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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(前編)
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第一話、残夏と秋音と私たち。

 夏が暮れ、蝉の鳴き声も遠くなった。代わりとばかりに鈴虫がリンリンと音を奏でている。

 近所の生活音と、開いた窓から吹き込む風に揺れるカーテンと。遠くから聞こえてくるテレビでは今週の天気予報をお知らせしている。晴れ、雨、曇り。季節の変わり目らしい、落ち着かない様子の天気だった。

 

 九月末。美しくも寂しい季節。秋の季節がやってきていた。

 近くの家に飾られた風鈴の音色が、秋の気配と同時に夏の残り香を漂わせている。


(――ねえ守護霊さん)

『なに?』


 名前を呼ばれ返事をする。

 この世海、地球という星の日本という国における私の名前。


 揺れる白いカーテンと、透けて見える薄まった青色の空から目を逸らす。

 視線の先にいるのは一人の少年。インナーだけを着て、椅子に座り窓の外を眺めていた。私の見ていた窓とは別の窓。机の上には開かれた教科書とノートが置かれている。それなりに整頓され、ペンや消しゴムなどの文房具は一か所にまとめられていた。


(僕、もう勉強疲れたよ)

『そう。今日はもう休んでもいいんじゃない?結構やったでしょ?』

(まあ……うん。でももうちょっと頑張りたい。だから今は気分転換したいんだ)


 少年は窓の外を眺めたまま呟く。

 私がいる位置だと横顔すら見えないので、本棚の前から彼の傍へと移動する。空中に腰かけ座っていた体勢を変え身体を起こし、ふわふわと浮かびゆっくりと動く。


 少年の前まで回り、澄んだ青の瞳を見つめて声をかける。


『気分転換に私とお喋り?』

「うわっ!?」


 私の声を聞いた途端、びくりと肩を跳ねさせて驚く。遠くを見ていた視線が私に固定された――ような気がする。


 驚き一色に染めていた表情を変え、疲れたような、呆れたような、それから気の抜けたような複雑な顔を見せる。

 十五歳(この世海換算で)にしてはずいぶんと大人びた表情だった。


(急に僕の前にやってくるからだよ。聞こえる声に距離が関係するようになったってこと、もう忘れた?)

『忘れるわけないじゃない。だって私とあなた――甚伍が初めて言葉を交わした日のことだもの』


 目前の少年、おでこが見えるほどの短い黒髪に青く蒼い世海一美しい瞳を持った男の子。名前を、石海(いわみ)甚伍(じんご)と言う。


 ここ数か月で少しだけ背が伸び、身体つきも健康的になった。怪異と関わるようになり、受験勉強の合間に欠かさず運動を熟している甚伍の身体は筋肉が発達してきていた。たぶん心肺機能も。


 それでも私よりまだ背は小さく、体重は……もしかしたら越されちゃったかもしれない。背の高さもそのうち抜かれると思うと、感慨深くもあり寂しくもある。時の流れの速さを、この世海の人の成長の早さを感じてしまう。


 私とのことを思い返しているのか、小さく微笑んで頷く少年に言葉なく曖昧に笑った。


『何から話しましょうか。私たち、ちゃんとお話できるようになってからあんまりお互いのこと詳しく話してなかったわよね』

(そうだね。……そういえばそうだったなぁ。守護霊さんが一緒にいるのが当たり前で、話せるのも気づけば当たり前だったから全然昔のこと話してなかった)

『ふふ、でしょう?時間はあるのだし、せっかくだからゆっくりお話しましょうか』

(うん)


 こくりと頷く甚伍を見て、記憶を探りながら話を始める。神様との縁が強まってから、記憶の掘り起こしもしやすくなったような気がする。


 最初は……やっぱり今に至るきっかけとなった事件からかな。


『ねえ、覚えてる?私たちが初めて出会った怪異』

(……覚えてるも何も、あれがすべての元凶――いや待って。本当に元凶なのかな。どうなんだろう。考えてたらわかんなくなってきた)


