31話目
クーネの体調もだいぶ落ち着き旅を再開した一行。
しかし、再開して数時間後には盗賊に襲われ、撃退する羽目になっていた。
ネィルとエルミスの活躍で特に何事もなく追い払われ、すぐに歩み始めたのだがクーネが
「この辺って賊とか出るものなんだね。ネィル達がいて助かったなぁ。」
と言った事がきっかけで、お昼の休憩にカッツから今の情勢を教わることになった。
魔王バルギスが勇者ジグラッドに討滅されて以降、魔物や人間種を嫌う亜人達の襲撃等は鳴りを潜めたが、かわりに同じ人間である賊などが力を増していた。
大きな街や力のある小さな村町には警備兵なども常設されて、それほどの被害はないのだが、警備の薄い所や街道などでは魔王の騒動以前よりも被害は多いほどだった。
だが人々は魔王がいなくなったことにより平和になったと思い浮かれていた上に、各国の上層部も魔王討伐後の後処理に追われ、賊の対応にも遅れが生じ、結果として都市部から離れた場所には注意喚起が届いていなかったのだ。
クーネの住んでいたルマー村もそれに漏れず、魔王討滅の情報が届いて以降の世間の治安は知らされていなかった。故に旅に出たクーネに対して情勢を知っていたカッツは驚きつつも無事にブロディ山岳都市に到着したこと喜んでいた。
そしてカッツは思いもしない事だが、それほど危険は無いだろうと旅を許された『本物の』クーネが殺される事になったのだ。
「え、それってもしかして今のご時勢の旅って結構危険なんじゃ・・・?」
「もちろんだよ。だから本当なら旅なんてやめて村に帰って欲しいと今でも思っているんだから。
それに僕達は賊から見れば格好の獲物だと思うよ?なんたって女三人にひ弱な僕の4人なんだから。」
クーネに対して少し呆れつつ自虐するカッツ。
「もっともその見た目を信じて襲ってきたなら漏れなくネィル達に撃退されるだろうけどね。」
「あまり頼りきられても困るんだけどね?かばうつもりではあるけど自分の身に降りかかる火の粉は自分で払って欲しいな。まぁお兄さんがいなければ問題ないんだけどね。」
「ネィルさん、それは・・・、僕が足手まとい、っていうことですか?」
ネィルの言葉に少しムっとして睨みつけるが、さらりと受け流し、
「違うよ、むしろお兄さんはみんなを助けているんだよ。もしお兄さんがいなかったら・・・。」
幼女に似合わぬ邪悪な笑みを浮かべてカッツを見つめる。
「この世界の悪い人なんかみんな消えちゃえばいいんだよ。」
静かに吐いた言葉にカッツの背筋に冷たいものが走る。だがすぐにネィルの頭に拳骨が落ち、雰囲気が和らいだ。
「ネィル、あまりカッツを脅かさないでよ。せっかく仲良くなってるんだからそういうことはしない!」
「ごめんねお兄さん。でも脅したのは冗談だけど言ったことは本当だよ。クー姉ちゃんのお願いで極力やり過ぎないように手加減してるんだからね?」
今度は邪悪さの抜けた幼女らしいあどけない笑顔でカッツに微笑む。内容は物騒極まりないが事実である。
証拠に襲ってきた賊は怪我人こそいるものの、誰一人死んではいなかった。
エルミスは手に入れた武器の練習を、ネィルにいたっては武器すら使わず、掴んで放り投げていただけなのだ。
結果、圧倒的な差を見せ付けられた賊は逃げ出したのである。
「いえ、いいんです。でも仕方なく賊に身を落とした人がいるのも事実なんです。なので僕からもクーネと同じことをお願いしたいです。」
「ねぇ、仕方なくってどういうこと?」
「あぁ、元から賊だったという連中よりも、魔王との戦いが終わった後の傭兵崩れや戦闘系冒険者が多いんだ。」
「そういうことね・・・。」
クーネの問いにカッツが答え、ネィルが納得した。
つまり魔王がいなくなりおとなしくなってしまった魔物や亜人に対しての戦力が、そのまま仕事が無くなり賊に身を落とした、と言うことだ。
「こう言ってはなんですけど、魔王がいたころの方が目的がハッキリしてて楽だった、と思います。結果的にとはいえ、全ての国が一つに纏まった瞬間なんてあの時だけですから。」
ため息交じりに苦笑いをする。
「なるほどね。そのくせ自尊心だけは高いから性質が悪い、と。」
ネィルはそういいながら足元にある小石を掴み、岩陰へと投げつけた。
すると小さい悲鳴とともに立ち去る複数の足音。
「まったく、さしずめ気の抜けたところを襲って先の憂さを晴らそう、とでも考えてたのかな。懲りる、と言う言葉を知らないのか、あの連中は。」
「あはは、よく気付きましたね。僕は全然気付かなかったですよ。」
「さすがネィルね。」
ネィルに感心するクーネとカッツ。
結局ここもまだ安全ではない、と言うことで早急に休憩を切り上げ出発することになった。
結論から言えば、その後2度ほど襲われる事になるのだが、幼女姿とはいえ元魔王とその娘が相手ではまったく問題にならなかった。
今目指しているのは、ダイカランドのある中央大陸に渡る船に乗るため、『シルヴァン』という港町だ。
シルヴァンに着いた一行は、まず宿を取りゆっくりしようとしたのだが、どこも客がいっぱいでなかなか見つけられずに困っていた。
不思議に思い、5軒目の宿で理由を尋ねると、海で問題が発生しているらしく、船が出せずに立ち往生してしまった客でいっぱいとのことらしい。
何とか8軒目の少々割高な宿に腰を落ち着かせることができ、そこで今後のことを話し合うことになった。
「それで、原因はなんだったの?」
「なんでも海賊が港を塞いじゃっているらしいんだけど、問題はその海賊が使ってる船が軍から奪った軍船らしいんだ。」
「え、それってもしかして魔王戦の時に使用してた・・・。」
「そう、あの魔導大砲搭載の巨大軍船だって。あの大砲一発でこの町の半分以上を壊滅させられる威力があるから下手に手が出せないらしいよ。」
そんなカッツとクーネの会話を聞いて思わず笑い出してしまうネィルとその様子を不思議そうに見つめているエルミス。
それに気付いたネィルが笑いを噛み殺しながらエルミスに説明し始めた。
「あは、あー可笑しい!だって考えてみてよ。魔王を倒すためにと自分たちの手に余る力を作り出しておいて、その力が自分たちに向いてるんだよ?まさに自業自得だろう!
