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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第一章(蒼海星)、雪の季節と海上同棲生活の変化。
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第十二話、粒子雲霊種との対話③

 先ほどのリィムさんたちの会話を振り返ると、僕は粒子雲霊種の人に住処の好き嫌い、居心地の良さを聞けばいいってことになる。それくらいなら余裕だ。

 ちなみに、ツィヤがあの場にいた人の名前を教えてくれた。男の人がソベルトさんで女の人がミィルクさん。やり取りを聞いた感じミィルクさんの方が年上っぽく思えた。見た目全然わかんないけど、たぶん合ってる。この世界の人は外見で年齢を計れたりしないのだ。


 雨雲に入り、空を飛ぶことしばし。

 ツィヤが止まったので僕も停止する。こちらから声をかける前に幼い少女風な声が脳を揺らした。


【ジンゴとツィヤか。もうみつかったのか?】

『いえ。あなたの……』


 気づいてしまった。言葉が止まる。そう深刻なことでもないけれど、話していればどうしても詰まってしまうような、そんな事柄。


【?どうかしたか、ジンゴ】


 問いかけてくる彼もしくは彼女。粒子雲霊種という種族で、未だ個別の名前を持たない人。ツィヤの時と同じだ。


『……あなたの呼び名を考えていました』

【よびな?】

『はい。呼び名、名前です』

【それくらいしってる。なんでわれになまえがひつよう?】

『あった方が呼びやすい……と思ったからです。粒子雲霊種や天候種というのは共星種が名付けたと聞きましたが、固有名じゃないですよね?』

【ううん。しらない。われ、なまえなんにもない】


 ごく自然に、当たり前のことを言うかのような声音だった。ちらとツィヤに目を向ける。


『シー。ジンゴ、わたしたちが話した粒子雲霊種の方とは別の方だと思われます。絶対数が少なく、彼らはそもそも同族と出会う機会すら少ないのです』

『そっか。ありがとうツィヤ』

『シー、ニー。気にしないでください。わたしの情報伝達不足でした』


 共星種の知識共有能力もなければ、地球のインターネット情報拡散技術もない。レメイラの魔法通信技術もないのだから、よく考えれば自分たちに付けられた種族名なんて当人たちが知るはずなかった。


『――それじゃあ、尚更だ。あなたに名前を贈りたい。名前もなく、ただ"あなた"とか"粒子雲霊種の人"とか言い続けるのは寂しいです。僕の我儘でしかないから嫌なら断ってください。でももし受け取ってくれるなら、どうか名前を贈らせてください』

【……いいよ。われのなまえ、ジンゴがかんがえろ】

『よし!じゃあ……』


 どうしようかな。

 気になって勢いで言っちゃったけど、何がいいだろう。見た目でわかりやすいのがいいよね。雲の中、迷路迷宮ラビリンス……。


『五里霧中とか』

【やだ。ふんいきがやだ。べつのにしろ】

『うん。なんとなくわかってた』


 雲に霧、水に雨。それに粒子。僕が言えることなんてこれくらいだ。外見はほぼ雲そのものだし、粒子雲霊種の内情を知らなかったら粒子がどうこうとかも言えなかった。


 名付けをするなら姿形に因んだものの方がいいよね。あと、声が僕より幼い女の子風だから可愛い名前がいい。レメイラっぽくするには日本語を直で持ってくるのはだめだ。わかりやすく英語として、クラウドにミスト、ウォーターにレイン。粒子は確か……マイクロなんとか。僕の英語力が足りない。けども……。