 難しい顔をして左手を掲げる。部屋の明かりに翳し、手を、指を見つめる。何の変哲もない、傷一つない五本の指。


『……確かに正確なことは言えないわね。薬指を渡したことが原因だと思っていたけど……あなたのそれ、違和感ないのでしょう?』

(ないよ。全然ない)


 手をひらひらと振って見せる甚伍に神妙に頷く。とはいえ私の仕草は彼に見えてない。唇の下に折り曲げた人差し指を当てる仕草も同じく。仕草どころか彼に私の存在は見えていない。私、霊体で幽霊で守護霊なもので。


 しかし、思えば本当にそうだった。最初の怪異――動く骸骨事件で甚伍は左手の薬指を失った。切り落として、捧げて、元の空間に戻ったら指も他の怪我も元通り。白昼夢のような出来事として終わった。


 その時から他の霊体や妖怪が目に見えて接触できるようになったから、指の影響かなーって思ってたけど……。思ってただけで、真実はわからない。もう骨は供養されちゃったから確かめることもできない。


『……考えてもわからないし、気にしすぎなくてもいいんじゃない?それより甚伍、私、あなたに言いたいことがあったのよ』

(え、何その怖い感じ。僕守護霊さんに悪いことしたっけ)

『ふふ、馬鹿ね。悪いことじゃないわ』


 怯えた様子の甚伍に少しだけ笑って、あの時思ったことを伝える。伝えようと、言ってあげようと思って言えなかった言葉。顔は合わせられなくても、言葉を交わせるようになった今なら言えるから、ちゃんと伝えてあげなくちゃ。


『あの時、あの不思議な骸骨と出会った時。今と違って何にもわからなかったはずなのに、本当によく頑張ったわね。私とあなた以外知らないからしょうがないけど、だからこそ私が褒めてあげる。甚伍、あなたはすごい。さすが私の取り憑き相手だわ』

(……なんか、くすぐったいな)


 頬を掻いて私のいる側から視線を逸らす。

 目は合っていないけど、声を頼りに私の方を見てくれる甚伍からはいつも通りに優しさを感じる。


『ふふ、ようやく伝えられたわ。ずっと言おうと思っていたのよ。最近忙しくて忘れちゃってたけど』

(まあそれはね。しょうがないよ。妖怪との交流なんて初めてだったんだもん)

『お勉強もでしょう?』

(……ソウダネ)


 はぁ、と短く溜め息。お勉強疲れが見える溜め息だった。


『それはそれとして、その後はどう?』

(その後?)

『ええ。色々見えるようになってすぐのこと』

「あー……」


 納得の声を漏らし、椅子を揺らして天井を見上げる。くるりと身体を動かして彼の前に回った。幽霊は自由自在に動けるのよ。


(まあ、最初は大変だったよね)


 軽いようでずいぶんと重みを含んだ声だった。表情にも些か苦笑の色が滲んでいるように見える。

 でもま、私も言いたいことはわかっちゃうから。


『急に見えるようになったものね……』


 小さく頷く甚伍を見て、思い出に浸るため場所を変える。

 窓の台に腰かけ、色を変えていく空に目を移す。


 最初はそう、普遍的な妖怪から始まった。

 当時、意思疎通ができなかった私は勝手に彼らを低級と呼んでいた。

 自我が曖昧で積極的に絡んでくることもない。たまに攻撃的なのもいたけれど、甚伍の霊力パンチで軽く退散できる程度のものだった。


(低級妖怪が相手でも最初はわけわかんなかったからね。よくもまあ逃げ回ってたよ)

『そうねー……。私の声、聞こえてた?』

(ふふ、うん。今ほど鮮明じゃないけどね。色々助けてくれてありがとう)

『いいわよ、別に。私ができたことなんてたかが知れているもの』


 低級相手でも何が起こるかわからなくて、甚伍は私とも意思疎通ができず対処手段がわからないからこそ必要以上に怯えて逃げ回っていた記憶がある。精神干渉の使用頻度はあの頃が一番高かったかもしれないわ。