こんな愚かな人間どもを笑わずにいられるものか!」
最初は笑っていたネィルだが最後の方では怒気を含んでいた。そんな様子を怪訝そうに見るカッツ。
「こんな馬鹿どもを相手にしていたとは我ながら情け無い。ジグラッドとその仲間達は本気でこの世界を憂えていたが、これでは報われないにも程があるというものよ!」
「ちょっ・・・、ネィル!言い過ぎ!!というか落ち着いて!」
慌ててネィルを抱き上げ口を塞ぐクーネだったが少し遅かった。
ネィル自身もハッとしてカッツのほうを見るが、その表情は明らかに困惑していた。
しばらくの沈黙の後、一つの結論を導き出したカッツは一言だけ言葉にする。
「説明、してくれる?」
クーネとエルミスがお互いを見つめ、同時にネィルへと振り向く。そこには申し訳無さそうに苦笑いを浮かべ、そして手を合わせ「ごめん」のジェスチャー。
しかたない、とネィルの正体とエルミスの関係を話し始め、終わったときには気を失っているカッツであった。
夜、ベッドに腰掛け、テーブルを囲んで座っている三人を眺めるカッツ。その表情は落ち着きを取り戻しているようだが暗いものだった。
「まったく、どうするのよ?」
「どうするも何もなるようにしかならないだろう。過ぎたことだ、あとはあやつ次第よ。」
「ネィルさん・・・、少しは反省して下さい。」
「む・・・。そ、それよりもだ、この先どうするのだ?いっそのこと船ごと沈めて黙らせてきても構わんぞ?」
視線を逸らしつつ提案を出すが、クーネに却下されてしまう。
「下手に刺激することも無いでしょう。いくらなんでもこのまま放置なんてするワケ無いし、しばらくのんびりでも・・・。」
「残念だけど、今のこの国に何とかする力は無いよ。このまま行けば町は相手の言いなりだよ。」
離れた所で聞いていたカッツから声をかけられ、そしてその答えに二重の驚きを示す三人。
真っ先に口を開いたのはネィルだった。
「ほぉ、少し驚いた。私のことを知ってそのうちどっかに行くものと思っていたのだがな。まさか話しかけるとは。」
「ネィル!またそういう言い方する!ごめんねカッツ、ネィルの素の口調はこんなのだけど悪気があるわけじゃないから。」
謝るクーネに優しく微笑み、そしてネィルと向き合う。
「うん、大丈夫。怖くない、と言えば嘘だけどここまでのネィルさんとの付き合いのおかげでちょっとは平気だよ。
それにもし本当に僕を騙してどうこうする気なら、少なくても今こうしてクーネと今後のことなんか話さないでしょ?」
「はっはっは、おぬしの様な人間もいるから面白いし捨てたものでもない。
安心しろ、クズどもに辟易してはいるがジグラッドに倒された今この世界をどうこうしようとは思わんよ。」
カッツを交え四人でまた話し合いを始める。
カッツの持っていた情報によれば、
軍船を奪った賊はそれほど多い人数では無いが個々の力は高く、この町の警備兵では太刀打ちできなかった。
奪われた軍船には当然船員もいたのだが、不思議なことに船員は誰も降りずにそのまま海賊に従った。
今の所は賊からの金品要求などはなく、ただ「大人しくしていれば何もしない。だがこちらに害をなせば町を吹き飛ばす」だった。
これらを言い終え、カッツはため息をつき、
「このことからこの町の警備兵じゃ話にならない、そして海上にいる以上気付かれずに近付くのは難しい。もし見つかれば町が危ない。」
「そして静かにさえしてれば船は出せないけど町は安全ってことね。海賊の言葉を信じるなら、だけど。」
頷くカッツと唸るクーネ。
「ふむ、何かを待っている、のか?戦力的に相手はいわゆる先の大戦の崩れ者だろう?」
「待っている、ですか。何を待っているのでしょうか?」
「さあな。それはわからんが現状時間を稼いでいるとしか思えんだろう?
どうするクーネよ、特に急がないと言うならここの様子を見ていても構わんが、もし急ぐと言うなら別の道を探さねばならんぞ。」
ネィルに促され、さらに唸るがすぐに答えも出ずに、結局明日また少し町で情報を集め今後を考えようとなり、その日は休むことにしたのだった。




