27話目
ちょうどいいところまでと進めていたら少し長めになりました。(約4500字)
エルミスが落ち着きを取り戻し、しばらく待っているとネィルだけが小屋から現れ、クーネの元まで来ると軽く蹴りつけてきた。
「痛っ!?なにする・・・」
「余計な気を回してくれた礼だ馬鹿者。お前に悪気が無かったのはわかっているつもりだが、あまりこういうことはするな。」
「どういう意味よ?私はあなたとルシールの事を・・・。」
「それが余計な真似だと言うのだ。」
顔には出していないが口調に少し怒っている様子を見せるネィルに、クーネは理由がわからずつい言い返してしまう。だがそんなクーネを諭すようにネィルは口を開いた。
「よいか?本来なら私は既にこの世にいない存在なのだ。お前が蘇らせてくれた事そのものには感謝はするが、それは起き得る事象ではない。以前にも言ったが死んだ者が生き返るなどあってはならないのだ。
よく考えてみよ。一度死に別れた者が再び現れたとき、確かにその時は喜ぶことだろう。だがそれは、言い換えれば再び死に別れる悲しみが訪れる事があるかもしれないということだぞ?
ルシールが私に好意を持っていたことは知っていた。そんなあいつが私が死んだと知ったときのショックは計り知れないものがあっただろう。」
そこまで言われ、やっと怒っている理由を知ったクーネはうなだれ、その様子を見ていたエルミスがネィルの言葉を止めた。
「ネィルさん、もういいでしょう。ネィルさんの言うことにも一理ありますが、私からすればクーネさんのおかげでお父様と再会できたのです。それ以上はもうお止め下さい。」
「・・・いや、すまん。言い過ぎた。さっきも言ったがクーネに悪気が無かったことは理解しているのだ。ただ結果的にルシールを再び泣かせてしまったことを思うとな。すまなかった。」
「ううん、いいよ。ネィルの言うとおり私の考えが足らなかった。死んだ人が生き返れば親しい人は喜んでくれる。でもその後のことまでなんて考えたこともなかった。ごめんなさい。」
しばらく重い沈黙が続いたが、その空気を壊すようにネィルが無理やり話題を振った。
「そ、そうだクーネよ。先ほどのルシールとの会話の中で随分と必死に聞いていたが何かあったのか?」
「あ、あぁそうね。そのことも話しておかないと。少し気がかりな事があるのよ。もしかしたらまた大きな争いが起きるかもしれないほどの事が・・・。」
「それは聞き捨てならんな。聞かせてくれ。」
エルミスも頷き、2人はクーネの返事を待つ。その2人に対してクーネは、
「その前に確認したいことがあるの。ルシールの一件だけじゃまだ確証もてないからあなた達にもいくつか質問させて。」
そう言うと最初にエルミスへと問いかける。
実は物語の中においてエルミスは意識があったと言うことが無く、性格については明かされていなかった。
今までの付き合いで特に問題は無かったのだが、今回の一件で気になることが出来た。それは・・・、
「ねぇエルミス。もしかしたら答えにくい質問かもしれないけど、大事なことだから教えて欲しい。この世界に来る前って荒れてる時期があったりした?悪い事もそれなりにしたりとか。」
「え!?いえ、その・・・。荒れてたと言うか、親に対しての反抗期というか、そういうものでしたら・・・。悪い事は・・・して、ない、です。」
ネィルのほうをチラチラと身ながら最後の方は声が小さくなる。それに気付き、
「どうしたの?ここには私だけでお姉ちゃんのお父様はいないよ?別にお父様に言いつけたりなんてしないから言っちゃえば?」
にこやかに言い放つ。
不機嫌そうに睨み言葉を詰まらせるエルミスだったが、クーネは気にせず先へ進める。
「あぁ、別に何をしたかとかは聞くつもりは無いの。「はい」か「いいえ」だけでいいのよ。最も今の態度で十分答えはわかったけどね。
それで今度は二人に聞きたいのだけど、家族構成は母のネィラと父バルギス、それに娘のエルミス、そしてもう一人、息子の、エルミスの弟っていた?」
質問に対し両者が顔を見合わせ同時に口を開くが、お互い逆の答えが飛び出し、ビックリして再び顔を見合わせる。
「待ってください、私に弟なんていませんよ。も、もしかしてお父様、私がこちらに来てる間にお母様と・・・?」
「待て、子供の頃二人してやんちゃをしては我らを困らせていただろう?お前がいなくなってからのあいつの落ち込みようは見ていられなかったぞ?」
意見を言い合い不思議そうな顔をする。だが、すぐに変化が現れたのはエルミスのほうだった。
昔を思い出すように頭を抑えうなり始めると、
「あれ・・・、弟なんていなかった・・・はず。本当に?何かもやもやした記憶が・・・。これって・・・?」
「おい、本当に覚えてないのか?息子の、お前の弟の『アグナ』の事を!?」
ネィルの発した名前にハッとなり、エルミスの記憶の中にかかっていたもやが文字通り霧散し、明確に過去の映像が映し出された。
「そう、そうよ。アグナ、弟のアグナの事を何で私は忘れてたの?小さい頃いつも私の後を付いてきてたのに。」
「思い出したか・・・。こちらの世界での出来事で記憶障害か何かにやられていたのか?だが良かった・・・。」
「良くない!!」
クーネから出た言葉に驚き顔を覗き込むと、今まで見たこと無いほどの険しい顔だった。
「あ、あのクーネさん・・・?」
「ごめん、もういくつかだけ質問させて。でも多分、これは・・・。」
その後も険しい顔のまま続き、質問が終わると同時にしゃがみこみ考え事を始めてしまった。