(いろんなのに会ったよね。妖怪も幽霊も、人型から動物型植物型まで。自分の知ってる世界の狭さを思い知らされたよ)

『あら、知らない方がよかった?』

(はは、それはない。知れてよかった。守護霊さんとも会えたからね)

『そう。ならよかったわ』


 ちらと、私と同じように窓の外を眺めている少年を見て、照れくささを誤魔化すために手で顔を扇いだ。


 こほんと彼に聞こえるか聞こえないかくらいの咳払いをして、記憶を振り返るように言葉を続ける。


『幽霊には授業中とか関係ないから延々とあなたに絡んできて大変なこともあったわね』

(……あの幽霊、結局大層な理由もないただ暇なだけの面倒くさい幽霊だったんだよね。無駄に妖怪?霊?としての格は高かったっぽいのが今でもむかつく)

『ふふっ、危ない相手じゃなかっただけいいじゃない』

(よくないよ……。ずっとうるさいから返事したらもっとうるさくなるし、周りには独り言ばかりの変な奴って思われるし)

『妖精さんとのお喋りはいいの?』

(あれは……うん。もう妖精さんなんていないからいいんだ。それに周囲からの視線なんて気にしてたの最初だけだから。怪異解決のためならなりふり構ってなんていられないでしょ?)

『そうね。周りなんか気にしていたら家に帰れないものね』

(うん)


 帰れないというか、帰してくれないというか。

 強制的に学校から出られないとか、帰り道通せんぼしてるとか、追いかけてくるとか。そういうの多かったのよね。甚伍が見えてる人だってどうやって察してるのか知らないけど、こっちから勢いでタックルして物理攻撃が効くってわかってからは早かった。


 パンチもキックも下手くそだけど、私の甚伍ってタックルだけはすごく上手なのよ。誰でも上手とかは言っちゃいけない。


『追い払えるってわかってからはどうだった?』

(え、それって呪符のこと?)

『ううん。直接ぶつかったりとかそういう話』

(あー、腑に落ちた感じ?かな。ちょっと違うかも。意外に怖くないんだなとは思ったけど)

『なるほど』


 なるほどー。

 恐怖体験は最初にしちゃったからかしら。ぱぱっと攻撃効くなら怖いのも薄れるわね。私は……どうだろう。どっちにしろ最初から私のこと見えてない怪異ばかりだったから怖いも何もなかったかも。


(守護霊さんはどうだったの?怖いとかあった?)

『ないわよ。私、守護霊だし』

(さすがは僕の守護霊。これからも守ってください)

『ふふん、出来る範囲でなら完璧にやり遂げてみせるわ。任せなさい』

(頼もしいことで)


 本当に出来る範囲でだけどね。細かいところは言わぬが花ってやつよ。


(妖怪も幽霊も低級はさくっと退散できるってわかってからかな。ちょっと余裕ができて、どうせならって神社に行ったの)

『ふふ、宇美花神社行ったわね』

(行ったねー。そこでもらった護符が今でも存分に役立ってるよ。まさか神社の人も渡した護符がここまで本格的に使われているとは思ってないだろうね)

『あなたのは護符っていうか、もう呪符だけどね……』


 登校用の鞄に目をやる甚伍に呆れの眼差しを向ける。

 私の視線は当然気づかれないので、呪符に向けられた信頼の目が変わることはなかった。


『私、驚いたのよ?まさか自分を傷つけて出した血を使うだなんて思いもしなかったわ』

(僕も試しのつもりだったんだよ。護符は一枚しかないし、何度も貰えるものじゃないから試しで写してみたんだけど……)

『それが効いちゃったと?』

(うん。文字の効果に加えて、たぶん僕の霊力的なものが何か作用したんだよね、たぶん)

『そうでしょうね』


 そうでもなくちゃ説明がつかない。

 護符を真似て書いただけで効果があるなら護符の意味ないわよ。血を使っているのだって薄めた血液だし、霊力がどうとか考えないとお話にならない。私には霊力なんて一切認識できないけどね。


