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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(前編)
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第六話、少年と私と公園探索。

『わんわん。私、子犬になったわん』

「ええ……」


 めちゃくちゃ引かれた。辛いわ。でも続ける。


『わんわん』

(……守護霊さん)

『わん?』

(頭大丈夫?)

『予想の数倍ひどい返事に驚いたわ』


 私もびっくりの直球な罵倒だった。驚きすぎて普通の喋り方に戻っちゃった。


(急にわんわん言い出すから頭おかしくなったのかと思って。守護霊さん声可愛いから似合ってないこともないんだけど、僕もうその声聞き慣れちゃってるんだよね)

『そう。まあどうでもいいことよ。そんなことよりさっさと進みましょう?いつまでも上から眺めていたって何も見つからないわ』

(また急に冷静に戻るじゃん。……はぁ。確かにそろそろ行かなきゃだけどさ)

『ん、ならちゃきちゃき動く。はい甚伍、進みなさーい』

「あいあい」


 適当な返事をしつつもちゃんと歩き出す甚伍。

 階段を下り、森の遊び場のようになっている木造の展望台から外に向かっていく。そう高さがあるわけでもないので、数十秒もすればささっと地面に降り立つことができた。


 場所は宇美花中央公園の大きな草原広場……の端っこ?というより地図的には南東方面。広場から外れるように建てられた木造(すごく頑丈そう)の展望台の下。


 すぐ近くに地図看板が置かれているので、そちらに行ってこれからの進路を確認する。


『この公園、いろんなところに地図があるわね』

(そうだね。広い分迷わないようにって配慮じゃないかな)

『ふんふん。甚伍、南の道と広場沿いの道、どっちがいい?』

(え?うーん?広場沿いかな。ヒクイドリのいるいないは置いておいて、こっちの道の方が色々見られそうだし)

『ん、ならそれでいきましょうか』


 草原広場を縁取る形で歩いていく。

 両脇を木々に塞がれた道は今日見てきた中で一番に紅葉らしさが表れており、のんびり歩いている人の数も多い。犬連れの人が減り、代わりに木々を見上げて立ち尽くす人が幾人か。写真を撮っている人も数人と見える。


『……』

(……あの人たち、幽霊だよね?)

『……私が言わないでおこうと思ったことを普通に言わないでもらえるかしら』

(やっぱり幽霊か。なんで木を見上げてるんだろう)


 独り言のような問いかけに、私なりに考えてみる。

 今の私たちに見える景色は紅葉初めの色を変え始めた木。緑は多く、植物の色をよくよく感じられる季節の自然だった。でもたぶん、彼ら彼女ら、死者の霊に見えているものは違う。


 じっと木を見上げているのは、自分が死んだことに気づいていない霊か、わかっていてなおしがみついているか、呪縛霊のように囚われているかの三択になる、と思う。私、専門家じゃないから正確なことは言えないのよ。


 とりあえずそんな霊たちにとって、特に無意識でこの場に居続けるような霊に季節なんてものは関係ない。死んだその瞬間、その手前で時が止まっているのだから、もしかすればこの木々の葉が枯れ落ちた冬の木にみえているかもしれないし、春の花咲き乱れる木に見えているかもしれない。


『……きっと、私たちには見えていないものが見えるのよ』

(……そっか)


 しんみりとした様子の少年を励ますよう、軽く彼の背を叩く。触れられないので気持ちだけだけど。気持ちは大事よ。


『大丈夫、悪い気配はしないわ。あなたを認識して攻撃してこないんだもの。そのうち成仏するわよ。霊力的に何か感じない?』

(霊かな?ってくらいはわかるけど、それ以上はなんとも。全然わからないや)

『そ。とにかく気にしないでそっとしておいてあげなさい』

(うん)


 平和な紅葉通りをゆっくりと歩いていく。

 鳥の鳴き声と枝葉擦れの音と、人の話し声と。


 静かで気分良く居られる場所のはずなのに、甚伍は必要以上にしんみりしていた。

 すれ違った幽霊たちに思うことがあったのだとはわかるけれど、それに関しては本当に私にできることはない。


 これまで出会ってきた怪異が敵意剥き出しな存在ばかりだったからこそ、こうして無害な霊体を目の前にして色々と考えさせられているみたい。死者とか、未練とか。

 私の場合、そういうのには慣れている。――というと少しおかしいかな。慣れてはないけど、甚伍よりは縁があったから。お父様はレメイラの軍人だし、深海から通じる世海の人すべてが良い人ばかりじゃなかった。戦いも争いも諍いも、今は落ち着いていてもこれからだってたくさんあるはず。身近な人じゃなくても、死者の弔いに付いて行ったことは何度もある。


