第49話 消せない残響
夜。
共和国軍本部。
格納庫。
巨大な白い機体が静かに眠っている。
REVR-IV。
フィーナは一人でそこに来ていた。
誰もいない。
整備員も。
兵士も。
夜の格納庫は静かだった。
足音だけが響く。
ゆっくり歩く。
アルテミスを見上げる。
大きい。
美しい。
白い装甲は、まるで花のようだった。
白百合。
誰かがそう呼んだ。
フィーナは小さく息を吐く。
「……」
胸の奥が重い。
昼間の言葉が離れない。
LNS。
均衡。
戦争の調整。
そして。
残響。
グレイヴスの声。
――レイも。
消える。
フィーナは目を閉じる。
ゆっくりと梯子を登る。
コックピットを開く。
中へ入る。
席に座る。
接続端子が光る。
アルテミスは反応しない。
接続しない。
ただ、座る。
それだけ。
暗いコックピット。
静か。
その静寂の中で。
聞こえる。
残響。
小さな声。
「フィーナ」
フィーナの肩が震える。
「……」
声は続く。
同じ言葉。
「フィーナ」
それだけ。
何度も。
何度も。
繰り返される。
フィーナは両手で顔を覆う。
「……レイ」
残響は続く。
「フィーナ」
声は優しい。
変わらない。
あの日と同じ。
フィーナの目から涙が落ちる。
「……ごめんね」
声は止まらない。
「フィーナ」
フィーナは震える。
「……私」
言葉が詰まる。
胸が苦しい。
分かっている。
これは。
残響。
記録。
本当のレイじゃない。
でも。
でも。
消える。
全部。
この声も。
この記憶も。
「……いや」
涙がこぼれる。
残響は続く。
「フィーナ」
その後。
もう一つの言葉。
「愛してる」
フィーナの呼吸が止まる。
その二語だけ。
何度も。
何度も。
「フィーナ」
「愛してる」
同じ声。
同じ温度。
同じ残響。
フィーナは泣きながら笑う。
「……ずるい」
震える声。
「こんなの」
「消せるわけ……」
涙が止まらない。
肩が揺れる。
「レイ」
残響は答えない。
ただ。
繰り返す。
「フィーナ」
「愛してる」
それだけ。
フィーナは前に倒れる。
コックピットの縁に額を当てる。
泣く。
子供みたいに。
静かな格納庫。
誰もいない。
夜だけが見ている。
フィーナは小さく言う。
「……ごめん」
涙の声。
「私」
「消したくない」
声が震える。
「レイを」
「消したくない」
その言葉は。
戦争よりも。
正義よりも。
重かった。
アルテミスのコックピットの中で。
白百合は。
泣いていた。




