第8話 終わらなくない?
帝国軍共用食堂。
昼。
鉄の食器が鳴る。
油の匂いと笑い声。
セナは端の席で、フォークを指で回していた。
料理は半分残っている。
「……退屈だにゃあ」
トレーが勢いよく置かれる。
「セナさん!」
ユウリだ。
息が上がっている。
「今日の戦闘、見ました!」
「やっぱりすごいです!」
セナは顔を上げない。
「んー、何が?」
「駐屯地まで追撃したじゃないですか!」
「帝国のためですよね!」
セナは小さく笑う。
「帝国のため、ねえ」
横から静かな声。
「隣、いいかな」
細身の青年が立っている。
「お隣さん、どーぞ」
青年は軽く頷く。
「ありがとう」
トレーを置く。
ユウリを見る。
「初めまして。DC3rdのエル・セルドです」
ユウリは一瞬だけ止まり、すぐに背筋を伸ばす。
「第6部隊、ユウリ・ラシアルです!」
「よろしくお願いします!」
エルは柔らかく微笑む。
「こちらこそ」
自然な空気。
セナは横目で見ながら言う。
「で、お隣さん」
「今日は何のチェック?」
エルは穏やかに。
「君の行動記録」
「独断追撃の件だ」
ユウリがすぐに言う。
「でもあれは帝国のためですよ!」
エルは否定しない。
「結果としてはそうだ」
「ただ、二日で取り返された」
ユウリが止まる。
「……え?」
セナはフォークを置く。
「早かったよねー」
静かになる。
セナがぽつりと言う。
「ねえ」
「これ、終わらなくない?」
ユウリは真っ直ぐ言う。
「勝てば終わります」
迷いがない。
エルは穏やかに言う。
「勝ちすぎれば、修正が入る」
「傾きすぎないようにする力がある」
ユウリは首を傾げる。
「修正?」
エルは笑う。
「比喩だよ」
セナは椅子に深く座る。
「取られたら取り返す」
「潰したら建て直す」
「また戦う」
指先で机をとんとん叩く。
「……なんかさ」
「リセットボタンでも押されてるみたいじゃない?」
ユウリは戸惑う。
「守るためです」
「家族とか、街とか」
セナはその顔を見る。
ほんの少しだけ目を細める。
「そっか」
小さく笑う。
「それなら、まあ」
エルが静かに問う。
「壊せると思うかい?」
セナは肩をすくめる。
「作れるなら、壊せるでしょ」
冗談のように。
でも目は笑っていない。
ユウリが慌てる。
「何を壊すんですか?」
セナは立ち上がる。
トレーを持つ。
「さあね」
「なんか、つまんないだけ」
歩きながら小さく呟く。
「……薄いんだよなあ」
戦いも。
勝ち負けも。
怒号も。
全部、どこか軽い。
振り返らない。
食堂の喧騒が背中に遠ざかる。
エルはその背中を静かに見ている。
観測するように。
ユウリは小さく言う。
「セナさんって……」
エルは穏やかに答える。
「まだ、決めていないだけだよ」
セナは廊下で伸びをする。
腕を上げて、ぐっと。
「はー……」
空気が重いのか、軽いのか。
よく分からない。
でも。
「終わらないなら」
「終わらせればいいのに」
その声は、誰にも聞こえなかった。