数分の沈黙の後に顔を上げたクーネは泣きそうな、悔しそうな、そんな複雑な表情で口を開いた。
「この世界、私のせいで滅茶苦茶になっちゃってるみたい・・・。」
ルシールのところで銃が見つかった時に、何故没案がここにあるのだろうと不思議に思っていた。
その後ルシールが銃を閃いた時と倉田政示と言う存在が来た時期が同時期だったと聞いた時に「まさか」と言う考えがよぎった。
そしてネィルとエルミスへの質問。これは物語中には描かれておらず、いつか書こうと考えていたことや、ストーリー上矛盾が生じてしまうために、銃の件と同じく没にした案だった。
先ほどのネィルとエルミスの『アグナ』の話のとき、知らなかったはずのエルミスが『忘れていた』と言う事実に書き換わった瞬間を目撃し、その後の質問で確信してしまったのだ。
よく思い出してみれば今の『倉田政示』であるクーネにしても、新しい話を考えて、まだ形にすらしていない状態のはずの存在であった。
構想中、あるいは没にした案すべてが矛盾したまま存在してる状況。そしてこの世界の人達の記憶もそれに合わせようと書き換えられていっている。
もし明確な矛盾を目の当たりにした時に記憶の書き換えが行われたら、その人はどうなるかわからない・・・。
それが人の記憶でなく、世界その物に矛盾が生じたら・・・。
クーネの説明を聞き、再度訪れる沈黙。それを破ったのはネィルだった。
「ふん、くだらん。確かにクーネ、いやセイジは我々の及びも付かない存在なのは認めるが、さすがに信じられん。そういう出来事が起きたのならば認めるが・・・。」
「今、目の前でエルミスの記憶の書き換え、改竄が起きたでしょう。それはどうなのよ?」
「馬鹿を言うな。あれは単にエルミスが忘れていただけであろう?こいつの物忘れと世界の危機を一緒にするには拡大解釈にも程があるだろう。」
ネィルの言葉にクーネは一つ理解した。
この世界を作ったからこそ違和感に気付けるのであり、その世界に住むものにとってはそれが普通なのである。
クーネにとっての違和感も、ネィル達には都合がいいように解釈、皮肉にもネィルが言ったとおり「拡大解釈」されてしまうのである。
この時一瞬だけ、本当に一瞬だけだがクーネの心の中に理解されない寂しさと、自分と言う人間と物語の中のキャラクターという溝があり、心の深いところにある孤独という物を感じてしまった。
「・・・そうね。考えても仕方ないし、起こってから考えるしかないのかな。正直それじゃ遅いかもしれないけどね。」
「そういう事だ。矛盾を抱えてこの世界は存在するといっていたが、世の中矛盾と折り合いをつけて生きていくものだろう?お前に心配されなくとも既に矛盾だらけの世の中よ。あっはっは!」
「はぁ、ネィルのその図太さが羨ましい。というか欲しい・・・。とりあえず、この先起こりえそうであなた達に関係がありそうなことを話しておくわ。」
ため息混じりに語りだすクーネ。そしてその内容を聞き笑顔のまま凍りつくネィル。エルミスは普通に驚いていた。
『アースランド・ファンタジー』の後日譚としていくつか構想を練っていた案の一つ、その中にネィルの妻、つまりバルギスの妻でありエルミスの母親である『ネィラ』がこの世界に現れ、バルギスの仇を討つべくジグラッドと戦うという案があった。
もし予想通りに全ての構想案がこの世界に起こるとするならば、近いうちにネィラが出現することになるのである。
・・・ちなみにバルギスは恐妻家と言うわけではないが、怒っている時のネィラには近付きたくない、と思うくらいの苦手意識があった。
それなのに、この世界に出現して仇を討つために戦う、と言うのだから怒っているのは明白である。
ネィルが凍りついたのはそういう理由があるのだった。
「まぁ、確かにネィルの言うとおり起こってからじゃないと何も出来ないかもしれないからねぇ。ネィラに会える事を楽しみにしましょう。ね?」
「いや、まぁ待て。やはり何かしら対策は立てておいて損は無いと私は思うぞ?うん、対策は大事だ。」
笑みを消し真顔で提案するものの、先ほど自分が言った言葉をそのまま返され口ごもる。
挙句、腕を組み本気でうなり始めたネィルに対し、
「あはは、ごめんごめん。なるようにしかならないとは思うけど、きっと大丈夫でしょ。
あくまでネィラが暴れるのはバルギスが殺された仇討ちと言う名目な訳で、少なくとも今のこの世界には生き返ってるんだし、父娘の無事な姿が確認できれば暴れることは無いとおもうよ?」
「・・・だといいがな。」
先ほどとは逆にクーネが笑い、ネィルがため息をつく。
だが、クーネにとってもこれが本音でだった。この件はバルギスが死んでいることが前提の案であり、生きていた場合はどうなるのかなどの案は考えていない。
前提から崩れてしまっている案も起こりえるのか?それとも消滅してしまうのか?この矛盾が起きた時、この世界はどうなってしまうのか・・・?
本当は防ぐ手段もあるにはあるのだが、どうなるのかと言う好奇心が勝ってしまい口にすることは無かった。
「さぁカッツと合流する前にいろいろ準備しておかないとね。ほらネィル、帰りましょう?」
今だ難しい顔のネィルを抱え上げると、エルミスの肩へと乗せ肩車をしてもらい、そのままエルミスと一緒に歩き始めた。
おとなしくやり取りを見ていたエルミスも、驚きはしたが母親に会えるかも知れないという気持ちが少しだけ上回り嬉しそうにしているのだった。
リアル仕事のため少しの間お休みします。
落ち着いたら再開するつもりなのでしばらくお待ち下さい。
出来るだけ早く帰ってくるぞ!(気合)




