第44話 止まらない理由
カフェの中。
午後の光。
パフェのグラスが空になっている。
フィーナはしばらく黙っていた。
言葉が出ない。
聞きたいことは山ほどある。
でも。
どう聞けばいいのか分からない。
やっと口を開く。
「……やめて」
セナが首を傾げる。
「なにを?」
「あなたが」
言葉が詰まる。
「……戦場を壊すの」
セナは少し考える。
それから。
「やだ」
あっさり。
フィーナは目を伏せる。
予想はしていた。
でも。
胸が少し痛む。
「どうして」
セナはスプーンを指で回す。
「止まる理由がないから」
フィーナは言葉を探す。
でも。
見つからない。
止めたい。
確かにそう思っている。
でも。
止めるってことは。
この戦争を続けること。
それを認めること。
胸の奥が、少しだけ冷える。
「……」
フィーナは視線を落とす。
セナが見ている。
静かな目。
「言えないでしょ」
フィーナが顔を上げる。
セナは小さく笑う。
「止めるってさ」
「この戦争、続けるってことでしょ」
フィーナは答えられない。
沈黙。
店の中の音が遠くなる。
セナが続ける。
「別にさ」
「戦争終わってほしいとか思ってないよ」
フィーナが驚く。
「……え?」
セナは肩をすくめる。
「だって」
「人間ってそういうもんでしょ」
争う。
奪う。
戦う。
それ自体は、別に変じゃない。
でも。
「今の形が」
セナは窓の外を見る。
「気持ち悪い」
静かな声。
「壊れない戦争」
「崩れない戦場」
「ちょうどいい死人」
フィーナの背中に冷たいものが走る。
「調整されてる」
「それが気持ち悪い」
セナはフィーナを見る。
まっすぐ。
「フィーナは?」
フィーナは答えられない。
戦争は。
悲しい。
残酷。
終わらせなきゃいけない。
そう思っている。
でも。
終われば。
レイは消える。
アルテミスの残響も。
思い出も。
全部。
「……」
セナが小さく息を吐く。
「やっぱり歪んでる」
優しい声だった。
責めていない。
ただ。
言っただけ。
フィーナは苦く笑う。
「……うん」
「そうだと思う」
セナが椅子から立つ。
「じゃ」
フィーナが顔を上げる。
「どこ行くの」
セナは少し考える。
それから。
猫みたいに笑う。
「試しに」
フィーナの胸が強く鳴る。
「なにを」
セナは軽く手を振る。
「この世界」
そして。
カフェの扉を開ける。
午後の光が入る。
セナは振り向かない。
ただ。
一言だけ残す。
「ちゃんと壊れるか」
扉が閉まる。
フィーナは動けない。
胸の奥で。
あの言葉が、また響く。
――終わるのかな?戦争。




