32話目
宿賃の割りに質素な朝食を済ませた四人は二手に別れ情報を集めることにした。
ネィルとエルミスは港の方を、クーネとカッツはギルドや酒場などを周り情報を集めることとなり、昼に集合しようと約束して別れた。
ネィルとエルミスの二人は港に到着し奪われた軍船が見えるとネィルは思わず噴きだした。
「はっは、ほんの少し前に見た船だが懐かしく感じるな。あれの魔導大砲の威力は凄まじいぞ。海からの砲撃だと言うのに城壁に一発で大穴を空けてくれたからな。」
「それほどのものなのですか?」
「あぁ。まぁ船である以上陸にあがることはなかったが、援護射撃は強烈であったわ。
奪うことも考えたが、ジグラッドの仲間達に見事に邪魔されて戦力を減らしただけだった、というのも敗因の一つであっただろうからな。」
魔王バルギスの城を攻め落とし、討伐することとなった最終決戦時に使用され、多大な成果を上げた軍船。それが今はそれほど大きくも無い一つの港町を脅かしているのである。
ネィルは再び笑いがこみ上げてくるが、何とか堪えることに成功する。
「くっふふ、さて、愚か者どもの様子を見ていこうではないか。行くぞ、エルミス。」
「え、ちょっとネィルさん!もう・・・。」
行くぞと言いつつ肩車状態になり進むように命じるネィル。
頬を膨らませながらも少し嬉しそうに指示する方向へと歩き始めるエルミスであった。
しばらく歩いていると、ネィルは妙なことに気付き言葉を漏らす。
「解せんな。町が狙われているというのにどいつもこいつも不安がっている様子が無い。」
「そう言われてみれば・・・。騒いでいるのは国の警備兵、くらいでしょうか?」
ネィルに言われて辺りを見回すと、たしかに人々はあまりにも自然に生活をしていた。
警備兵もよく見れば足止めをされている者達に説明を求められ、その対処で騒いでいるだけのようだった。
ネィルは再び指示を出し、奪われた軍船がもっとよく見える場所まで行き、そして軍船を睨みつけるように観察する。
そして・・・。
「ほう、エルミスよ、やつらのリーダーと思わしき男が見えたが、あれは賊ではないな。いや、もし奴が賊だとしたらこの世界は相当腐っているようだな。」
ネィルの言葉がいまいち理解できないエルミス。
そして軍船の方へと意識を集中させていたがために二人に近付く人物に気付かなかったネィル。
続きを話そうとネィルが口を開く直前、その近付いてきていた人物の言葉に遮られた。
「あの、今『エルミス』と言われましたか・・・?」
突然の声に振り向くと、そこにはフードを深くかぶった、声からして女性と思われる人物が立っていた。
ネィルは肩から飛び降り庇うように二人の間へ降り立つ。
「・・・誰、ですか?」
「あぁ、いきなり申し訳ありません。ちょっと知っている名前と面影でしたので声をかけさせてもらいました。」
謝りながらフードを外し顔を見せてくれる女性。そしてその顔を見たネィルが驚愕する。
「お前は・・・!!」
見覚えのある顔にいっそう警戒を強めるネィルに対してかけてくる二つの声。
「知っている方ですか、ネィルさん?」
「・・・どこかで、お会いしたことがありましたか、お嬢さん?」
一瞬驚きはしたものの、声をかけられ逆に落ち着きを取り戻すネィル。
「やだな、お姉ちゃん!この人はジグラッドの仲間の一人だったアリスだよ!有名人だからいきなりでちょっと驚いちゃっただけ。」
だが、それに対し今度はエルミスが驚き、そして知らなかった故にミスを犯した。
「この人が!まさか近くにジグラッドさんが!?」
「おや、何故私がいるとジグがここにいる事になるのでしょう?」
「え、だって・・・。ジグラッドさんは私を探し・・・。」
「エルミス!言うな!!」
ネィルが慌てて止める。それと同時にジグラッドの仲間と会った時の対処を考えて伝えておくべきだったと後悔した。
が、それは後の祭りである。
「どうやらあなた方は何か、秘密があるようですね。それにお嬢さん、見た目は幼いですが、今の態度からこちらのエルミスさんより上のようですね。」
「くっ・・・。」
エルミスとアリスの間に立つネィル。エルミスはどうして良いかわからず立ち尽くしたままだ。
しばらくにらみ合う二人だったが、先に警戒を緩めたのはアリスの方であった。
「まぁ良いでしょう。今は騒ぎを起こすことも無いでしょうから。」
その言葉にネィルも警戒を解き、今度はエルミスと向き合う。
「あ、あの、ネィルさん・・・。」