『……クゥレ』

【クゥレ?】

『うん。クゥレ。わかりやすくていいと思うんですけど、どうでしょう』

【クゥレ……クゥレ……うん。いいよクゥレで。われ、これからクゥレ】


 声が弾んで聞こえるのは気のせいじゃないはず。どう考えても喜んでる。よかった。


『それじゃあクゥレさん。質問がいくつかあるんですけどいいですか?』

【いいよ】

『クゥレさんにとって居心地良い場所ってどんなところですか?』

【ここ】

『……ここ以外でお願いします』

【いろんなのあるところ】

『いろんなの?』

【うん。ここはおまえたちがすんでいるからか、すごくいろんなものがある。われ大きくなれる】

『なるほど……。他に好みはありますか?粒の大きさとか細かさとか』

【ないよ。われすききらいしない。なんでもたべられる】

『あ、クゥレさんにとって食事だったんですね』

【うん。まえにおまえみたいなやつがきて色々はなしていったからしってる】

『そうなんですか……。わかりました。ありがとうございます。とりあえず一度他の人に伝えてきます。急ぐので寝ないで待っててくださいね』

【わかった。ねないでまっててやる】


 粒子雲霊種、改めクゥレさんと別れて雲の中を戻っていく。

 ツィヤには先に話を進めておいていいと伝え、ゆっくりとリィムさんたちのところへ向かう。さっきはわざわざ僕が戻るまで話を止めてくれていたようなので、今度はサクサク進めてもらうことにした。


 僕は今仲介役みたいなものだからね。冷静に考えたら精霊なんて建前で、目を覚ましたクゥレさん相手ならツィヤ一人でもいいくらいなんだ。


『ねえツィヤ。僕って今必要なの?普通にツィヤが話した方が手っ取り早くない?』


 というわけで聞いてみた。


『シー、ニー。ジンゴ、あなたは間違っています。わたしだけでは粒子雲霊種――クゥレ様に名前を付けるなど思いもしませんでした。クゥレ様から信頼を得られたのはジンゴ、あなたのおかげです』

『え、僕信頼されてる?』

『シー。はい。肯定します。声の大きさと波、粒子の揺れ、思念の動きから判断しました。クゥレ様はジンゴから名前を付けられたことをとても喜んでいます』

『そうなんだ。ならよかったけど……うん。僕が役立ってるならいいや。ありがとうツィヤ』

『シー。どういたしまして』


 妙に照れくさいな。頬が熱い気がする。

 誤魔化しに手で顔を扇ぎ、気持ちを切り替えるようにツィヤから目を逸らした。今の僕の目に青白い残光は優し過ぎた。


 少しばかり時間をかけて雲を抜け出ると、ぽつぽつ話し合うレメイラ組の姿が目に映る。すぐさま翻訳が始まるのはさすがの共星種と言える。ツィヤ様様だ。


「――ええっとねぇ。やっぱり近くに人工島なんてないらしいわぁ」

「そうですか。新しく作るという案は……」

「すぐには無理みたいねぇ。私もお砂糖専用の島とか作りたいけど、いっつもだめーって言われるのよぉ」

「それは当然です。そもそも十七都市近郊に大規模な農作物生産場を作ろうとすることが間違っています。天候を操作するための島も……いくら別世海の種族のためとはいえそう簡単に許可が下りるものではないでしょう。私が上の立場でも許可はしませんから」

「です、か。……どうしましょうか。人工島はだめ。天候操作はだめ。近場に十七都市以上の"色々な物"が大気に存在している環境などないでしょう」

「ねーえ?そもそもクゥレさんの"色々な物"って何なのかしらぁ」

「ふむ……粒子雲霊種というのですから、基本的には粒子そのものでしょうね。中でも一般的に言えるのが雲――すなわち水粒子のことです」


 三人の話し合いを聞いた感じ、あまり良い案は出ていなさそうだった。今のところ僕が出る幕はなさそうだ。傍観に徹しよう。あぁでも。


『ねえツィヤ。なんでツキさんって話に参加してないの?』

『シー。わたしたちは未だレメイラの事情について詳しくありませんから。大気組成、魔法術の成り立ち、海の構成、生物全般の種類。個体名ツキが情報収集に動いているとはいえ、レメイラで活動しているのはツキのみです。知らないことだらけのわたしたちが口出しするものでもないでしょう』

