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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(前編)
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第五話、ヒクイドリと公園と私たち。

 ヒクイドリ。

 ヒクイドリは鳥類であり、インドネシア、パプアニューギニアに生息している。熱帯雨林を住処とし、主に上に挙げたような地方、東南アジアで見られる。


 これまで地球の日本以外についてほとんど知識がなかった私だけど、改めて甚伍から地理と国名を教えてもらって色々知ることができた。記憶の定着も宇美花様のおかげでしっかりするようになったし、これからは暇さえあればどんどん新しいことを知っていきたいと思う。


 ヒクイドリ自体は日本だと野生で生きていなくて、動物園でしか見られないらしい。私と甚伍(主に甚伍)がインターネットで調べたところによると、大きさは二メートル近くて、結構重いんだって。私の世海だと見たことも聞いたこともないから、地球特有の生物なのかもしれない。ニワトリならレメイラにもいるのにね。変な感じ。


 ヒクイドリを日本語の漢字で書くと火食鳥。火を食べる鳥って意味じゃなくて、写真で見たけど喉の部分が赤くて火を食べてるみたいだからそうなったとか。でも火食鳥なんて名前が付いちゃっている事実が大事。言霊が大事って、私も日本の妖怪から学んだわ。

 あと、どうでもいいけど、ヒクイドリの足蹴りは爪が鋭くて勢いがすごいせいで、蹴られたら人の肌裂けて内臓も飛び出ちゃうくらい衝撃があるみたい。うん、どうでもよくないかも。とっても危ない。危険だったら逃げましょうね。


(――にしても、こんな身近な公園にヒクイドリが出たなんて笑えないよね)


 思考を遮るように少年の声が聞こえてきた。

 ぼんやりしていた視線を固定し、周囲に意識を伸ばす。


 現在地、宇美花中央公園入口手前。

 見上げると、高木から大きく伸びた枝葉の隙間に青一色の空が覗いている。秋らしく薄く色付いた葉がひらりと宙を舞い、風に煽られて目の前に落ちてきた。青々しさを残しつつも、紅葉の始まりを告げるかのような光景だった。


『ヒクイドリねー……』


 先ほどまで考えていた鳥の名前を口にして、ネットに出回っていた写真を思い出す。


『……ねえ甚伍。あの写真、本当だと思う?』

(……それを確かめるために来たんでしょ?)

『そうではあるんだけどね。……気になっちゃったんだもの』


 ヒクイドリの紹介ページにあったのとそっくりな鳥の写真。普通の公園にありえない大きさの鳥が写っていて、合成のようでいて違和感のない写真"たち"。そう、たち。一枚じゃ偽物って判断できたけど、何枚も何人もが写真を撮っていたからわからなくなった。しかも場所が宇美花中央公園。


 何かがある。宇美花市でしか起きていないという夕枯れ現象との関わりが絶対にある。どんな形かはわからないけれど、わざわざ"火食鳥"なんて名前の付いた存在として表に出てきたのだから、関係ないわけがない。


 ただ問題は……どうにも怪異らしくないところよね。普通に皆に見られて写真撮られてるとか、意味わかんない。


『……はぁ。まあいいわ。今から行くんだもの。適当でいいから探しましょう?』

「うん」


 頷く甚伍の傍を漂い、少年と二人の公園探索を始める。

 ヒクイドリのことは任せて、私は普通に公園を見て回るのを楽しませてもらおう。日本での観光、とっても大事。


 祝日だからか、それなりに人が行き来する公園内を抜けていく。

 家族連れ、友達同士、ご老人数名、幽霊、犬連れ散歩。


 私のような守護霊を憑けた甚伍もいれば、一人で歩く幽霊もいる。さすがに活気あふれた公園なだけあって、幽霊からも攻撃性は感じられない。気配も薄らいでそのうち成仏しそうな感じがある。


 公園入口からすぐ、道がわからなかったのでひとまず高いところへ行けそうな緩い坂を上っていく。

 くるりと池を囲むように曲がり進みながら高く上り、木々とやぶの隙間から見える景色に立ち止まる。

 それなりに大きな手入れされた池を上から眺めると、写真撮影や観覧に勤しむ人たちがよく見えた。当然の如くいないヒクイドリを確認して先に進む。


『ヒクイドリがいるとしたらどこかしら』

(どこだろうね。この公園、ミニ動物園あるしそこにいたりして)

『ふーん。動物園ね………ん?』


 自分で言ってて違和感があった。中央公園に動物園なんてあったんだ。


『甚伍?』

(なに?)

