第7話 逸脱
カルネア連邦
地下観測区画
GRASP-QΣ《クインヘイデス》の戦闘ログが静かに再生される。
任務完了。
撤退。
――のはずだった。
だが軌道は曲がる。
独断追撃。
共和国駐屯地の単機制圧。
結果:均衡への影響、軽微。
再奪還時間:34時間。
観測管が口を開く。
「結果は問題ない」
「だが過程が逸脱している」
命令通信。
《戻れ、セルド》
応答なし。
「DC3rdは兵士だ」
「命令体系からの逸脱は、製品不良の可能性を含む」
静かに、記録が更新される。
セナ・セルド
観測対象 → 重要観測対象
「均衡干渉因子の疑い」
「継続監視」
光が落ちる。
観測は強化された。
⸻
帝国簡易都市区画・屋上。
夕焼け。
セナは大きく伸びをする。
「はー……」
撤退戦。
追撃。
怒号。
全部、もうどうでもいい。
「つまんないにゃあ……」
背後に足音。
振り向く。
黒の軍服。
同じ研究所徽章。
同年齢。
静かな目。
男は言う。
「初めまして」
「僕はDC3rd、エル・セルド」
一拍。
「今日から君の隣だ」
それだけ。
セナは片目を細める。
「へえ」
「同ロット?」
「そうだよ」
淡々。
距離を詰めない。
だが離れもしない。
セナは屋上の縁に腰を下ろす。
「で、お隣さんは何しに来たの」
エルは少し首を傾げる。
「同じ部隊だしね」
「自然な配置だと思うよ」
言葉は穏やか。
だが視線は逃げない。
セナはじっと見返す。
「ふーん」
「監視とか?」
エルは一瞬だけ笑う。
「そう見える?」
否定しない。
肯定もしない。
それが答えみたいだった。
セナは髪をくるりと指に巻く。
「めんどくさ……」
でも。
口角が少し上がる。
「まあいっか」
「退屈よりはマシかもね」
エルは視線を空へ向ける。
「退屈?」
「終わらなくない?」
セナが呟く。
戦争。
奪って、奪い返して。
エルは少しだけ考える。
「終わらない方が都合のいいものはある」
言い切らない。
情報を渡しすぎない。
セナは横目で見る。
「へえ」
「なんでも知ってる感じ?」
「少しだけ」
沈黙。
風が吹く。
エルは動かない。
一定距離。
一定視線。
一定温度。
セナは立ち上がる。
「そ、よろしくお隣さん」
エルは軽く頷く。
「よろしく、セナ」
セナは歩き出す。
背後に足音。
同じリズム。
「……ほんとに来るの?」
「隣だからね」
セナは小さく笑う。
「うわー、やっぱめんどくさー」
でも。
退屈ではない。
少なくとも、今は。