『あーそっか。え、でもなんでツキさんだけなの?他にも共星種の人っていっぱいいるんでしょ?』

『シー。はい。たくさんいます。ですがそれぞれの世界に一体だけとわたしたちは決めて行動しているのです』

『どうして?』

『すぐに集め切ってしまうからです』

『……そんなに数いるの?』

『シー。ジンゴ、お忘れですか?わたし、ツィヤはツキから分かれたようなものだと』

『あー……納得したよ、教えてくれてありがとう』


 ツィヤとの種族談義もそこそこに、リィムさんたちの話に耳を寄せる。


「水と言いますが、どこまでが水粒子になりますか?」

「難しいこと聞かれますね……。最小単位まで行くともはや水とは言えない物質になるのですが、魔法術を使った細かい分野の話は今は必要ないでしょう。粒子雲霊種のクゥレさんが雲という形態を取っている以上、雨、水滴、霧といった状態の水が粒子として含まれるのだと推測できます」

「うーん、そうねぇ。雲だものねぇ…………あっ」

「ミィルクさん?何か思いつきましたか?」

「うふふ、ええ。すこーしね?」


 ふんわりと笑みを浮かべる金髪空色の瞳の女性、ミィルクさん。何か思いついたようだ。


「ねえ二人とも。雲って蒸発した水が集まってできているものでしょう?」

「そうですね」

「じゃあ蒸発しなかったどうかしらぁ?」

「?」


 キョトンとしているリィムさんが可愛い。何にもわかってない顔。ちなみに僕も何のことかわかっていない。


「蒸発しなかったら……つまり海水のままということでしょうか?」

「うふふ、せいかーい」


 青髪青目の男性、ソベルトさんの言葉を聞いて納得する。リィムさんもふんふんと頷いていた。僕と同じですね、お揃いですよお揃い。


「海水のままならクゥレさんの言う"色々な物"もたくさん含まれているわよねぇ」

「それはそうですが……海水を粒子状にする方法はどうするのですか?少なくとも上空――我々が現在いる高度まで上げなくてはいけませんよ。それも一時的ではなく恒常的に、です」


 海水をそのまま利用する方法。盲点だった。雲と言えば水蒸気、という考え方が先にあったから完全に意識から外れていた。

 海水の内容物なんて……なんだろう。塩分と色々なミネラルとプランクトンと、それくらいだった気がする。たぶんレメイラでも変わらない……はず。魔法術のあれやこれやがあったらお手上げだ。僕の管轄外。


(海水……海水か。確かに色々含まれているわね。単純な栄養素に深海石のエネルギーも溶け込んで、海底の水なんて場所によってはそこらの深海石以上の触媒になるもの。海水を巻き上げるなら竜巻だけど……魔法術で竜巻作るのは手間よ手間。長時間維持なんて絶対無理)


 あ、そういうね。やっぱりレメイラの海水って深海石(元魔法石)が関係していたりするんだ。それはわかんないよ。


 しかし改めて聞いてみると魔法術ってすごいな。人工的に竜巻作ったりできるわけでしょ?地球科学でそういうことは……どうなんだろう。僕が知らないだけで出来るのかな。天候操作とかそういう系のやつ。可能だとしても、誰も実践してないってことはそこまでの利益がないってことかな。他の地域に影響出そうだし、リスクも大きそうだもんね。


「うふふ、何も私たちが海水を粒子状にしなくちゃいけない理由はないでしょう?海水そのままを空に流せばいいじゃない?ね?」

「……竜巻の逆をするってことですか?」

「リィムちゃんせいかーい。どう?良い案だと思わない?」

「悪くはないと思いますが、ソベルトさんが言ったように恒常的な魔法術の維持は難しいと思います。例えそれが水を操るだけの逆竜巻方式だったとしても、です」

「むぅ、そうかしらぁ。私なら…………うー、だめねぇ。ちょぉーっとできるかなぁって思ったけど、全然さっぱり無理みたい。ごめんねー」

「いえ、海水の利用は悪くない考え方だと思いますから」

「そうですね。粒子の条件として海水なら申し分ないでしょう。問題はそれをどのようにして上空に運ぶかですが」


 話を聞いていて思ったんだけど、上空まで水を運ぶのって無理じゃない?それこそ上昇気流でもなければ不可能な雰囲気が漂っているんだけど。


『ツィヤ。ツィヤだったら海水を上空に運んだりできる?』

『シー。可能です。が、連続的に間を開けず運び続けるのにはそれ相応の施設が必要です。魔法術による竜巻の作成には興味惹かれますが、深海石を利用した海上設備を作った方が早いと思われます』