『ここに動物園なんてあったの?』

(あったよ。ちっちゃいけど。前来た時は……いつだろう。中央公園に来たのって一年前とかだったっけ)

『あまり詳しくは覚えていないけれど、去年の夏とかじゃなかった?』

(あー、思い出した思い出した。美術の課題で自然風景描けとかそんなんだったんだ)

『ふんふん。なるほど?それで来たのね』

(うん。守護霊さんはその時、もう僕の傍にいたんだよね?)

『ええ。私があなたに憑いたのは去年の四月か五月くらいだったはずだもの。正確には覚えていないけど、たぶんそれくらい』

(記憶が曖昧って大変だよね)

『ふふ、そうね。でも宇美花様のおかげで今はばっちり覚えられるから、時間のことでもなんでも任せなさい』


 頷く少年に微笑み、道路の上に架けられた木橋から歩き出す――。


『――っと、甚伍甚伍』

(うん?)

『完全に動物園の話忘れちゃってたわ。ここ、動物園あるのよね?』

(あぁ、ふふ、話逸れちゃってたね。うん。動物園あるよ。まあ動物園っていうか、本当に簡単な触れ合い施設?みたいな感じなんだけど)

『そこにヒクイドリがいる可能性はあるの?』

(あー、さっきはそうかなぁって思ったんだけどね……写真は普通に草原の上だし、飼育されてたらされてたでこんな写真にならないと思うんだ)

『そう、ね』

(うん。まあ、うん。とりあえずゆっくり公園の中見て回ろうよ。僕も久しぶりだけど、守護霊さんは実質初めてなんでしょ?)


 ゆるりとやんわり笑う少年に、私もまた同様の笑みを浮かべて頷く。

 止めていた足を動かし、今度こそと公園探索を再開した。


 池から離れ、緑に囲まれた木橋を渡って歩く。剥き出しの土に木組みで作られた支えの階段が自然っぽさを醸し出している。


 とんとんとん、と階段を下り、葉先を紅葉させた枝葉の天井を見ながらすり抜けていく。

 階段下で周囲を見渡せば、高い木が大きく枝を伸ばして空を覆っていた。こぼれる陽の光が何ともあたたかい。


 真っ直ぐ歩き、樹木の間を縫って広場に出る。左右に大きく広がる草原だった。私もなんとなく見覚えがある場所。草原の途中に花壇が置いてあって……そうそう、ここからでも見える。ちっちゃい花壇が並んで、結構な人が遊んでたような記憶があるようなないような。


(結構人多いな。さすが祝日)

『そう?……そうね』


 一瞬そうでもないかなって思ったけど、よく見れば草原の端の方にシートとか敷いてる人が結構いた。近くの木製ベンチも全部埋まってるし、甚伍の言う通り人は多い。


『どこから見て回る?』

(うーん、そうだな。……とりあえず地図確認で)

『ふふ、はいはーい』


 というわけで、来た道を少し戻って木漏れ日エリアにあったちっちゃい公園地図を二人で見つめる。


『ふむふむ、そこの広場、見える範囲以上に大きいみたいね』

(だね。じっくり公園の中見て回ったりなんてしたことなかったから、思った以上に色々あって時間かかりそうだ)

『前来たときはどうだったの?』

(そこの広場で座って絵を描いて終わった。面倒くさかったからさくっと描いて終わらせたよ)

『評価は?』

(中の下)

