第48話 残響の檻
カルネア連邦。
中央区画。
白い廊下。
静まり返った空間。
扉が開く。
小さな個室。
窓はない。
丸いテーブルが一つ。
向かい合う椅子。
そこに、グレイヴスが座っていた。
フィーナが入る。
紺色の軍服。
白髪が静かに揺れる。
グレイヴスは穏やかに立ち上がる。
「お忙しい中、ありがとうございます」
フィーナは軽く会釈する。
「代表直々の呼び出しですから」
二人は座る。
短い沈黙。
グレイヴスが口を開く。
「本題に入りましょう」
フィーナの視線が静かに向く。
「例の所属不明機」
「UN-Σ《バスティト》」
「そして」
一拍。
「セナ・セルド」
フィーナの指がわずかに動く。
「……ええ」
グレイヴスはゆっくり続ける。
「あなたは既に理解していると思います」
「彼女は、均衡の外側にいます」
フィーナは静かに言う。
「均衡」
「それが、カルネアの役割ですか」
グレイヴスは微笑む。
「役割、というより」
「必要性ですね」
机の上に端末が置かれる。
映像が浮かぶ。
LNS構造図。
残響波形。
戦場データ。
フィーナの眉が寄る。
「これは……」
グレイヴスが説明する。
「LNS」
「すべてのREVとGRASPに搭載されている装置です」
フィーナの声が低くなる。
「知っています」
グレイヴスは首を横に振る。
「いいえ」
「王女が知っているものは、表の説明です」
画面が切り替わる。
戦場。
接続率。
残響波形。
均衡値。
「LNSは」
「接続装置ではありません」
グレイヴスは穏やかに言う。
「戦争の調整装置です」
フィーナの目が見開く。
「……何」
グレイヴスは淡々と続ける。
「過剰な接続」
「戦局の偏り」
「崩壊の兆候」
それらを検知し。
補正する。
「戦争が一方的に終わらないように」
「調整する」
フィーナが立ち上がる。
椅子が大きく音を立てる。
「そんなもの……!」
怒りが滲む。
「戦争を管理しているというのですか!」
グレイヴスは動じない。
「はい」
静かな肯定。
「それがカルネアです」
フィーナの拳が震える。
「ふざけないで」
「どれだけの人が」
「どれだけの命が……」
グレイヴスは遮らない。
怒りを受け止める。
それから穏やかに言う。
「王女」
「戦争は止まりません」
フィーナの呼吸が荒い。
「人間がいる限り」
「争いは続きます」
「ならば」
一拍。
「制御するしかない」
フィーナは言葉を失う。
⸻
グレイヴスは端末を操作する。
別の映像。
UN-Σ《バスティト》。
残響波形。
「問題は彼女です」
「セナ・セルド」
「バスティトにはLNSが存在しません」
フィーナは静かに呟く。
「……フィルタ無し」
グレイヴスが頷く。
「そう」
「彼女は均衡に干渉できます」
モニターが切り替わる。
巨大な施設。
地下。
無数の演算装置。
中央に巨大な核。
グレイヴスが言う。
「LNS中枢」
「均衡の中心」
フィーナが息を飲む。
グレイヴスは続ける。
「彼女は、そこに来ます」
「性格」
「思考」
「行動傾向」
「すべて一致している」
フィーナはゆっくり言う。
「……止めなければ」
グレイヴスは静かに頷く。
「ええ」
一拍。
「壊されれば」
「戦争は変わる」
フィーナの視線が揺れる。
グレイヴスはさらに続ける。
「そして」
声が柔らかくなる。
「残響も消える」
フィーナの心臓が強く鳴る。
「……」
グレイヴスは優しく言う。
「アルテミス」
「あなたの機体」
「残響共有機体」
フィーナの呼吸が止まる。
グレイヴスの声は穏やかだった。
「LNSが消えれば」
「残響も消えます」
「共有も」
「記録も」
「すべて」
静かな一言。
「レイ・セルドも」
沈黙。
フィーナの手が震える。
アルテミス。
コックピット。
レイの声。
残響。
そこにいる。
確かにいる。
それが。
消える。
グレイヴスが静かに言う。
「王女」
「あなたなら」
「理解できるはずです」
「何が守るべきものか」
フィーナの目が揺れる。
怒り。
恐怖。
迷い。
全部が混ざる。
分かっている。
断るべきだ。
でも。
胸の奥にあるものが。
邪魔をする。
アルテミス。
残響。
レイ。
フィーナは目を閉じる。
声が震える。
「……私は」
言葉が続かない。
グレイヴスは急がない。
ただ静かに待つ。
フィーナはゆっくり目を開く。
まだ。
答えは出ていない。