「そう泣きそうな顔をするな。これは私のミスだ。すまんな。さて、どうしたものか・・・。」
エルミスの腰を軽く叩きながら思案する。
(この状況下でアリスが我等を逃すはずが無いのは容易に考え付く。
ならば下手に逃げて騒ぎを大きくするよりは・・・。)
「では、お嬢さん・・・ネィルさん、と呼ばれてましたがそれでよろしいかしら?」
「あぁ、好きに呼んでくれ。私も面倒ゆえにお前をアリスと呼び捨てる。」
「・・・?なんと言えばいいのでしょう、ネィルさんの態度、と言うか雰囲気に似た方を私は知っているのですが・・・。」
「ふん、お前の思った通りだろう。アリスよ、こんな姿だがまた会えたな。」
驚きと共に一歩下がり再び警戒するアリス。今度は殺気すらも含んでいた。
だが、そんな殺気を受け流しながら
「まぁ慌てるな。さっきお前も言ったがこちらとしても騒ぎを起こすつもりは無い。だから落ち着け。」
「・・・その言葉を、信じろ、と?」
「それはお前の勝手にするがいい。だが私は娘にこの世界の『友人』を紹介したいのだがな。」
『友人』と言う言葉に衝撃を受けるアリス。力が抜け肩を落とし、そして搾り出すように・・・。
「あ、あなたは、本当に、魔王・・・、いえ、それよりも前の、『あの人』が召喚したバルギスだというの・・・?」
「『あの人』、アルドの事か。許せとは言わん。だが、お前にはちゃんと謝罪していなかったな。すまなかった。」
深々と頭を下げるネィルとそれを見守るエルミス。そんな隙だらけのネィルへ、涙を浮かべながら力なく叩くアリス。
「馬鹿、今更なのよ。バルギスの馬鹿・・・!」
アリスは過去を思い出しながら何度も何度もネィルを叩いていた。
アリスは今は無き「ノーレ魔導王国」の姫だった。そしてその国に所属する宮廷召喚術師アルドとは主従を越えた仲であった。
国のしきたりにより、1年の旅に出ることになったアリスはアルドと共に出発。その際、護衛としてアルドに召喚されたのがバルギスであった。
アリスの旅も順調に進み、その中でバルギスとアリス、アルドは親交を深め、かけがえの無い存在となっていった。
だが、旅も終わろうとした時、ボロボロのエルミスを発見し、怒りに我を忘れたバルギスは大暴れして国を滅ぼすのだが、その最中にアルドを死なせてしまったのだった。
その後魔王と成ったバルギスは、人間達に虐げられていた者たちを纏め上げ、バルギスを召喚してしまったと言う責任を負わされたノーレ王国の全戦力が討伐に向けられるが撃退に成功。
結果ノーレ王国を滅亡へと追いやった。
アリス自身もアルドが死んだ際に大怪我を負い、復帰した時は既に戻るべき国は無く、そして魔王バルギスを斃すべくジグラッドの仲間へと加わる・・・。
「結果的にとはいえアルドを死なせ、国を滅ぼした事をそう簡単に許すつもりは無いわ。でも人間側にも非はあるし、私の親はまだ生きている。だから・・・、今だけは信じてあげます。」
「すまぬ。」
「もう謝らないで。それに、今のこの世界は何かがおかしいのよ。」
「・・・それはあそこにいるザレスの事か?」
視線で軍船の方を示しアリスに尋ねる。
「いえ、ザレスは私と共に行動をしているの。おかしいのは文字通り世界、各国の王達よ。」
「ほう、世界を救った英雄の仲間が賊まがいの事をする事以上におかしいというのか。」
「そうね。おかしいからこそこんな事をしてるのよ。」
ふむ、と腕を組みアリスを見つめるネィル。ふと何かを思いつき、
「よし。アリスよ、特に急がぬのなら宿でゆっくり説明してくれ。この件に関して今の仲間にも聞かせて意見を聞きたい。」
「仲間・・・?まさか昔の仲間を集めて・・・。」
「勘違いするなよ。そうだな、お前達と共に冒険していた頃を思い出させてくれた『友』を紹介してやろう。クーネとカッツと言う『人間』だ。」
そう言い明るく笑うネィルを見つめ、昔のバルギスの面影を思い出すアリス。
話についていけず、少々拗ね気味だったエルミスに声をかけ、もはや定位置となりつつある肩へと乗ったネィルは
「エルミスよ、少し早いが宿に戻るぞ。」
「もう・・・。たまにはちゃんと歩いてください。」
愚痴りつつも素直に宿へと向かうエルミス、そしてそれについて行くアリス。
ネィルは宿へ戻る道中、腕輪に触れながらクーネを思い浮かべ、心の中で言葉を伝えた。
しばらく反応が無かったが、そのまま待っていると反応があった。
(取り込み中だったか?すまんな。)
クーネとのやり取りの後、宿へと戻ったネィル達はクーネ達が戻るのを待つのだった。




