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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第一章(蒼海星)、雪の季節と海上同棲生活の変化。
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第三話、夢の中の夢と現実。

『シー、ニー。パルパトゥーノーイテリコ、シーカパルパメァーノーイテリティス』

『うわ、リィムさんたちの言語じゃん』


 普通に驚いて素で喋ってしまった。

 浮いている身体を適度に安定させ、菱形種族、共星種の人の斜め後ろ上空を漂う。じーっと見ていても変化はない。衛星のように回り続ける青白い光も途絶えることなく、そもそも僕に話しかけたのかどうかさえわからなくなってくる。


 しかし、この人を連れて歩いているレメイラの案内人は今の言葉に反応を見せない。つまり、僕への声掛けと判断するのが正しい。まあ、会話の内容理解できないから何とも言えないんだけど。


 こういう時、何を言えばいいんだろう。

 適当に喋り続けたら言語理解が進んで日本語喋れるようになったりしてくれないだろうか。なんかすごい種族っぽいし、それくらいしてくれても良い気がする。


『あーあー。ええっと、僕、甚伍。石海甚伍。僕、甚伍。僕の名前は甚伍。あなたは?』


 返事はない。

 表情が読めないので伝わっているかもわからない。考えるだけ疲れてくる。


『シー、ニー。リキュムポスムキュアニュラムニオハビーイフォメーショネ』


 ……うん。

 まあ、なんだ。そろそろリィムさんも家に帰るだろうし、僕も一緒に帰ろうかな。


『それじゃあ、はい。すみません。またいつか……』


 そそくさと手を振ってその場を後にする。

 まるで無害な怪異に遭遇した時のような気分だった。後を引く気まずさ、気持ち悪さがある。


 廊下から壁をすり抜けて大きな通りに戻る。ドームの玄関とも言える、入ってすぐの広い空間だ。階段やエスカレーターが点在し、リィムさんが普段仕事をしている部屋もここから繋がっている。


 僕を認識しているのかしていないのかわからない共星種との意思疎通を終え、リィムさんの下へ。彼女は他種族との面談をした後は一度自室に戻って何か仕事をしているので、今日も戻っていると踏んだ。ドームを出て自宅へ向かっていたら、さすがにこの霊体が引っ張られると思うので間違っていないと思う。


『……っと、リィムさん』


 見つけた。普通に椅子に座ってパソコン弄ってた。

 真剣な顔で石板を見つめ、何をやっているのかと覗き込むと長々文章が書かれていた。もちろん僕には読めない。


『……ふぅ』


 安心する。平和だ。

 確かに僕は言葉を聞き取りたいとか、会話に参加したいとか思った。思ったけど、実際に話しかけられると困る。僕だけが居られる傍観者のような立ち位置、そこに踏み入られると平穏を脅かされているようで怖くもあった。


 夢だから適当に話していられた。

 夢だから気軽になんでもできた。

 夢だから雑に行動できた。

 夢だから、僕はリスクも考えずにやりたいよう、思った通りに自分を動かせた。


 他人が干渉してきてしまったら、それはもう夢であって夢でなくなってしまう。最初から夢じゃなくて本物の異世界だとしても、僕が夢として捉えているからそこは関係ない。重要なのは僕の意識なのだ。夢だと思っていられれば夢で、夢じゃないと思ってしまえば夢じゃなくなる。


 リィムさんとの意思疎通が叶うのは素晴らしいことだけど、夢を純粋に夢と楽しめなくなるのは由々しき問題だ。


『はぁ』


 軽く頭を振って思考を散らす。

 考えるのはやめよう。次に共星種の人と会った時、もし本当に僕を認識しているならまた話しかけてくることだろう。その時になってから、改めて考えればいい。


 今はリィムさんの傍でいつも通り平穏な日常を過ごそうじゃないか。


 帰宅準備を進めるリィムさんの近くを漂いながら、彼女の綺麗な白金色の髪を眺める。場所を問わず、季節を問わず色褪せない美しさは、相変わらず僕の心によく響くものがあった。



 翌日。

 朝を迎え、昼を迎え、夕方を迎えた。昨日と変わらず雪は降り続いている。


 今日は昨日会談した共星種の人と共に図書館を訪れた。

 レメイラ市(仮称)は直線で歩くと端から端まで一時間もかからないほどの小さな丸島だが、生活するのに十分以上な施設は存在している。


 多くの人の職場である巨大なドームを中心に、放射状に広がる住宅街。整備された道路は広く清潔で、立ち並ぶ一般住宅の合間にスーパーや病院、学校や公園がある。スーパーは日本で言う総合スーパーなので、その辺にあるスーパーであらゆるものが揃う便利方式だ。

