に差し込まれた

波打つ緋色が布女さんとの大きな違いかもしれない。身につけた着物も赤や橙を基調としており、頭頂部から生えた細長い耳と腰の後ろで揺れる尻尾が紅白入り混じって薄橙色みたいな色になっている。火を守ると言うだけあって、火に関わる妖怪なのだと思う。狐だし、狐火って言うし。


 目元は優し気で瞳の色は明るめの橙色。柔らかい火の色みたいで甚伍を見る目が優しい。もちろんだけど、この人もまた私のことは見れないらしい。もう慣れた。


 喋り方は……何かしら。甚伍が翻訳頑張ってくれてるけど、知らない言葉遣い?単語が多くて理解できない部分ばかり。


『ねえ甚伍、この人?天狐ちゃんの言葉いつも話すみたいに通訳してもらえる?』

(ごめん無理。僕も理解できてない部分あるから、通訳も何もないんだ。お揃いだね!)


 あんまり嬉しくないお揃いだった。


「天狐さんは……どうしてここに?」

「そうやねぇ、身内の恥を晒すみたいで言いたないんやけど、石海君も当事者やもんね」


 そこでちらりとミドリを見る。怖い雰囲気はないので、本当にただ確認しただけみたい。口元に苦笑が滲んでいる。

 

「巫女はんの話の補足さしてもらうけどなぁ、もともと火の霊玉はわてら妖狐が管理しとったんよ。火繰りは妖狐の下働きみたいなもんや思てね」

「えっと、じゃあ火繰りって結構数いるんですか?妖狐も?」

「ふふふ、そやなぁ。結構いんで?こないなんでも一応わてが妖狐の代表なんよ。やからここに来たんやんな。他の子は今は別のとこにおるなぁ。霊玉取り返す準備ってとこやね」

「そうなんですね……」

「そうなんよ。それ、で。火繰りの一体が霊玉盗んで逃げだしたんよねー。もうびっくりや。そんなんする輩がおるとは思てへんかったのもそうやけど、逃げた火繰りがずる賢い子でなぁ」


 困ったように眉を八の字にする天狐ちゃん。美人は何をしても絵になるって言うけれど、本当にそうね。ほっぺたに手を当てる仕草も様になっていて綺麗だわ。なにげにだけど、この世海で見た人(妖怪霊体含む神様含まない)の中で一番綺麗かもしれない。耳も可愛いし。


「何したんですか?その火繰りは」

「放火やね」

「放火ですか」

「そうそう。放火」

「僕のイメージですけど、妖狐って火を操れるから火事も簡単に消し止められるんじゃ?」

「ふふ、石海君は賢いなぁ。その通り。わてらは火の扱いに長けてるわ。こないでも火の霊玉を守っとるからね。普通やったら火事なんて起きへんし、起きても何の問題にもならへんよ」

「普通だったら、ですか」

「そうそう。普通やったらね。火繰りの使(つこ)うた火ぃなぁ。どうも冥府の火やったみたいでな。わても結構苦労させられたわ」

「冥府の火?」

「あぁー、石海君にはややこかったかなぁ。冥府の火って言うのんは文字通り死者の世界にある火なんよ」


 つらつらと冥府の火、とやらについて説明してくれる。

 聞いたところによると、どうも甚伍たちが住む世海とは位相的に異なる場所に色々空間があるらしい。妖狐たちの住む場所も霊海と呼ばれ、冥府とやらも冥海と呼ばれる場所にあるとか。


 私の世海で言う深海繋がりの別世海――よりは少し身近な感覚っぽいわね。侵食型怪異に巻き込まれた時みたいな感覚かも。


「――その火ぃ消してる間に上手いこと霊玉盗んで逃げて行ったのが火繰りってわけやね」

「なるほどー……。あの、一個聞いてもいいですか?」

「ふふ、ええよぉ。なんでも聞いてな」


 天狐ちゃん、やけに親切だけどどういうことかしら。もしかして何か裏があるんじゃ……いえ、ないわね。現状私たち(甚伍)ってちょっぴり妖怪に縁があるだけの普通の子だし。怪異関連はたぶん妖怪からしても意味不明でしょうし。わざわざちょっかいかける意味ないもの。