『ふふ、妥当ね』

(うん、わかってたことだからいいんだ。それより……こう、広場を左から右にぐるっと回っていけば公園全体を見られそうかな』

『ん、そうね。時間はあるのだしそれで行きましょう』


 少年の提案に従って足を動かしていく。私は浮いているので気持ち的に動かすだけ。浮遊状態だとこう、動けーって思うだけで動いてくれるから結構楽だったりする。何かに触れる感覚ないから地面を踏んでるとかわかんないけど、身体を動かす感覚はちゃんとあるから歩くっていう行為そのものは私もちゃんとわかってる。


 だからこそ甚伍と一緒に歩けるし、ふよふよ浮いて付いていくもできる。今は空を飛んでいたい気分だった。


 大胆にも草原広場の真ん中を突っ切って進んでいく。草原が広いから真ん中を突っ切る余裕もあり、周囲を見渡して広範囲に目を通すこともできた。


 開けた空間に柔らかな風が吹いて草花を揺らし、人の話し声に混じってざわざわと音を立てる。

 草原広場を囲むように並ぶ木々の葉が薄く紅葉していた。

 わんわんと犬の鳴き声が聞こえ、吠え合っている犬の姿が遠くに見えた。公園散歩に来た人が多い分、犬同士で喧嘩になることも多いみたい。何言ってるのかわかんないけど。


 レメイラにも犬はいるけれど、基本的に水中救助とかで訓練されたのしかいないから、街中を歩き回るペットとしての犬は結構新鮮だったりする。まあ、それももう慣れたことだけど。


 騒ぐ犬もいれば静かに散歩する犬もいて、遠くには飼い主と一緒に日向ぼっこする犬の姿も見えた。薄青く半透明に見えるのはきっと気のせい。


『……』


 守護霊(わたし)がいるのだから、守護犬がいてもおかしくないわね。そういうこともある。


 気を取り直して周辺観察に戻る。

 広場を突き抜け、木々に囲まれた森の道路を進む。まだ落ち葉は少なく、周囲一帯が青々と茂っている。背の低い草花もあれば色付いた草木、キノコまである。自然に囲まれて緑の香りが心地いい。一か月後にどうなっているのかちょっぴり楽しみ。来る機会があるかどうかは別として。


 道なりかどうかわからない道を抜けると、再び開けた場所に辿り着いた。今度の地面は草原ではなくコンクリート。木造建築の大きな建物が一つ二つと置かれ、近くの地図を見れば売店となっていた。


『何か買う?』

(うーん……今日はいいかな)

『そ』

(うん)


 あまり乗り気じゃない様子の少年と売店は流し見し、建物の奥にある駐車場エリアも軽く見ておく。


(さすがにこっちにいるわけないか)

『そうねー』


 私も甚伍もいないかなーって思ってたから二人で苦笑するはめになった。予想はしていても、一応ちゃんと見ておかないとね。もしもがあったら困るもの。


『というか甚伍、あなたヒクイドリいるならどこにいると思ってるの?』

(あぁ、さっき途中だったっけ。色々言ったけど、やっぱりいるならミニ動物園だと思ってるよ。守護霊さんは?)

『私はどこか高いところにいると思っているわ』

(高いところ?)

『ええ。鳥は空を飛ぶものでしょう?』

(……)


 私の雑で真っ当な答えに何を返してくるかと思ったら、わざわざ携帯を取り出して調べ物をしている。しょうがなく待ってあげること数十秒ほど。


(守護霊さん)

『なに?』

(ヒクイドリは空飛べないよ)

『そう……』

(どこにいると思う?)

『あ、そっち戻るのね』

(うん)


 調べ物はヒクイドリの生態だった。

 驚き案件、ヒクイドリ、空を飛べないらしい。


 写真の見た目だと空飛べないのにも納得はいくんだけど、空飛べないならどうやって夕枯れに関わっているのかしら……。そもそも関係しているかどうかもわからないし、ひとまず見つけてから考えればいいかな。……どこにいるのか、よね。

 

『……その辺走り回ってるとかない?』


 空飛べないならそういう生態しててもおかしくないはず。たぶんだけど。レメイラにもそんな鳥いた……わね。たぶんいた。いたと思う。うん。


(どうだろう。意外とあるかもしれないね。僕らの探しているヒクイドリが怪異にまつわる何かならそれもおかしくない。普段は人の目に見えないけど、何かがきっかけで見えるようになって、たまたまそれが宇美花中央公園で……とかね)