『とはいえそんな呪符が役立っているのだから文句も言えないわ』

(あはは、そうなんだよね。低級以外にもちゃんと効果あるおかげで色々楽になったよ)


 低級以外と言えば、明確に意志を持って行動する妖怪や幽霊たちのこと。低級とは違い霊力を持っているようで、火の玉を浮かべたり自身が浮遊したりと、魔法術っぽいことをしてくるのもいた。幽霊が最初から浮かべるとかは別として。


 どちらにせよ、そういうのも甚伍の呪符で突いたら悲鳴を上げて逃げていった。火の玉は散らせるし、空飛んでるのは地面に引きずり下ろせるしで呪符の力は偉大だった。


『まあ、それだけ便利な呪符も怪異には効果ないけど』

(悲しいこと言わないで。事実だけど)


 しょんぼりとする甚伍。可哀想なので頭を撫でてあげた。触れないから雰囲気だけよ、雰囲気だけ。


 私と甚伍の共通認識として存在する代物、怪異。

 私たちは妖怪や幽霊も含め、ありとあらゆる異常を一括りにして怪異と称している。


 でも、異常の中でさらに異様な、超常とも呼べるものをこそ本質的に怪異と称している気がする。


 明確な基準が定まっていないのは私も甚伍も怪異について詳しくないから。調べようにもあんな異常現象どうやって調べればいいのかわからない。


 本物の怪異は尋常な手段じゃ攻略することなんてできなくて、被害覚悟で押し通すか奇策を用いるか、解決の糸口を探って怪異を終わりへと導くかの三択になる。というか現実的な話上手くできるのは三番目くらいしかないので、選択肢なんてあってないようなものだけど。


 超常の怪異はどれもこれも何かしらの前兆があって、ちゃんと解決のための鍵も存在する。……ほとんど?……いやそれなり?……おおよそはちゃんとしてると思うわ。


 とりあえず、怪異が怪異として存在する理由を考えて探して無くしてあげれば、彼ら彼女ら自身が怪異としての体を成せなくなるからそれが王道だと思う。

 怪異に対して王道とか邪道とかあるのか知らないけど。


『怪我とかはどうなの?』

(怪我?)


 怪異のこと考えてたら聞きたくなっちゃった。

 甚伍って色々と可哀想な目に遭ってるから、それなりに怪我もしてるのよ。大怪我はあんまりないけど、擦り傷切り傷噛み傷打撲と、挙げれば切りがないくらいに怪我してる。


 ほとんどは怪異が終わったのと同時になかったことになるから傷も残らないんだけど、実際どうなのか詳しく聞いたことはなかった。それこそさっきみたいな指の話もね。


『あなた、傷だらけでしょう?見た目は治ってるけれど痛みとか残っていたりしない?』

(あぁうん、平気だよ――あ、でもあの時のは結構痛かったな)


 窓を眺めていた海色の瞳がこちらに向けられる。

 隣にいるからって急に視線向けられたらドキドキしちゃうわ。見入っていいならずーっと見入っちゃうわよ?私の趣味、まだ変わってないんだから。


『あの時?』


 じーっと見つめながら問いかけてみる。相変わらず綺麗な瞳してる。


(ほら、神社の拝殿前に投げ出された時のやつ)

『あー……』


 思い出しちゃった。

 神社って単語で思い出しちゃったわ。


『……私、完全に忘れちゃってたけど結構痛かったの?』

(うーん……それなりには?頑張らないと動けないくらいには痛かったよ)

『そう……今はもう平気?』

(さすがにね。一か月も経てば全然痛くないよ。へっちゃら)


 言って椅子から立ち上がる。軽く屈伸して身体の調子を私に見せてみせた。


『大丈夫そうね。よかったわ』


 からりと笑う少年に曖昧な顔で頷く。こういう時、相手に表情が見えていないと便利だと思う。基本的には不便だけど。


 話を戻して神社と言えば。

 そう、神社と言えば。

 私たちの間ではそれだけで通じてしまう。そもそも甚伍の住む町に大きな神社が他にないというのと、私たちに縁深いというのと、まだ宇美花様事件から二か月――この世海基準で――も経っていないというのと。他にも理由がいくつかあるから。