 あと、私の守護霊センサーがこの人良い人って言ってるから。たぶん良い人。


「霊玉って何ですか?」

「あらら、まだ言うてへんかったかな。霊玉はなー……そうやな。石海君にもわかるよう嚙み砕いて言うと、大地の安定剤みたいなもんやね」

「大地の安定剤?」

「うん。龍脈ってわかる?」

「はい。わかります。調べて知識として知っているってだけですけど」

「おー、えらいえらい。ほんでも十分やで。龍脈から大地のエネルギーがこぼれ出すポイントを龍穴ぅ言うんやけど、その龍穴に霊玉を置くことで龍脈の流れを安定させるんやんな。これがあらへんとエネルギーのバランス崩れて神様が荒ぶったり悪い妖怪が力を付けたり災害起きたりしてまうのよ」

「……えっと、それ、霊玉奪われたらやばくないですか?」


 私も同じこと思った。今もう霊玉なくなってから結構経ってそうな感じだし、色々大変なことになってるんじゃないの?


「やばいなぁ。そやけど安心して。ちゃんと予備があるんよ」

「予備?」

「そそ。霊玉は所詮龍脈を安定させるための玉――石でしかあらへんからね。替えならぎょうさんあんねん。やけど、今回奪われた霊玉は長期間安置されとったものやから、溜め込んだエネルギーも相当なものなんよ」

「あーっと、つまり、そのたくさんのエネルギーを火繰りが奪って悪用して、夕枯れを起こしているってことですね」

「ふふふ、そうそう。石海君はお利口はんやなぁ。そやけどなぁ。なんぼ霊玉のエネルギー使(つこ)うたからって夕枯れ?を起こすほどちゃうんよ。宇美花が強い霊地やから、逢魔時なんていう時刻だけを狙うたから、理由はあれど直接的なエネルギーには足らへんはずなんよ」


 そうして、そこで美人な天狐ちゃんの目が私たちのすぐ横に向けられる。具体的には地面に近いところ。


「ミドリ、ですか」

「ふふ、そうやねぇ。ミドリちゃんや。何がどうなって火喰いの概念取り込んだのか知らへんけど、ミドリちゃん見てピーンと来たわ。可哀想になぁ。火喰いの力奪われたせいでこないな姿になってもうて……。や、そやけど火喰いなんて最初から概念なんやし、姿もなんもあらへんね。鳥の姿なのは人のイメージ強かっただけと考えたら……まあ、ミドリちゃん可愛ぇからええかいな。わてらが頑張って力も返したるからもうちょい待っとってやぁ」


 なでなでと。

 わざわざしゃがんでミドリの背中撫でてる。ふわふわしてそう。ずるい。え、普通にずるいんだけど。私もなでなでしたい……。


「――とまあ、おおよそ原因もわかったわけやし、石海君は巫女はんとゆっくりしとってちょうだいな。わてらの不始末はわてらで付けるさかい」


 立ち上がり、有無を言わせぬ口調で言い切って歩き去っていく。


 甚伍翻訳によると、詳しい話はもう桔葉さん含め妖怪たちに通しているとか。何が起こるかわからないから見学待機はしてもいいけど、儀式中の邪魔は許さないよ、という話だった。


『……』

(……)


 二人で無言で霊木の根元に腰を下ろして。

 日陰に吹く秋色の風が青い花々を揺らし、ほんの微かな淡いブルースターの香りを届けてくる。隣に座る少年の髪が揺れ、傍で丸くなって眠るミドリの羽毛が波打つのも横目に見えた。


 頭上からはざわざわと葉擦れの音が聞こえてくる。

 まだ秋になったばかりか。もう秋になってしまったか。


 紅葉(こうよう)は少しずつ進み、十月も終わりが近づけばきっと綺麗な紅葉(もみじ)が見えるようになるはず。


 今ここに、美花公園の霊木の下にいるのは私と甚伍、それとミドリだけだった。

 桔葉さんたちは神社の用事があるとかで早々と公園を後にして、残ったのは私たちだけ。

 今日のこととか明日のことを色々教えてもらったからいいけれど、あの子もあの子で大変そうだった。正式に宇美花神社の巫女になったとかなってないとか、私にはよくわからない話だったけど、とにかく忙しくなったみたい。受験もあるし。


 受験と言えば。


『ねえ、甚伍』


 隣の少年に声をかける。


「うん」


 頷きだけが返ってきて、秋の風を気持ちよさそうに浴びて頬を緩めている姿に私もまた頬を緩める。平和で穏やかな時間だった。


『受験する高校、決めたのよね』

(うん)