 とはいえ、こんな見慣れるほどに霊体のあふれる世海があるなんて思ってもみなかったけど。


 しんみりとした雰囲気のまま、とぼとぼと歩いて数分。

 ぼんやり状態の甚伍はそのままにさせてあげて、私は公園観察と勤しんでいた。今のところヒクイドリらしき鳥は見つかっていない。遠くで騒ぎも起きていないみたいだから、どこかでヒクイドリが見つかっているということもなさそう。


 木々は続き、さっき見た地図を思い返せば、今いる場所の左手、つまり広場じゃない方は特に紅葉が美しい場所となっているらしい。季節的にまだそこまで秋っぽくないけれど、それでも見応えはある。微妙に見える赤の中にヒクイドリがいたり――するわけないわね。葉っぱばかりよ。あとキノコとかお花とか。


 どうでもいいんだけど、この道ってそのまま広場の方まで突っ切れるって思ってたけど全然そんなことなかったわ。普通に道作られてないし、ロープ結ばれて通れないようになってた。や、頑張れば行けるかもだけど、公園のルール破ってまで無理やり行くもんじゃないわよ。


 こちらの通路から草原広場を細かく見るのは諦め、一方通行の道を進む。

 大きな木を見ていて思うのは、別の季節について。春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)、日本の四季という概念はとても面白い。もちろんレメイラにだってそういう地域はある。私が生まれて育って住んでいる地域が春と冬しかないだけで、世海を見れば四季はある。そっちに住むことたぶんないから関係ないんだけど。


 戻って日本。春夏秋冬(はるなつあきふゆ)、私が経験したのは……一応全部経験したのか。去年の四月か五月頃からと考えて、丸一年と半年。それだけあれば日本についてあらゆることを知れていてもおかしくない――と言えたらよかった。


 実際は宇美花様に甚伍との縁を強くしてもらうまで記憶が曖昧過ぎて、ていうか記憶能力なさ過ぎてだめだった。本当に私とは思えないほどだめだった。


 去年なんて春の記憶はほとんどないし、夏は暑かったことだけ。秋は紅葉くらいで冬はちょっとした雪だけ。

 今年になっても春は曖昧、夏になってようやく夏祭りが入ってくる。怪異の件が出てきてからはそれなりに記憶も鮮明になってるような気もする。


 結局のところ、私がちゃんと四季について覚えているのは夏と秋(今)だけ。違う世海の文化を余すことなく知りたいのに、春も冬も全然知らない。桜を見たい、雪を見たい。街を見たい。クリスマスとか言うのも見てみたい。すごく気になる。

 そうやって考えていくと、私がまだまだ"日本"という国を知れていなかったとわかる。俄然、早くこの夕枯れ現象を解決したくなってくる。


『――よし』


 呟き、そろそろと見えてきた紅葉通りの出口へ降り立つ。

 私の取り憑き相手がぼやぼや歩いてくるのを眺め、気合を入れるために大きく声をかけた。


『甚伍ーーー!!』

「うわぁ!?――っとぅ、す、すみません。ちょっと虫が飛んでいてっ!」


 急な大声に驚いて声をあげ、急に叫び出した(じんご)に驚いて怪訝な顔をする近くの人たち。あわあわと頭を下げる不憫な少年。名前は石海甚伍と言う。


 この子がどんな言い訳をしたのか気になるところだけど、今はそこを追求する時間じゃない。


 ふぅふぅと気を落ち着かせている少年に近寄り、声量を下げてもう一度声をかけた。


『甚伍』

(はぁぁ……もう、急に大きな声出さないでよ。恥かかされたんだけど)


 抗議の眼差しを私に向けてくる少年へ、ふふりと微笑む。もちろん彼に私の笑顔は見えていない。


『夕枯れ現象、さくっと解決するわよ』

(……いきなりやる気出たね、どうかしたの?)

『これから紅葉のお花見もあるし、冬のクリスマスもあるわ。私そういうの知らないから、色々楽しく見て回りたいのよ。いつまでも夕枯れ現象なんていう意味わかんない怪異に煩わされていたくないわ』

(そりゃ僕もだけどさ。……解決の糸口が見つかってないんだからどうしようもないでしょ)

『そこはヒクイドリを見つけてなんやかんやしてあれこれするのよ』

(僕の守護霊が雑過ぎて困る)

『さ、張り切ってヒクイドリ探索といきましょう!』

「はぁ……」


 溜め息を吐き、それでもしょうがないなとばかりに頷いてくれた少年と共にヒクイドリ探索を進める。

 夕枯れとかいう怪異の解決策なんて微塵もわからないし糸口も見えないけれど、なんとなく何とかなりそうな気がしてきた。私と甚伍がいて、桔葉さんと妖怪たちも協力してくれているんだもの。ヒクイドリも見つければ、たぶん何とかなるわよ。たぶん。……たぶんね!


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― 新着の感想 ―
[一言] わんわん!を想像したらすごくかわいい
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