第五話、リィムさんの週末休日ルーティン
リィムさんの週末休日ルーティン。
一日目(第八曜日)。
普段より起きる時間は遅めだ。目覚ましはかかっていない。魔法石から出るハープのような音もお預けで、寝起きも普段より数割増しに眠たげである。
リィムさんが起きるまでの間、壁抜け天井抜けをして外に出る。空はどんよりと雲が広がり、太陽はしっかり隠れてしまっていた。珍しく雨が降っていて、ついつい今日は雪じゃないよ!とリィムさんにたくさん話しかけてしまった。全部無視された。
目覚めて後、顔を洗ったりトイレに行ったりなどは変わらず、食事も平日通り。朝食は前日の作り置きを食べることがほとんどなので、マリテュールがせかせか配膳している風景が毎朝見られる。和む。
壁掛けの時計を見れば時刻は十時ちょっと過ぎ。
レメイラの時計は地球型とそう変わらないのでわかりやすい。……文字盤が半透明だったり針がやけに色味濃いけど。
遅めの朝食を終えた後は、ニュースを見ながらのんびり時間を過ごす。
だらだらしながらたまに読書をして、たまにパソコンを開いて、お昼を過ぎた辺りで買い物に出かける。
服装はいつもの仕事着より幾分ラフな青染めの長袖ロングワンピーススタイル。とても綺麗だが、上にコートを羽織るのでほとんど見えなくなる。もったいない。
仕事の時より格段に軽い化粧を済ませ、髪だけ結って家を出た。
水人形たちからのお見送りを受け、傘を差して家の近くのスーパーに向かう。
職場であるドームまでが歩いて十五分として、スーパーまでは歩いて五分。街全体を一時間で横断できると考えると、リィムさんの家は街でも中心部寄りと言える。
高台に位置しているから島の端っこだと思うかもしれないが、実はそうでもない。普通に家の裏から先は住宅街が続いている。
緩い坂を下り、大きな通りから左に曲がって少し。家々の合間に見えたのは背の高い建物だった。
ドームほどではないが、周囲の建物とは比べものにならない大きさを誇っている。日本で例えるならデパート(ミニ)といったところか。生鮮食品から日用品、金物まで売られている。総合大型スーパーと言うのにふさわしい店舗だ。
入口は自動ドア。原理は知らない。一階に生鮮食品が売られているので、リィムさんと一緒に回っていく。買い物籠は魔法も何もない、日本と同じようなものだ。この辺は世界が変わっても同じなんだなと安心する。
売られているものは主に魚介類で、あまり肉は見られない。あっても結構値段が張る。鳥肉豚肉牛肉と、日本の食の豊かさを実感する。とはいえ、こちらもこちらで魚の種類は豊富も豊富なので一長一短があるが。
よく考えれば日本も島国なのに、魚文化が薄れているのはどうしてなんだろう。やっぱりアメリカンな文化が色濃く出ているからかな。あと、島国は島国でもレメイラより島の単位が大きいし。
ゆったり歩きながら海藻や魚の切り身を籠に入れていく。リィムさんは魚の種類に頓着しないので毎回違った魚が出てきて面白い。とりあえず全部食べてみたくなる。
ある程度買う物を買ったらレジコーナーに向かい、籠を台座に置く。自動で金額が空中水液晶に表示されるので、カードだったりブレスレットだったりを翳してお金を支払う。実際にリィムさんはブレスレットを翳していた。
レメイラのスーパーは完全な自動レジとなっている。しかも籠に入れた物を自動で判別してくれる機能付き。日本でも見られるレジ形式だが、まだそこまで普及はしていない。
お金も完全電子マネーだし、仕組みは本当に意味がわからないけど技術レベルは凄まじい。やっぱり魔法なのかな。魔法なんだろうな。
買い物後は自分が持ってきた袋やら籠やらに品物を移し替えて終わりだ。リィムさんの場合は布製白色のエコバッグのようなものを使っている。僕も似た色のエコバッグ使いなのでお揃いだ。……そんなに買い物しないっていうのは言いっこなし。
短い買い物を終え、家に帰る。