 今度は心での頷き。簡素な返事はわかりやすく、迷いの無さに少し嬉しくなる。少年の成長が嬉しい。


『結局、どこにするの?』

(ん、あれ。言ってなかったっけ)

『聞いてないわよ』


 決めたよーというのは聞いたけど、なんやかんや夕枯れの話とかヒクイドリの話で受験のアレコレは話してなかった。私が忘れちゃってたっていうのもある。


(あー、そっか。えっとね。美浜高校)

『……どこ、それ?』

(だよねー。守護霊さん知らないと思った)

『むぅ』


 しょうがないので詳しく聞くと、甚伍の家から電車で数駅行った先にあるとか。時間にして三十分ほど。遠いような近いような……どうなのかしら。私が職場――十七都市の都市庁舎まで行くのに十五分と考えると、結構遠いような気もする。でも電車の待ち時間とか駅までの時間とか考えたら、近いような気もする。……まあ、どっちにしろ合格してからの話ね。


 高校選択の決め手は二つあったらしい。

 一つは当たり前だけど勉強のレベル。いくらそれなりに頭が回る甚伍とはいえ、すっごくお勉強ができるってわけじゃない。だから身の丈に合った学校を選ばなくちゃいけない。ちょうどいい感じなのが美浜高校だったらしい。

 二つ目は部活。中学校で入っていた不思議探究部に似た部活があるんだって。名前は不思議探索部。……ほとんど同じように思えるけど、私は何も言わない。甚伍がそれでいいならいいと思う。甚伍の人生だもの。


『……ふぅ』


 一息。

 少しではあるけれど、気持ちの切り替えができた。平和なお話もそこそこに、大事なお話しましょうか。


『ね、甚伍』

(ねえ守護霊さん)


 ふっと隣に顔を向ける。

 彼に私のことは見えていないはずなのに、向けられた瞳はしっかりと私を捉えていた。二人してくすりと笑って、なんとなくで思いを察した。察したけれど、ちゃんと話しておかなくちゃね。


『ふふ、先いいわよ。どうせ同じ話題でしょう?』

(あはは、たぶんね。やー、さすが僕と守護霊さんだ。気が合う)

『私とあなただもの。気が合わなくちゃ守護霊になんてなれないわ』

(え、守護霊ってそういう成り方なの?)

『知らないわよ。適当言っただけ』

(ええ……)


 困惑の声を漏らし、それに対して私はころころと笑う。悩んでいるのもいいけれど、やっぱり私たちはこの方がいい。気楽に前を向いて、すぱっとやること決めちゃった方が似合ってるわ。


(まあいいや。守護霊さん……明日さ、僕らも行こうか)

『危ないかもしれないわよ?』

(そんなのいつものことでしょ?桔葉君は周りの妖怪に止められたみたいだけど、何人か宇美花神社の妖怪も来るみたいだし。それに……)

『それに?』

(……もしも怪異絡みだったとしたら、たぶん天狐さんだけじゃ上手く対処できない)

『ふふ、そうかもね』

(僕がいるからって何になるかもわからないけど、少なくとも夕枯れが解決するならその現場には居合わせたいんだ)

『ふふっ、いいわ。私も同じ気持ち。夕枯れが終わる――かどうかはともかく、ちゃんと最後まで付き合ってあげる』


 くっと勢いをつけて立ち上がり、くるりと身体を回転させて座ったままの少年を見やる。


 ぼんやりと私のいた位置を見つめていた視線が動き、何故か今私がいる位置――霊木の影の外へと移っていた。目が合う。


『私のこと見えてる?』

(ううん)

『そ』

(でもなんとなく、そっちにいるかなーって)

『直感みたいな?』

(うん。僕も守護霊さんみたいな霊的直感を得てしまったかもしれない……)


 おばかなことを嘯く甚伍を"はいはい"とあしらい。


『ほら、行きましょ?』


 日向より少しだけ暗い場所にいる甚伍へ声をかける。

 小さく笑って立ち上がり、お尻をぱんぱんと払ってこちらに歩いてくる。二人で並び、しょうもない話をしながら家に向かう。今日のお昼ご飯とか、霊感がどうとか、夕枯れ終わらないでしょ終わるでしょとか。


 霊木の下を出て、歩きながら見上げる空は綺麗な青色で。土曜日の朝、さっきまで少し曇っているように見えた青空は、今となっては雲一つない蒼天一色な晴れ模様だった。

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