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29話目

 その日の夜、クーネは夢を見ていた。

 否、セイジは悪夢を見ていた。


 そこは火の手が上がり、亜人・・・狼男ライカンスロープが指揮する多数の魔物が村人を襲っていた。

 慌てながらも辺りを見回す。知らない風景だが知っている場所。

『ルマー村』の名前が頭をよぎる。

 しゃがみこんでいたセイジは立ち上がろうとするもののバランスを崩し、再びしゃがみこんでしまった。

 震えている自分の足を見たとき、自分がクーネの体のままである事に気付く。


「くっ・・・。そうか、これはあの時のクーネの記憶か・・・!」


 落ち着いてゆっくりと立ち上がる。自然と向かう場所が頭に浮かび、ふらつきながらもそこへと向かう。

 数メートルも歩いた所で目的の場所が見の前に現れた。


「これが、クーネの家・・・。」


 まだ荒らされた様子の無い、一軒の家が目の前にあった。

 ゆっくりと近付き、そして徐々に足早になり、ついには走り出して家の中へと飛び込む。


「お父さん!お母さん!!」


 意図せず勝手に言葉が出る。おそらくこれはクーネが言わせているのだろうと思い、その言葉通りクーネの両親を探すが・・・。


「そうだ、クーネの両親はクーネの目の前で殺されている。これがその時の記憶と言うのなら・・・。」


 急いで庭へ飛び出すと、そこには今まさにクーネの両親が殺されそうな場面だった。


「や、やめろおおぉぉ!!」


 セイジは頭にスイッチを思い浮かべオンにする。そして一気に間合いをつめようと駆け出そうとして・・・何者かに押さえつけられた。


「ぐっ!だ、誰だ・・・!」

「ダメだろう?ここはちゃんと目の前で殺されてくれないと話にならない。」


 セイジの背筋に冷たいものが走る。同時に知っているようで聞きなれない、思わず耳を塞いでしまいたくなるような声。


「そうだ、物語をもっとリアルにするために少し趣向を凝らしてみようか。」

「な、なにを・・・、と言うかなんで動かせない!無敵モードのはずなのに!」

「そんなもの、この時のクーネにある訳無いだろう?今のお前は力無いただの村娘なんだよ。」

「な・・・。そ、その声を止めろ・・・。お前は、誰、だ!?」


 驚きと屈辱、そして鳥肌が立ってきそうな声。考えたくないと思うものの察しは付いていた。


「わかってるんだろ?俺は倉田政示だ。お前だよ。さぁ続けようか!」


 やっぱり、と小さくつぶやく。そして頭を捕まれ無理矢理クーネの両親の殺害シーンを見せられ、はねられた首が狙ったかのように目の前へと落ちる。

 クーネの両親、設定の中ではまだデザインすら出来ていない、ルマー村の人々。そのはずだった。だが、今目の前にある2つの首は・・・。


「え・・・、父さん、母さん・・・?」

「言っただろう、少し趣向を凝らそうと。リアルさを出すために今ここで襲われているのは俺の、お前の記憶にある人々だよ!」

「あ・・・、え・・・?」


 倉田政示はクーネから離れ、セイジを座らせる。そして2つの首を拾い上げ、セイジの抱きかかえさせた。


「どうだい?目の前で両親を殺された気分は。この時のクーネの気持ちがはっきりわかっていいネタになるだろう。」

「う、うあああぁぁぁ!」


 抱えていた首を投げ出し、走り出すセイジ。その後姿に


「せっかくだからいろいろ見てまわってクーネの感じた絶望を味わってみたらどうだ!この作品とやらを書くのに最高の資料になるだろうよ!」


 倉田政示が叫ぶがセイジの耳には入らない。とにかく逃げ出す事で精一杯だった。


 燃え盛る炎の中、不思議なことに熱さは感じず、溢れかえる魔物たちも、まるでセイジがそこにはいないかのように素通りして行き破壊と殺戮を繰り返す。

 だがセイジ本人はその事にすら気が回らず、とにかくその場から逃げようと足を動かすのだが・・・。


「はぁはぁ・・・、何だこれ全然進めねぇ・・・!」


 力の限りで足を踏み出すもののその動きは非常に遅く、だが体力の消耗だけは非常に激しい。

 例えるならば、ねっとりとした液体の中をそれと気付かずに進もうとしているような。