『ふむふむ、そのきっかけとやらは?』


 聞いてみれば、肩を竦めて苦笑を口の端に滲ませてから返事をしてくる。

 相変わらず最近の甚伍は年齢に見合わない仕草表情をしてくれる。私は嫌いじゃないけど、もっと可愛げのある感じになってくれてもいいのに。


(それがわかったら苦労しないよ。――ま、そもそもヒクイドリがいるかどうかって話なんだけどね)

『それはそうね』


 意味のない問答はやめて散歩再開といく。

 歩くのはさっき決めた方針通りにぐるりと広場を囲むような道。左――地図上だと東――に向かってやってきて売店に着いたから、今度は右に向かって歩いて行くことになる。


 草原広場を横に見ながら進むと、等間隔の木々の合間にさっき私たちが通ってきた道が見えた。道というか、ただの林だけど。さすがに結構な距離があるから下りてきた階段までは見えない。来た方向はちゃんと覚えているので、今はちょうど最初と反対側付近を歩いているとわかる。


『この辺りは木々が薄いのね』

(だね。広場まで突っ切れるように整備してるのかな)

『ふーん……広場で絵を描いて終えたなら、ここは通ってないってことよね?』

(うん。完全に初めてだよ)

『そう。……今楽しい?』


 尋ねると、甚伍はきょとんとした顔で私のいる方を見る。


「あははっ」


 何が面白いのかすごく楽しそうに笑った。対して仏頂面の私。それなりに真面目に聞いたつもりだったのに、そんな笑われるとむむってくる。


『むぅ、なに?私、そんなに面白いこと言った?』

「え?あぁ、ふふ、いやいや」

『ちゃんと言葉にして』

(言葉にって、僕からしたらこっちの方が言葉じゃないんだけど)

『む、でもちゃんとわかってくれたじゃない』

(そりゃあね?それくらいわかるさ)


 胸張ってるところ悪いけど、褒めてあげないわよ。


『まあいいわ。それで?どうして笑ってたの?』

(ん?あぁ、うん。やけに守護霊さんが真剣な声で聞いてくるから。僕が嫌々こうやって散歩してるんじゃとか思ったのかなって。そうしたら変におかしくなっちゃってさ。ね?)

『……確かにそういう気持ちが一切なかったと言うと嘘になるわね』


 ちょこっとくらいはそんな気持ちもあった。

 その旨を伝えると、甚伍はもう一度笑って。


(でしょ?心配しなくても大丈夫だよ。こうやって誰かと一緒に公園を見て回るのも新鮮だし、見慣れない場所を歩くのも好きだから。だから、そう深刻に捉えないで)

『……ん、わかった。あなたがそう言うならそうする』


 私を安心させるようなことを言った少年に同意し、心の片隅では心配を重ねて固める。


 笑顔が自然だから甚伍の言葉に嘘はない。本心から楽しいと思ってるのはわかる。でも、状況が状況だから。


 怪異のことで何もわからないなんていつものことだけど、こんな長期間何もないようで不気味な日々は初めてだった。手探りも手探りで、甚伍自身としても受験のことがある。ただでさえ心労が掛かっているだろうに、これ以上余計なことをこの子の肩に乗せたくはない。


 今日も本当は……まあ私は公園来たかったしヒクイドリ気になってたけど、心の隅っこじゃ無視した方がいいんじゃって気持ちがないこともなかった。

 結局後になって調べておけば、なんて後悔したくないから二人で来たけど、やっぱり胸の奥のちくちく感はある。本当にちょっぴりだけど。


『……はぁ』


 ぐるぐると巡る心配の種は溜め息にして吐き出した。

 犬同士が吠え合う鳴き声が、秋初めの風に乗って遠くから流れてくる。さっきの犬とは違う犬なのだろうと思いながら、わんわん自由に吠えられる犬は羨ましいなと、心のどこかで少しだけ思った。

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