『それ作るのにどれくらいかかるのかな』

『シー。不明です。レメイラにおける時間で年単位は必要かと』

『……おーけーわかった。ありがとう』


 つまり僕の体感時間で二年以上ってことだね。了解。まあ、納得のいく話でもあるけど。もともと海に技術力全振りしている世界が急に上空の雲まで水を届かせる設備作れって言われてもそりゃ難しいよね。むしろ時間かければできると判断してるツィヤがすごいよ。


(魔法術を使わずに海水を巻き上げる方法なんてあるのかしら。突風に大雨、台風に竜巻。いずれにしても自然現象ね。海中からの変化なら渦潮や海流、高波もあるわね。海生生物に水を噴き上げる魚もいるし…………水を噴き上げる?)


 はっと何かに気づいたような表情を見せる。

 どうでもいいけど、水を噴き上げる魚って鯨のことだよね、きっと。でも地球じゃ鯨って哺乳類に分類されるから厳密には魚じゃなくて……いやでもレメイラじゃ鯨=魚でもおかしくないかもしれない。魔法がある世界なんだから細かい差異があったっておかしくないはず。


「あの、海底火山はどうですか?」

「「火山?」」

「はい。海底火山からは大量の粉塵が吐き出されていますし、ある程度上に向けた力もあるはずです。海底の力を利用すれば海面に竜巻を作るよりも魔法術の行使はしやすいでしょうし……どうでしょうか?」

「……いいですね。火山のエネルギーも相乗効果として使えば効率よく海上まで道を繋げることができそうです。何より私たちの扱う魔法術に適した環境であることが良いです。試してみる価値は大いにあります」

「私も賛成よぉ。賛成だけど、ねえソベ君、リィムちゃん。十七都市近くの海底火山って知ってる?」

「私は知りませんよ。海中の調査は専門外です」

「私も知りません。深海付近なら少しは知っていますが、地形調査はしたことありません。観光課に連絡入れてみますね」

「うん。よろしくねぇ」

「リィムさん。お願いします」

「はい、任せてください」


 急展開で一瞬追いつけなかったが、リィムさんがブレスレットで電話している間に僕も落ち着いた。


 海底火山。

 あまり知識にはないが、基本的に地表の火山と変わりはないだろう。溶岩とかマグマとか火砕流とか火山灰とか。


 話の流れとしては、海底まで海にぐるぐる渦潮っぽく空気の通り穴を作って海底火山の噴煙を利用しようって形かな。途中で海水も巻き込めば上手く上空まで届くはずだ。高い山だと火山灰なんて十キロ先まで届くとか聞いたことあるし。


「――ここから百ミレメートルほどの場所にあるそうです」

「思っていたより近くにありますね。一度試しに向かいますか?」

「そう、ですね。クゥレさんにお伝えしてから船で向かいましょう。百ミレメートルの空中移動は大変ですから」

「そうねぇ。そうしましょう?ツキさん、クゥレさんにお伝えすることはできるかしらぁ?」

「はい。可能です」

「よかった。それではクゥレさんに連絡し次第下に降りましょう。船はもう準備をお願いしているのですぐに港まで行けます」


 ツィヤの通訳を聞き、三度クゥレさんのところへ行き、話を終えてリィムさんたちと共に海底火山があると言う場所まで向かう。久しぶりにアンカーを付けての高速移動となる。

 海底火山、地球でもレメイラでも見たことがないから楽しみだ。

分割③。終了。

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