 そんな感覚の中、セイジは何かに足を取られ転倒してしまった。ゆっくりと躓いてしまったものに目を向け、そして息を飲んだ。


「っ・・・!近くのコンビニの店員・・・!?」


 辺りを見回すと行く手を阻むように、いつのまにか積み上げられた死体の山。いくつかは真っ黒に塗りつぶされた顔なのだが、よく見ればその死体の中には・・・。


「いつもの配達員・・・、あれは隣の住人も・・・、編集長まで・・・。」


 知っている顔が死体となっていくつも見つかる。そしてセイジの前へと新たに放り投げられた死体。


「お、沖田君!?」


 担当編集であった『沖田 隆』だとわかり抱え上げる。だが首はだらしなく垂れ下がり当然息はしていない。


「どうだい、少しは参考になったかい?自分の知っている人が目の前で死んでる気分なんてそんなに味わえるものじゃないからいい経験になっただろう。」

「な、んで・・・。こんな事を・・。」

「なんで?それを言うのか。この出来事は元々お前が起こしたことなんだろう?ただそれを記憶を元に再現して、村人達をお前の記憶の人達に変えただけだ。」


 倉田政示が言い放つと同時に全てが消え、一瞬にして大平原へと移動する。


「ここは・・・。」

「見覚えないか?ソーグ草原だよ。さぁセイジ、次の惨事を経験しようか。」

「ソーグ・・・、次の惨事・・・?」


 クーネの記憶にある、ソーグ草原の惨事。それはつまり・・・。


「待っ・・・!嘘だろ!?そんなのオ・・・タシは経験したくない!あんな目には遭いたくない!・・・え?口調が・・・。」

「そうそう、今度は相手もいるんだしちゃんとクーネを演じてくれないとね。途中まではあな・・・お前の意思なんて関係無しに行ってみようか。」

「や、やだやだやだ!あんな目に遭わされたら私死んじゃう!嫌だ死にたくない!お願い助けて!」

「・・・ねぇ、その言葉、何人もの男に襲われているとき何度もクーネは叫んでたよ。でも助けなんか来なかった。ボロボロにされた挙句、死んだ後でも玩具にされてた!」


 倉田政示が助けを請うセイジに怒鳴りつける。


「あなた・・・、いえ、まさかキミは・・・。」

「あはは、誰でもいいでしょ、俺のことなんか。お前はクーネが受けた出来事を感じてくればいいのさ。」


 そういうと倉田政示は自分の前へ手をかざす。そこに半透明のノートパソコンが現れ、そのまま操作をし始めた。


「え、それは・・・まさか?」

「あぁ、やっぱり見えるんだ。そう、確か『ぱそこん』っていうんだっけ?やり方はずっと見てたからなんとなくわかるよ。

 こう文字を打っていけばいいんだよね。嬉しいことにこの体のおかげで文字は理解出来るから後は慣れかな。」


 文字を探しながらゆっくりと何かを打ち込み決定をする倉田政示。その瞬間クーネが纏っていた衣服が全て消え、一糸纏わぬ姿となる。

 小さい悲鳴とともに慌てて身を丸めようとするが、金縛りにあったように動けなかった。


「ダメだって。・・・ふーん、この身体が後であんな風にされるのかぁ。」

「い、いや、だ・・・・、助けて・・・。」

「一ついいこと教えてあげるよ。クーネはここで殺されるけどさ、死ねば俺のことを忘れて現実に戻れるよ。そういう風に設定しておいた。」

「え、それじゃ・・・!」

「おっと、だからって自殺はさせない。させる訳が無い。しっかりと死ぬまでの経験を味わっておいで。じゃあ『逝ってらっしゃい。』」

「や、やだあぁぁぁ!!お願い!殺して!助けて!!クー・・・!」


 セイジの叫び声もむなしく、複数の男に引きずられ洞窟の中へと消えていく。


「死にたかった時に死ねないで、生きようと決意したら殺されて・・・。死んだと思ったのに気付いたら勝手に私が動いてて・・・。

 よくわからないけど貴方が原因らしいし、私と同じ絶望を感じさせても文句は無いよね・・・。元々私の身体なんだし、なにより貴方に作られたらしいこの世界なんか・・・。」


 洞窟の入り口を見つめながら倉田政示はつぶやくが、聞くものは誰もいない。

 少しの静寂の後、一言残し倉田政示の姿は消えた。



「滅びてしまえ」



 と。

更新ペースが遅くてごめんなさい・・・。

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