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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(前編)
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第四話、休日と散歩と夕枯れ。

 十月の初めの週が終わり、時は流れ十月も中旬が近い日付、十月十日を迎えた。

 季節は巡り、景色はすっかり秋の色を見せていた。


 色付き始めた木々に、道を歩けば香る果実。

 風に乗って流れてくる匂いは甘く、食欲のないはずのこの身体でも食欲が刺激されたような錯覚に陥る。


 甚伍曰く、ずいぶんと肌寒くなってきたとのこと。

 私には未だに触感がなく気温を実感することはできないので、気温の低下は天気予報か甚伍からしか得られない。そのうち自分自身の肌で感じられるようになりたいと思う。気温だけじゃなくて、風とか雨とか、そういうのもね。


 今日は月曜日。

 月曜日ではあるけれど、甚伍は学校にも塾にも行かない。祝日なのでどちらもお休みだった。


 私の甚伍は休日になると家でごろごろするか勉強するか、運動でえっほえっほと走るかのどれかになる。たまに図書館に行ったり部活で怪異について調べたりもするけれど、それ以外は、特に最近は受験勉強で真面目にお勉強をしていたりする。あと、私とのお喋りも。


「あー良い天気。快晴過ぎてお昼寝したい」

『なに?なんて言ったの?』

(天気良いからお昼寝したいなって言った)

『そ。これ片付いたらお昼寝くらいいくらでもしていいわよ』


 "片付くのずっと先じゃん"と肩を落とす少年を適当に慰めながら、二人で歩く――正確には私は宙に浮いて――道を眺める。


 歩道と車道と家々と。あと畑。

 基本的に住宅街なので家ばかりだけど、歩いていけば定期的に畑が目に入る。規模は様々。今のところあまり大きな畑は見られない。


 ちゃんといろんな作物育ててる畑は甚伍の家のすぐ側にあるものが一番大きいかもしれない。

 大きな果樹もあって、一週間に数日は採れたて野菜売ってたりもするのよ。甚伍は買いに行ったことないけど。ランニングで通るから目にする機会は多いわ。


『……本当、お昼寝日和ね』


 隣の少年に聞こえないよう高度を上げ、小さな声で呟いた。

 空は青く、太陽は眩しい。雲一つない秋晴れは気持ちまで晴れ渡るような清々しい心地にさせてくれる。

 こんな日は、さっき甚伍が言っていたようにお昼寝でもしたくなる。まああの子が寝たら私の意識も消えちゃうんだけど。それはそれで居眠りと考えれば悪くない。


 少年の隣に戻り、今度はしっかり彼に聞こえるようにと声を出した。


『ねえ、宇美花中央公園までどのくらいかかるか覚えてる?』

(え?うーん……どうだろう。隣の駅までは走ることも多いからわかるけど……今日徒歩だし)

『そうね。目安でも全然いいわよ?』


 具体的な数字を求めてるわけじゃないからざっくりでいい。


 私の言葉を聞いて、軽く頷いてから考え込む。どうやらざっくりでもちゃんと計算してくれているらしい。甚伍、良い子ね。とっても良い子。


 全部人任せはちょっとアレなので、私も私なりに考えてみる。

 今が朝九時過ぎだとして、いつものコース、隣の駅近くまでのランニングが十五分ってところでしょ?歩きだと三倍……三倍は行き過ぎかな。そこまでかからないとしたら、大体四十分くらいで着く計算。そこから公園まで十分か十五分か。言うほど遠くなかったような記憶がないこともない。


 要は一時間かからないくらいで着くって計算よね。我ながらそれっぽい数字出たかも。


(うーん、たぶん一時間くらいじゃないかな。もう十分くらいは歩いてるから、あと五十分とか?)

『あら、私と同じ予想ね』

(あ、そうだったの?じゃあ本当にそんな感じかもね。今は……九時十五分か。十時に着けば良い感じってことで見ておこう)

『ん、いいわよ。十時ね』


 鞄から携帯を取り出して時間を見る少年に頷き、歩き慣れた道をふわふわ浮かびながら進んでいく。


 休日の朝だからか、甚伍の運動で走り抜ける景色とは違って見える。

 太陽による明るさはもちろん、車通りも多く感じる。心なしか歩行者の姿も多いような。低級の霊体や妖怪はいつも通りまばらなので変わらない。


 のんびり歩いて絡んでくる低級の怪異は適当に追い払う。


 今日はお休み。お休みだけど、ちゃんと目的を持って外出している。

 目的地は宇美花中央公園。宇美花市一大きな公園で、宇美花神社の近くにある美花公園よりも数十倍は大きい。たぶん。


 私は一度しか見たことないし、その記憶も朧気なので実質訪れたことはない。結構楽しみ。


 甚伍の家からだと電車で一駅、加えて徒歩十五分。それなら歩いた方がいいんじゃってことで今歩きで公園まで向かっている。他にも理由はいくつかあるけれど、とりあえず公園に到着できればなんでもいい。


 お天気良いし、運動の意味も合わせて一緒にお散歩はやっぱり気分が良い。


(そうだ守護霊さん)

『んー、なにー?』


 ぽかぽかの日差しを浴びて日光浴さながらにぼんやりしていた。実際温度感はないから気持ちだけだけど、それでも十分。幽霊生活は心持ちが大事なのよ。これ、私の経験則。


(まだ公園まで遠いし、一度夕枯れについて情報まとめておかない?)