 甚伍が妖怪幽霊その他色々と関わるようになってから数か月。季節は夏を迎え、私は知らされていなかった夏祭りに参加した。ていうか私が参加させた。


 そこで怪異に遭遇した。いつも通りと言えばいつも通りの流れだったけど、色々あって神様とお話した。そのおかげで私と甚伍が意思疎通できるようになったりもしたんだけど……その過程で、甚伍の身体が神社の境内、拝殿前に叩き付けられる事件があった。当人も承諾済みのことだったとはいえ、思い返せば痛い音を出している。


 今でこそ笑って流しているけれど、宇美花様降臨事件(私命名)はずいぶんと大変な出来事だったわ……。


 呪符について語っている少年に意識を戻す。何やら宇美花様事件以降関わった妖怪のおかげで呪符が強くなったとか言っているらしい。私、適当に返事しちゃってたかも。ごめんね。


『――ねえ甚伍』

(うん?うん、なに?)


 途中で話を遮っても素直に頷いて耳を傾けてくれる。さすがは私の甚伍。幽霊わたしへの対応が完璧だわ。


『呪符のこともいいんだけど、あなた一時期私のこと"守り人"とか呼んでいたじゃない?どうして守護霊に戻しちゃったの?』

(……)


 無言の眼差し。ちょっぴり恥ずかしそうな顔してる。その返事でも別にいいわよ。私、あなたのこと見てるの得意なの。いつまでだって見ていてあげる。


『……』

(……)

『……』

(…………ええっとさ、守護霊さんそこにいる?)

『いるわよ』

(うわ、思ったより近い)

『息遣いが聞こえなかった?』

(聞こえてたけど、気のせいかと思って)

『そう。気のせいじゃないから安心しなさい』

(え、う、うん。……ええと、守り人についてなんだけど)

『ん』

(まあなんていうか、少し気取りすぎてたかなって)

『気取ってる?』

(うん。守護霊さんは守護霊さんだし、別の呼び方なんてする必要ないんだと思って。僕を守ってくれる幽霊だから守護霊。僕を守ってくれる人ならきっと他にもいるんだよ。それこそ家族とか、今なら宇美花の妖怪とかもかな。でも、僕を守ってくれる幽霊は守護霊さんだけだから。唯一無二の守護霊さんは守護霊のままでいいかって、そう思ってね)

『ふーん……ん、一応お礼言っておくわ。ありがとう、甚伍。これからも守ってあげるわ。あなたの守護霊としてね』

(ふふ、うん。よろしくね)


 なんだろう。このふわふわによによした気持ち。

 胸の内側がふわふわする。身体もふわふわ浮いてるし、心もふわふわしてる。照れもあるしくすぐったさもあるけど、それ以上のふわふわ感がある。ぽかぽかふわふわ。この感覚、私が本物の幽霊だったら成仏してるかも。


 ふわふわしながら取り憑き相手とお喋りし続け、気づけば(・・・・)夜。窓から差し込む光は一切なくなり、天上には黒の絨毯が一面に敷かれていた。


 お喋りも一区切り、未だ集中力も切れたままな様子の甚伍が勉強に身を入れることはできなさそう。それならばと、一つ大事な話を切り出す。つい数日前から始まって、今もまだ手がかりなくお手上げ状態の件について。


『甚伍、今日もちゃんと見てた?』

(うん。見てたよ)

『一瞬だったわね』

(そうだね。本当に気が付いたら、って感じだった)


 二人して頷き合い、窓の外を見つめる。

 夜の闇、明るい星だけが見える日本の空の景色。いつもと変わらない、夜の空。


(今日も夕方、なかったね)

『ええ。夕日の眩しさも儚さも一切なかったわ』


 少年の言葉に同意し、小さく呟く。


 妖怪でもなく、幽霊でもない。正しく怪異と呼ぶに相応しいおかしな出来事。


 甚伍の住む日本という国では今、夕方という時間が、夕日という現象がなくなっていた。

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