 そんな建物の中の一つに図書館もある。僕もリィムさんと一緒に何度か行ったことがある。交易で訪れる別世界の種族に色々と説明するのに図書館は打って付けの場所だからだ。種族によっては文字の概念がないこともあるので時と場合によるが。


 今回の共星種は見た目神秘的な立体菱形生物で、リィムさんから拾った情報だと、交易として共星種が求めているのは情報なんだとか。文書でも口頭でも、どのような形でも良いから情報を集めることこそが種としての存在理由だとか何とか。結構難しい話だった。


 共星種側から提示された交易品として、ショト在来の植物や動物。要するに食べ物を好きにしていいよと言われたらしい。リィムさんの声がすごく舞い上がっていた。可愛かった。


 半日ほど図書館で過ごし、後は他の人に任せてリィムさん自身はドームに帰った。僕も一緒に帰った。その後は書類仕事だったりパソコンでの仕事だったりで普通に終わり、夜。


 共星種から僕へのアクションが何かあるかと身構えていたのに、まったくと言っていいほど何もなかった。杞憂だったのか、考えすぎていたのか。少々釈然としないものの、何もないならそれはそれでいい。


 雪の積もった夜道を歩くリィムさんを横目に、僕もまた同様にゆったりと足を動かす。

 残る足跡は一組だけ。むぎゅ、むぎゅと沈み込む音がリズミカルに鼓膜を揺らしている。


『……リィムさん、疲れてそうだな』


 横顔を見て、一人だからか気が緩んで疲れを見せるリィムさんの表情に心が揺さぶられる。


 今日は第六曜日。この人は明日まで仕事だ。今朝の天気予報だと、今週はずっと雪の予想だった。異世界テレビに映った晴れ、曇り、雨、雪、他色々のアイコンは僕の見知ったものとそう違わなくて助かる。


 とはいえ、雪のせいで気が参っているわけではないだろう。リィムさんは仕事終わりだと大体疲れた顔をしているから、いつも通りと言えばいつも通り。少しばかり普段より疲れているように見えるのも、僕の気のせいかもしれない。でも。


『こういう時こそ念力の出番でしょうよ』


 毎日暇を持て余して念力修行に明け暮れているのだ。気持ちが大事……かもしれないとわかっているのだから、この人が笑えるように本気で念力を使ってみてもいいんじゃないか。

 とにかく、やって損はない。


『……』


 目をつむり、意識を集中させる。脳裏に浮かぶのはリィムさんの輝く白金色の髪。艶めく髪が眩い光を散らす。躍るように振り返り、きらめく白金色の髪(プラチナブロンド)に負けないほどの笑顔が僕を照らす。この笑顔を守りたいと、曇らせたりなどしないと、天地神明に誓う。


『――えいやっ』


 目を開き、強い思念を雪に込める。舞い散る雪に、降り積もった雪に、白い雪に思いを込める。


「……あら」


 傘を差し、俯きがちに歩いているリィムさんが呟く。

 彼女の瞳の先には雪の人形がいた。

 深く積もった雪の中から這い出すように現れ、マリテュールのようにふよふよと宙を漂う。どこか動きが鈍くぎこちないのは僕が操作しているからだ。


 造形は水人形と同じ。水の代わりに雪を使っているだけで他に変わったところはない。

 てるてる坊主にちんまい手足を生やしたような形。顔の部分は何も書いていないのっぺらぼうなので、日本で出会ったら少々不気味ではある。ここは異世界なので問題ない。


 水人形ならぬ雪人形はリィムさんの傍を弱々しく飛び、雪の地面に不時着した。これ、操作結構難しいぞ。


「ふふ、珍しいわね。キュステュールの魔法術なんて普段使わないのに。誰かが使って忘れていったのかしら?」


 微笑み、のろのろ起き上がろうとする雪人形を持ち上げて立たせてくれる。

 温かな人の手の感触が念力越しに伝わってきた。


「ずいぶんと魔法術が雑だけど……子供が作ったのかしらね。ふふ」


 笑顔が優しい。僕はもう満足だ。まあでも、せっかくだから家まで帰るくらいはやろう。

 念力は雪人形を形作るように雪を固めて纏わせて使っているから、それなりに霊力的なものを消費している感覚はある。空中浮遊は制御も難しいし長く保つのは大変そうなので、雪人形には歩いてもらうことにした。


 僕の作った雪人形がよたよたとリィムさんを追いかけ、それを見てくすくす笑う姿に見惚れてしまい、気恥ずかしくもあり嬉しくもあった。


 わざわざ雪人形に合わせてゆっくり歩いてくれるリィムさんと一緒に、彼女の家へと帰っていく。しんしんと降り続く雪の中、街灯に照らされた夜道を歩くのは何だか不思議な気分で。雪人形の操作すら忘れてしまいそうなほど、胸の内は温かかった。

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