デパート(ミニ)を出て見上げた空は変わらずの雨色一色だった。
家に帰った後は特筆して言うべきことはなく、ご飯食べてだらだらして、マリテュールとダンスしたり遊んだり、ヨガっぽく運動したりとして過ごして、ご飯食べて寝る。
これでリィムさんの休日一日目は終わりとなる。
二日目(第九曜日)。
起きて外に出ると、昨日に引き続き雨が降っていた。
リィムさんも起きてきて、窓の外を見て難しい顔をしていた。そして。
(雨……あまりこの季節に見るものじゃないけど……まあいいわ。そういうこともあるでしょ)
とのことだった。
やはり珍しいらしい。連日雪だったから急な雨には僕も驚いている。雨と聞くと梅雨の季節を思い出すので、早く雪に戻ってほしいと思う。切に。
休日二日目は初日と比べ買い物に行かないので、あまりリィムさんに動きがない。一日目より読書と魔法の時間が増えたくらいだろうか。
二日目、終わり。
三日目(第十曜日)。
二日目と同じ流れで一日が終わり。休日満喫終了――。
――と、普段なら本当にこれで終わる。終わるんだけど、どうにも今日は普段の休日とは違うらしい。
目覚めてすぐ、階下の物音に気づいた。というかそれに起こされた。いや僕が起こされたわけじゃないからこの言い方は正しくないんだけど、起きたのには起きたから間違いでもない。うん。とにかく物音で目が覚めた。
時計を見れば針は数字の六を示している。朝の六時だ。平日より朝が早い。一体全体何がどうなっているのかと下の階を覗くと、そこにはマリテュールがたくさん……はいつも通りとして、見慣れない白金色の髪が躍っていた。
『……あれ、お母さん?』
もちろん僕の母さんではない。
リィムさんより大分短い白金色の髪を持った女性、リィムさんのお母さんがいた。親子揃って髪が綺麗過ぎて眩しい。
輝きに見惚れて数瞬、上の階に戻ってリィムさんの下へ帰る。もう一人の美人さんは変わらずベッドでごろごろしていた。泥棒じゃなくてよかったけど、僕の取り憑き相手に警戒心が足りなさ過ぎて心配になる。
最悪ポルターガイストを使えばいいか。うん。そうしよう。
一人決意を固めながら宙を飛び、家の外に出る。時間帯的に太陽は出ていないらしく、いつにも増して空は暗かった。それでも何とか景色が見えて、雪ではなく雨が降っているとわかる。これで三日連続の雨だ。
『……おかしいな』
そう思ってしまうのは僕が怪異慣れしてしまっているからか――と思ったところで、遠目に何か、不思議な物が見えたような気がした。
翼のような輪郭を持ち、竜のような鳥のような、はたまた何か別の生き物のような。とても大きな――そうそれこそ、何かの化身のような畏れをもたらす存在。
じっと、それがいたであろう方角を見つめる。薄闇の中、風の音がよく耳に響く。数分待っても何も見えず、気のせいだったかと軽く首を傾げる。
『…………まあ、夢だからいいか』
もしもこれが僕の世界で、地球の日本だったら気のせいなんかで済ませたりしない。絶対に、絶対に何かがある。世の中絶対なんかないと言うけれど、あれは嘘だ。僕は知っている。怪異に限って絶対はある。予兆があればこそ、それは確実に、百パーセント絶対にその後の何かに繋がる。その予兆を見逃しちゃいけない。避けるか逃げるか対策考えるかしないと酷い目に遭うから。……まあ対策しても酷い目に遭う時は遭うんだけど。
とりあえずここは地球じゃなくてレメイラなので、何も見なかったことにしてリィムさんの部屋に戻った。
さすがに起きているかと思ったら、リィムさんは普通にベッドでごろごろしていた。
この人が寝ていたら僕はこちらの世界で意識を保てていないので、起きていることはわかる。だからただ動きたくなくてベッドの中にいるだけ。
『ふふ……本当リィムさんは寝起きよくないなぁ』
そんなことを思い口にしつつも、だらだらしているリィムさんの姿から素を感じられて、ついつい頬を緩めてしまった。