『……ん、起きた。いいわよ』


 数秒かけて気分を切り替えた。

 空中仰向けの体勢から甚伍の横に立って並んで歩く体勢へ。真面目な話をする時は少しくらい真面目にいかないとね。


(えっと、ひとまず前提から)


 今日までの夕枯れ現象についてつらつら話す少年の言葉をまとめると。


 一つ、夕日、夕方がなくなる。

 二つ、宇美花市でのみ起きている。

 三つ、普通の人には幻術がかけられている。

 四つ、原因不明。

 五つ、日没の時間変動に伴って夕枯れの発生時刻も変わる。


 以上、終わり。


『……わかっていたことだけど、桔葉さんとお話した時から何もわかっていないのね』


 私の言葉に神妙な顔で頷く。

 わかっていたけどわかってない。ちょっと頭弱い子っぽい発言かもだけど全然頭弱くないから。私、頭強い。……これの方がよっぽど馬鹿っぽい発言ね。


(とりあえず前提だから……。桔葉君の方もまだ進展何もないみたいだし、こっちもね。変化がなさ過ぎて僕はちょっと心配だ)

『ふーむ……』


 変化、変化ねぇ。

 この子変化ないって言うけど、気づいてないのかしら。


『ねえ甚伍』

(うん)

『変化ないって思ってる?』

(え、うん)


 前に回って顔を確認したらすごく真顔だった。あ、横向かないで。もうそっちに私いないから。


『変化なら起きてるわよ』

(え?そうなの?)

『ええ。だって夕枯れ後の夜だと怪異ってほとんど見かけないでしょう?』

「……あ」


 目を見開いて驚いている。ちょっぴり口も開いてる。可愛い。

 彼の正面から隣に戻って、並び歩きながら話を続けた。


『気づいた?』

(うん、気づいた。……本当に別の怪異に遭遇してないじゃん。低級妖怪も低級霊も一切見かけないかも)

『そうなのよ。理由はわからないけどね』

(どうしてだろう。夕枯れってそういう影響もあるのかな)


 わかんないわかんないと二人で言い合っていると、ごく自然な流れで前方から霊が歩いてきた。どうして霊ってわかったかって、車に轢かれて貫通して歩いてきたから。それと直感。守護霊の直感は馬鹿にできないわよ。


(守護霊さん守護霊さん)

『なに?』

(普通に雑霊いるよ)

『……今は夕枯れ発生中でも発生後でもないでしょう?』

(あ、そうか。そうだよね。ごめん)

『謝るほどのことじゃないわ。それよりほら、どうするの?無視する?』

(無視はしたい……けど、もうめっちゃこっち見てるから無理っぽい。あれ、絡んでくる系の霊だよ)

『そ。ならタックルの準備だけしておきなさい』

(……うん)


 こちらをじっと見てくる霊は全体的に薄く、動きも鈍い。ずっとゆったりした動きに見えて一瞬だけ機敏に動くのは低級霊によくあることなので。


「霊力全開!」

「ォォァァ」


 私たちとの距離が近づいた途端急に叫んで走り込んできた。けども、それより早く甚伍が叫んでタックルを行う。呪符が入った鞄を、袖に仕込んだ呪符を前にして突っ込む。ちなみに甚伍の叫び声に意味はない。いつも"霊力全開"、って叫んでるらしいけど、気分なだけらしい。


 両者が激突し、雑霊の身体がドーンと遠くへ弾き飛ばされた。それはもう良い勢いで空を飛んでいく。

 気配も遠ざかり、ただでさえ小さかった霊力的なものが欠片レベルになったことを感じる。


『――悪は去ったわ」

(去ったっていうか、僕が飛ばしたんだけどね)


 ふぅ、と一息ついて何か言ってくる甚伍は無視しておく。


 最近の低級は妖怪でも霊でも大体こんな扱いなので、一度遠くへ叩き飛ばしたら二度と絡んでこなくなる。というか、私も飛ばした後あの低級たちがどこまで行ってるか知らないのよね。呪符パワーと霊力タックル、恐るべし。


 普段通りの悪霊退治を終え、宇美花中央公園に向けた徒歩に戻る。

 あ、お話も途中だった。


『甚伍、さっきのお話』

(うん?あぁ、うん。前提条件以降だから……今日の話か)

『そうそう。中央公園に向かう理由よ』

(どうだっけ。ネットで話題になってたから向かってるけど、正直ヒクイドリがいたって話以外何も知らないんだよね)

『私もよ』

(……ん、あれ?もしかして夕枯れについての情報まとめもう終わり?)

『ふふ、そうね。終わり』

(…………やっぱり、今日の進展次第かなぁ)


 ぼやく少年にくすくすと笑ってしまった。

 肩を落とす彼の頭をぽんぽんと撫で(気持ちだけ)、少し変わった街並みを眺める。


 歩いて歩いて、住宅街は終わり水道道に差し掛かった。

 高い樹木はなく、整備された一本道が真っ直ぐ遠くまで続いている。左右を畑に囲まれ、土の匂いが鼻をくすぐる。車道のない歩道は普段より数割増しで広く、ランニングで付き添っている時よりも空が近く感じられた。


 畑で作業しているご老人に手を振り、おはようございまーす!なんて挨拶を投げてみて。真下から"おはよう"と返ってくるのに頬を緩めて少年の隣に舞い戻った。


『朝通る水道道もいいものねー』

(この時間帯はめったに来ることないからね。涼しくもなったし……畑で作業してる人も増えたかな?)

『どうかしら。そこまで詳しく見てないからわからないわ』

(同じく)


 のんびりゆったり歩き、時々自転車が通り過ぎていくのを見守って青い空の下を行く。

 走って通り過ぎたことしかなかった道だけれど、こんな風に朝から二人でぽやぽやだらーり歩くのも、悪くない。


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