第45話 イレギュラー
共和国前線。
小規模衝突。
いつもの戦場。
REV部隊と帝国GRASP部隊。
撃つ。
斬る。
退く。
取り返す。
均衡。
いつもの光景だった。
⸻
空に影が落ちる。
いや。
空ではない。
滑走音。
砂煙。
共和国のREV部隊が一斉に振り向く。
識別不明。
所属不明機。
赤紫の装甲。
橙の発光ライン。
そして――
変形。
四足。
獣のような機体。
「な……?」
通信が乱れる。
「識別不明機接近!」
「共和国機じゃない!」
「帝国でもない!」
次の瞬間。
地面を蹴る。
異常な加速。
バスティト。
戦場へ突っ込む。
⸻
帝国GRASP部隊。
指揮官が叫ぶ。
「迎撃!」
振動刃。
銃撃。
弾幕。
全部。
当たらない。
バスティトが滑る。
跳ぶ。
回る。
獣のような軌道。
大型ブレードが振り下ろされる。
GRASPが真っ二つになる。
次。
横回転。
小型ブレード。
コックピット破壊。
次。
胸部電磁砲。
閃光。
三機消える。
共和国兵が呆然とする。
敵も味方も関係ない。
バスティトは。
ただ。
戦場を壊していた。
⸻
コックピット。
セナは笑っていた。
「やっぱりこれ」
「気持ちいい」
操縦桿を握る。
「フィルタ無しって」
「こんな感じなんだ」
残響が直接流れ込む。
痛くない。
重くない。
ただ。
澄んでいる。
「……あー」
「なるほど」
セナは少し納得する。
この世界の機体。
全部。
抑えられている。
だから。
壊れない。
だから。
終わらない。
「ほんと」
「気持ち悪い世界」
⸻
共和国通信。
「所属不明機!」
「戦場を崩壊させている!」
「味方識別無し!」
「どうします!」
指揮官が怒鳴る。
「撤退!」
「戦線維持不可能!」
帝国側も同じだった。
撤退。
両軍が下がる。
戦場が消える。
バスティトだけが残る。
砂煙の中。
静かに立っている。
⸻
コックピット。
セナは外を見る。
誰もいない。
戦場が無い。
「ほら」
小さく呟く。
「壊れるじゃん」
「均衡」
バスティトが変形する。
強行離脱形態。
ホバーバイクのような姿。
加速。
戦場から消える。
⸻
その瞬間。
世界の奥。
カルネア連邦。
地下中枢。
観測室。
膨大なモニター。
残響波形。
戦場データ。
解析官が声を上げる。
「LNS反応異常!」
「均衡値急落!」
「調整不能!」
室内が静まる。
中央席。
観測官が静かに言う。
「対象確認」
画面に映る。
UN-Σ《バスティト》
そして。
パイロット。
セナ・セルド。
観測官が目を細める。
「イレギュラー」
一拍。
「これは」
「均衡破壊因子」
端末が開かれる。
通信。
暗号回線。
送信。
帝国。
共和国。
両国の内部。
潜伏員へ。
命令が送られる。
⸻
《通達》
対象:セナ・セルド
分類:イレギュラー
脅威:均衡破壊因子
処理指示:
最優先排除対象
⸻
世界のどこか。
帝国の研究室。
共和国の軍本部。
潜伏していた者たちが
同時に
同じ命令を受信する。
⸻
その頃。
森の奥。
バスティトが停止する。
セナは伸びをする。
「ふあー」
「いいね」
「楽しくなってきた」
モニターには。
各地から集まる信号。
追跡。
捜索。
警戒。
セナは笑う。
猫みたいに。
「わ」
「全部敵だ」
少し嬉しそうに。
「退屈しなそーじゃん」




